第3話 地味な修行は続くのです

 魔力循環の次のステップは……写本。といってもただ書き写すだけではない。特殊なインクに魔力を混ぜて書くことで、魔法の媒体になるのだ。これを綴じて本にして、魔法使いは魔法を使う。ページを使って魔法を発動するのよね。だから魔法1回につき、お金がかかるのだ。本はページに込めた魔力が失われないようにする効果かあるそう。

 実のところ、魔法書さえあれば今の私でも魔法は使えるのだ。でも携帯には不便よね。でかいし重いし……鈍器として使う?いや、普通に剣とかには負けるわね。ページがなくなったら死活問題。なくても魔法は使えるけど威力がめちゃくちゃ落ちるのだ。


「あー……間違えた……」


 集中力が切れてきたようだ。しかしこの長文を延々と一言一句間違わずというのはかな〜りしんどい。もうさ、よくない?もっと短縮してよくない??こんなに回りくどく長々と書かなくてもいいよね?


「リトル・ファイア……な〜んて……え???」


 ふよふよと浮く炎と、燃え尽きた書き損じ。資材を無駄にするのはよろしくないので、書き損じを使い実験したところわかったのは『炎』『小さい』この二文字だけで良いらしい。つまり、この書き損じも充分使えるのだ。


「つまり、もっと小型化できる……?いやでも保管するための本が大きいから……」


 でもいざという時用にいくつか小さく切って『炎』と『小さい』と書かれた物を常に持っておこう。本無しだとどのぐらい劣化するかも試さないとね。




「ルビーちゃん、課題は終わったかな〜?」


「申し訳ありません、フリージア先生。後少しですが集中が切れて書き損じてしまいました」


「あら………………いや待って。ルビーちゃん?先生何枚書いてって言った?」


「たくさんって言ってたからまだまだですよね?今ようやく250枚です」


「ヒェ…………」


 え?ドン引きされてる??


「……先生?」


「ちょ、ちょっとチェックしてもいいかな〜?!」


「もちろんです、お願いします」


 先生が1枚ずつチェックしていく。きちんと丁寧に書いたつもりだったが、スペルミスとかあったろうか。


「ルビーちゃんは天才じゃないかしら!!」


「ふぇ?」


「この短時間でこれだけ書けるなんて……しかも魔力が均一で初級とはいえこれは最高品質……!初めてでこれだけ書いて魔力も余裕!すごいわ!!」


 魔力については特に意識してなかったのですごいと言われてもよくわからない。


「そうなんです?」


「そうよ!本職の術師でも1日10……30がやっとよ?!」


「え」


 それだけ?


「普通に稼げるわよ!これ全部売ったらいいお小遣いになるわよ〜」


 基本的に魔法使い家系にしか魔法書は作れないので魔法使いは総じて裕福な家が多い。


「せっかくだから中級と上級もやってみようか!」


「はい」


 中級はさほどでもないが、上級は流石に魔力消耗がなかなかだった。


「はあ……」


 身体がダル〜い。これは1日10枚ぐらいが限度だな。中級は100ぐらいいけそう……。


「ルビーちゃんすごいわ……。天才!!上級もバッチリ使えるレベルよ!」


「あ、ハイ……」


 回復を促すため魔力循環を促進する。寝てる間もできるぐらいまで練度を上げないと。


「ねえ、ルビーちゃん」


「はぁい……」


 よしよし、少しだるさが取れてきた。やっぱり基礎は大事よね。


「試しに風魔法のも作ってみない?」


「は?」


「ルビーちゃんの髪色は、他の属性も使えるからだと思うの」


「へ???


「ふっふっふ〜。土魔法の初級魔法書も持ってきたわよ。ものは試し!」





 そして、結果がこちら。


「全属性いけちゃったわね」


「んー……でも炎魔法ほどは上手く扱えませんね」


 発動も写本の精度も問題ないと言われたが、なんというか……炎魔法ほど思ったとおりにならない。それから、写本……していいんだろうか。他属性の写本はしちゃダメじゃなかったかなと思いつつ、聞くタイミング逃した。


「それは訓練次第じゃない?そもそも炎魔法をメインにしてたんでしょ?」


「それは……はい」


 キレては燃やしてたし……。火事にならない程度に加減してた。


「ルビーちゃんの髪色もそのせいね。複数属性持ちだと銀色とか、薄まった色味になるらしいわよ」


「そうなんですか?!」


「…………ガーちゃんから聞いてないの?」


「………もしかしたら何回か話そうとしたかもですが髪色については地雷中の地雷だったので……」


「あ〜…………わ、わかってよかったわね!!」


「そ、そうですね!!」


 炎魔法はいざってとき加減が難しいから扱いにくいけど、風魔法や土魔法は汎用性が高い。これはもしや死亡フラグ回避に一歩近づいたかも!!


「あ、ルビーちゃんにコレあげる」


「………宝石?」


「これはね、魔法書を書くためのインクの原料になる魔石よ。ルビーちゃん頑張ってるからプレゼント。それから、これでアミュレットを作るのが課題ね」


 じゃらじゃらといくつか最初に渡されたものより小ぶりな石を渡される。これに魔力を籠めるとアミュレットになるんだとか。

 試しに魔力を注ぐとほんのり温かい石になった。


 魔力を溜め込む性質があるから、インクに混ぜ込むと魔法を発動する鍵になる。それなら、これの内側に刻印して魔力を注げば魔法書の代わりにならないか?


 とはいえ今は道具もない。とりあえず練習用の石でコツをつかみ、本番の石も問題なく魔力を込められた。これを使うと魔法をブーストできるらしい。


「ルビーちゃんは魔力コントロールが上手ねぇ。ガーちゃんなんてしょっちゅう爆散させてたのに」

「怖!?いや、爆発するなら言ってくれません?!」


「いやぁねぇ、しても私がいるからルビーちゃんがケガすることはないわよぉ」


 爆発しそうなら風魔法で防御してくれるつもりだったそうだけど、怖!!絶対1人ではやらないと心に決めたのだった。


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