第4話 ついに実戦訓練です

 地道な魔力循環と写本をこなし続けること1週間。ついに今日から魔法の実践となった。


「ついに本日から実践で〜す!それでは、ルビーちゃんがどこまでやれるかテストします!先生に少しでも当てられれば合格としま~す!というわけで、ウインド・シールド!」


「うわ……」


 風の防壁……。これはすごい。私のリトル・ファイアなんて一瞬でかき消されるほどの暴風。立ってるだけでやっと。これがウインド公爵の魔法なんだ……。

 パパ様の魔法にも引けを取らない強力な防壁だ。


「この壁を貫通……」


 私が使ったことあるのはリトル……初級だけ。いきなりぶっつけ本番で中級や上級が成功するとは思えない。


 初級でこの壁をぶち抜く。考えろ、何か手段があるはずだ。


 魔力を集中し、炎を極限まで圧縮。そうだ、銃弾。あれは空気抵抗を減らすフォルムなんだよね?それで、爆発を推進力にして、回転を加えて貫通力を上げる。初級しか使えないけど………複数行使はいける。


「リトル・ファイア……」


 先ず、まっすぐ正確に飛ばす銃身。回転を加えられるよう、螺旋を忘れずに。そこに極限まで圧縮した極小のリトル・ファイアを装填。そしてその間で爆発させる!!


「リトル・ファイア!!」


 轟音と共に炎弾が射出されたが、貫通には至らなかった。


「え、ルビーちゃん今の何?!すごい衝撃だったんですけど?!」


 それなら、もっと小さく鋭く。圧縮、圧縮圧縮圧縮圧縮圧縮。極限まで小さくした炎弾を、先ほどより激しい爆発で射出する。


「リトル・ファイア!!」


 今度は風魔法を貫通した!!


「痛〜い!!」

「先生?!」


 風魔法が消え、先生に駆け寄る。魔法は先生の肩を貫通したらしい。


「いや、まさか初回で課題クリアするとは……。悪いけど、司祭さんを呼んでくれる?」


「はい!すぐに!!」


 待機していた専属メイドを見ると、彼女は頷いて走り去った。普段どんくさいが、こういうときは大変機敏で助かる。逃げ足だけは早いので追いかけても追いつけたことがないもんなぁ…。


「止血します!」


「傷自体は小さいわ。そこまでひどくはないわよ。司祭様を呼んでって言ったのは念の為よぉ」


 焼けたからか確かに出血はほぼない。でもすごく痛そう!!


そんな事を言っていたら司祭様をお姫様抱っこしたメイドがダッシュで戻ってきた。力持ちだな?!


「ぎゃーーーーー?!」

「おまたせしましたぁ!!そぉい!」


 そして雑に転がされる司祭様。申し訳ないが怪我人のほうが心配だ。


「本当に申し訳ないけど治療してください!」


「イテテ……ええと怪我人の方は?」


「私です」


「………これは火傷ですか。しかも完全に貫通している……。主よ、その大いなる慈悲にて癒しの力をお与えください………ハイ・ヒール」


 杖から柔らかい光が降り注ぐ。司祭はハイプリーストだったのかアッサリ傷を治してくれた。


「違和感や痛みはありませんか?」


 先生が負傷した肩を動かし確認する。よかった、動きに問題なさそう。


「大丈夫です。ありがとうございました〜」


 それにしても流石は司祭様。雑な運搬に怒るでもなく終始穏やかに対応してくれた。


「帰りは歩いて帰りますから!」


 メイドがまた担ごうとして断られていた。それはそうだろう………と現実逃避していたがそうもいかないよね。


「ルビーちゃん」


「……はい」


「魔法は、傷つける力です。今回は運が良かったけど、当たりどころが悪かったら私は死んでいたでしょう」


「……はい。ごめんなさい」


 考えが足りなかった。返す言葉もない。


「包丁なんかと同じで、使う人によって便利な道具にも、殺戮の道具にもなり得る。ソレが魔法です」


「……はい」


 今までの自分が恥ずかしい。魔法で人をたくさん虐げた。ソレが悪いと思ってなかった。


「私の生徒は、誰かを助けるために魔法を使ってほしい。何の強制力もないけれど……お願いしてもいいかしら?」


 先生は私を叱らず、穏やかに話しかけてくれた。


「はい!絶対私利私欲では使いません!フレア公爵家の長女として恥じないふるまいをいたします!!」


 私は変わるんだ!誰かのためにこの魔法を使う!


