第7話 婚約者(仮)を巻き込んでみよう

 しばらくお互い黙々と食べていたが、ガイアスが先に話しかけてきた。


「まあ正直君を許せるかはわからないけど……とりあえず謝罪は受け入れるよ」


「うん。それとさ、相談もあってね?コレなんだけど……」


 私の手にあるのは特製アミュレット……というか、魔石に直接文字を刻んだもの。


「ナニコレ」


「見ててね。リトル・ファイア」


 魔石が作動し炎が出る。


「……………は?」


 そしてガイアスは何度も魔石と私を見る。


「石に特定のワードを刻むと魔法書代わりになるの」

「すごい発見じゃないか!!刻まれてるのは3文字だけ……?見たことない文字……文字なのか?絵?片方は炎みたいだけど、古代文字か何か?!見たことない文字だ!コレだけで作動するのは君の魔力が高いから?ねえちょっと僕も使ってみていいかな?これは世紀の大発明では?!」


 ちなみに少しでも短くしようと漢字で『炎』『発動』と刻んである。日本語でも作動するんだわ、不思議。


「どうぞどうぞ。なんならソレ、あげるけど」

「いいの?!」


 大変食いつきがいい。予想以上に興味津々みたいで何より。


「いくつかあるから別に……あ、ブレスレットにはめ込むとなくさないよ。予備があるからこれもあげる」

「いいの?!ほんとに?!」


「うん」


 長い前髪で見えないが、ものすごく喜んでいるのはわかる。私とお揃いになるが拒否られたらムカつくので黙っておいた。沈黙は金。


「それで、相談って?これだけいいものをもらったんだもの。とりあえず聞いてあげるよ」


「うん、まさに今持ってるソレなんだけどさ………」


 できたらいくつかの魔法を使えるようにしたい。フリージア先生にもらった魔石は透明……つまり無属性なのでこれ1つに複数魔法いけちゃうのでは?と思っている。問題はその方法なのだ。


「なるほどね……。その石、ちょっと借りても?」


「うん」 



 ガイアスは石を調べてから返してきた。


「他に似たような石ある?いくつか思いついたから試してみたい。要は文字を複数刻むか字を書ければいいんだね?」


「あるよ。このサイズはないけど小さめなら。そうそう。せっかくいい魔石もらったから複数魔法使えたらいいなって」


 あらかじめ用意しておいた小ぶりで透明な魔石をいくつか彼に渡す。


「充分充分。この魔石に何を混ぜるべきか……。いっそ砕いて………。こないだ研究でできたあのインク使えないかな……?あ、もらった小さいのは壊しても問題ない?」


「もちろん。そう簡単にできると思ってないし。正直私だけじゃ手詰まりでさ。ガイアスめちゃくちゃ頭いいから知恵を借りたくて…………ガイアス?」


 耳が赤い。そして下を向いている。え、熱でも出た?


「ま、ま、まあそりゃ君より頭が良いって自覚はありますけどぉ?と、とりあえずいくつか思いついたのを試してみるよ。足りなくなった場合の経費はもちろん君持ちだよね?」


「もちろんよ。請求は私に回して」


 用意しておいたサイン入りの小切手を渡す。最近は写本で稼いでいるからかなり懐が潤ってる。


「………ええ……こんなものポンと渡していいわけ?」


「性格的に不正請求できると思ってない。それに内容はちゃんと確認するから」


「オッケー。わかった…………隠しておかないとな。一応細心の注意は払うけど、ドレスとか宝石とか明らかに変な請求が来た場合は断って」


「わかった」


 むしろ、怒鳴り込みするいい口実だから大歓迎だけどね。義叔母が着服する可能性があるわけね。


「何その笑顔。怖……」


「確かにイジメてた私が1番悪いけど!アンタが煽ってくるのも悪いと思うわ!」


「ヒエッ……で、でもなんで急に謝る気になったわけ?」


「それはね……おいで、イフリート」


 炎が渦巻き、真紅の精霊が現れた。魔法書がなくてもこの邸宅内なら契約者がいれば自由に動けるそう。フレア家のご先祖様がイフリートのために仕掛けを施したらしい。


「はいは〜い」


「………契約したの?!いや、したんですか?!」


 ひと目でわかるあたり、流石。


「うん。だから気持ちに余裕ができて謝ろうと思ったし、ちゃんとこれからフレア公爵家の次期当主として頑張ろうと思って。それから、敬語はいらないわ」


 まだこれは始まりに過ぎない。イフリートは真面目な話してると思ったのか、ふよふよと部屋から出ていった。気まぐれな精霊である。せっかくだからガイアスを紹介しようと思ったのに……。


「了解。まあ、頑張ってね」


「うわ、他人事〜。一応婚約者なのに〜」


「うっ………で、でも君、僕のこと嫌なんだろ。イフリートがいるなら僕と婚約する必要もないし……だから実質解消じゃないの?」


「別に嫌いじゃないわよ?羨ましかっただけよ」


 まあ、好きでもないけど。


 貴族の婚姻なんてそんなものだ。私としても我が子が同じ思いをするのは嫌なので、ガイアスと同じ髪色の子が生まれるかもと考えれば正直かなりアリだなと思う。


「……ええ………」


「まあ、ガイアスも私のこと嫌いだろうけど、貴族の結婚なんてそんなもんでしょ」


「僕だって別に」


「ルビーーーー!!お父さんは不純異性交遊はゆるしませんよ!!!」




 ドアが吹っ飛んだ。




「「そんなんしてませんけどぉ??!!」」


 この日、初めてガイアスと心が1つになった気がした。というか、アイツあんな大きい声出せたんだなと思った。

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