「ふふ、頼もしいわね」


「先生、風魔法を教えてください」


「……ルビーちゃんの得意魔法は炎よね?そっちを伸ばさなくていいの?」


「そちらはパパ様に教わりたいので。それに風魔法のスペシャリストがいるのに教わらないなんてもったいなくないです?」


「確かに〜」


 それからは風魔法を教わった。かなり応用がきくし、炎より殺さずに捕縛とかもしやすい。加減も炎よりは難しくない。焦がすか炙るかぐらいしかできないもん、炎って。


「う〜ん……ルビーちゃんがフレア公爵家の子じゃなかったら息子の嫁にしたいぐらいの才能だわ……」


「息子さんですか?」


「うん。私に似て超超超〜可愛い子なのよ〜。そういえばダーリンに仕事押し付けてきちゃったけどそろそろ帰らなきゃなぁ……」


「…………え。そういえば公爵様がこんなに滞在してていいんですか?」


「エヘ」


 あ、ダメっぽい。


「まあ一応、ガーちゃんからの正式依頼で来てるけど……性質なのよ。1つのところに留まれないの」


 私は風だから、とフリージア先生は笑った。感情が属性に引っ張られるそうで、炎は情熱的だったり怒りやすい。風は飽きっぽかったりじっとしてられない。土は地道堅実だったり頑固な人が多いそう。土だけ比較的まともなような……?

 そんなわけで先生は定期的にふらっといなくなるのだそうだ。旦那さん大変だな……。


「じゃあ、そろそろ戻らないとなんですね」


「もっと早く飽きると思ってたけど、ルビーちゃんがあまりにも面白すぎて予想よりも長居しちゃった」


「……ありがとうございます」


 褒められたかは微妙だけど、先生のおかげでたくさん学べた。感謝している。


「うふふ、そんな顔しないでよ。また遊びに来るわ」


「………はい」





 そしてその翌週、先生はウインド公爵家に帰ることになった。先生のおかげで風魔法は応用を含めかなり使えるようになった。


「ルビーちゃん、卒業した生徒へのプレゼントよ」


 渡されたのは透明な魔石。今までで一番大きい。といっても腕時計の時計ぐらいの大きさだけど。


「ルビーちゃんならきっと使いこなせるわ」


「ほ、本当にありがとうございます!こ、これぐらいしか渡せなくてすいません……」


 そこには写本で稼いだお小遣いで買った魔石で作った炎のアミュレット。


「アミュレット……。ふふ、ありがとう。大事にするわ。ウインド領って冬は極寒だから炎のアミュレットは本当に嬉しいの」


 確かに最北に位置してるから寒いのかも。喜んでもらえてホッとした。本来の使い方とは違うが、炎の魔力が籠もったアミュレットは温かいからね。


「……さっさと行け」


「あ〜、そんなこと言ったらガーちゃんの面白話をしちゃうんだからね!」

「今度ぜひ」


「ルビー?!」


「あ、もしかしてルビーちゃんから私がプレゼントもらっちゃったから嫉妬?ヤダ〜、おじさん心せまーい」


「帰れーーーー!!」


 先生との別れは笑顔で終わった。先生のおかげで魔法に対して自信がついた。パパ様は拗ねていたがプレゼントを出したら機嫌をなおしてくれた。パパ様にないはずがないのに。


 さて、準備は整った。そろそろ本格的に動くべきだろう。

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