第2話 先ずは力をつけてみよう

 この世界はかつて、闇の神により未曾有の危機に晒されていた。そんな中、光の神が勇者を選定し、闇の神を倒すように命じた。与えられた武器は6つ。聖剣フラガラッハ、聖槍ブリューナク、聖弓フェイルノート、聖炎イフリート・フレア、聖風シルフィード・ウインド、聖土ノーム・アース。偉大なる勇者達の末裔は六大公爵となり、現在も各公爵家に聖武器は祀られている。


 そしてゲームでは聖剣フラガラッハを持つソード家の長男が主人公となり、幼馴染を救うため進軍したところ戦いに巻き込まれ、越権行為、侵略行為、反逆行為とみなされ、第一章の最後には反逆者として無実の罪で処刑される。まあ、越権行為は無実じゃないかもしれないけど……。心優しい主人公は幼馴染を見殺しにできなかった。


 そして主人公の死後、その子供が第2の主人公になる。子供は勇者の再来として皆に慕われ、父の無実を晴らすために立ち上がる。


 ぶっちゃけ一部のキャラを除き、皆殺し。だが、それ故のドラマがある。死んだ者は蘇らない。それゆえゲームであっても愛着が生まれる。そして、彼らの血は継がれ、能力の一部を引き継ぐのだ。それゆえ『勇者の血脈』というタイトルなのだろう。


 シナリオとしてはとても感動的だ。父の無念を息子が晴らす勧善懲悪ってやつだ。


 物語としてなら、私も好ましいけど……。これは紛れもない現実なのだ。頭が痛い。カオス確定の未来とか非力な小娘にどうしろと?!


「お嬢様〜」


「ん〜」


 あのゲームにおいて黒幕とも言えるのが闇の神を祀る黒の教団。結局のところガイアスは彼らに利用され、その子供は闇の神として君臨する。そして、ガイアスは我が子に殺される。彼もまた被害者なのだ。


「お嬢様お嬢様お嬢様〜」


「うるっっさいわ!!」


「きゃ〜、いつものお嬢様だ〜〜〜!」


 お前、私が怒ると喜んでないか?なめられてるんだろうか。まあ、私がキレてもこの子だけは辞めなかったから他もいないし、しかたないか。因果応報ってやつだわ。


「なんの用?」


「旦那様がお呼びですぅ」

「早く言いなさいよ!!」


 慌てて父の執務室に向かう。




「おお、ルビー!喜べ!最高の講師が見つかったぞ!」


「ほんと?!パパ様ありがと〜!」


 まずは自衛するべき!と考えてサボっていた魔法の修行を再開することにした。とはいえ、私がワガママ放題のためそうそう講師を引き受ける人は居ないと思っていたのだが思ったより早く見つかったらしい。


「こんにちは」


 緑色の髪と翡翠のような瞳の美女。エメラルドそのもののような美しい色。


「…………うえ??」


 私の記憶が正しければこの人は……!


「フリージア先生と呼んでね」


「……ウインド公爵にご教授いただけるとは光栄の至り。フレア公爵家の長女、ルビー=フレアがご挨拶いたします」


 そう、髪と瞳の色は魔力とイコールなのだ。この鮮やかな翡翠色はウインド公爵家、それも本家の人間しか持ち得ない。


「………ガーちゃん、教えたの?も〜、ナイショにしてって言ったのに〜」


 父の名前はガーネットだからガーちゃんなのかな……?仲良しだなぁ。


「ガーちゃん言うな!教えとらんわ。我が娘が慧眼だったというだけだろう」


「知らないフリをしたほうがよろしかったですか?」


「いいえ?でもこれまでとは違って、気に入らなくても辞めさせられないわよ」


「はい!よろしくお願いします!!」


 まあそんなわけで修行開始したわけなのだが。




 地味。





「地味だと思ってるでしょ〜。でも意外。得意魔力に感情が引きずられるから、もっと早く怒り出すと思ってたのに〜」


「今は怒りより……やるべきことがあるので」


 地味すぎる修行の内容は、瞑想。自分の体内にある魔力を感じ、全身に巡らせる。これを集中しなくてもできるようにすることが、魔法使いとしての第一歩。

 集中できなくて、上手くできなくていつも講師のせいにしてたけど……。これができないと魔法の威力が弱いまま。だから必要なのだと自分に言い聞かせ、流れを意識する。


 身の内を探る。何度も繰り返す。そうして気がついた。


 ああ、ここだ。ここが流れを妨げている。ここと……あと……。流してしまおう。全部、一気に押し流す!


「待って、ルビーちゃん!」


 全て開いてしまえばいい。力で、熱で……全部。


 身のうちから吹き上がる赤は血にも似て……。


「ちょ、誰よあの子が無能とか言った馬鹿!!ルビーちゃん!止めて!ああもう、フレア公爵を呼んで!私じゃあの炎を抑えるので………」


「……何か問題がありましたか?」


 よくわからないがやめるよう言われたので一旦中止した。


「ルビーちゃん?」


「はい」


「ま、魔力暴走は??」


「……暴走ではなく、なんか体内で魔力循環が悪いところがあったので魔力を集中させて一気に流したのですが……やったらダメでした?」


 魔法の教本には確か循環の悪いところを意識して強く流せと書いてあった………。あ、一気に全部流すのは良くなかった?


「ルビーーーーー!!何があった大丈夫かうちの娘はあああ!!」


 呼ばれた父が全力疾走してきた。


「ガーちゃん」


「はぁはぁ、る、るびー……」


 全力疾走してヘロヘロなパパ様に大丈夫と抱きつく。パパ様はいつも優しい。


「ガーちゃん、よく聞いて」


「お、おう……。とりあえずルビーは大丈夫そうだな……?」


「ええ!ルビーちゃんは魔法の天才かもしれないわ!」


「そうだろう!そうだろうそうだろう!!」


「ちょ、パパ様高い高いしないで?!」


 パパ様って長身だから結構怖い!


「この年で魔力循環が目視できる出力レベルだなんて……もっと上の勉強をしましょうね!」


「え?あ、はい……?」


 今まで才能があるなんて言われたことない。


「いや〜、予想外だわ!自分で魔力循環を完璧にこなすなんて!」


「ええと……?どういうことですか?」


「あら、もしかして知らなかったの?」


 魔力循環は魔法の基礎だが、自力で魔力の淀みを解消するのは難しい。そのため講師が手助けして淀みを解消させ、繰り返すことで完全にスムーズな循環ができるようになるそう。あくまでも体内循環なので普通は目視できないのだが、私は魔力が高いために魔力暴走したのでは?!と思うほど魔力を放出していたのだとか。


「そうだったんですね。髪色をバカにされてキレて追い出していたから、まともに魔力循環をしたの……よく考えたら初めてだったかも……?」


 だからそもそも講師にサポートしてもらうものなのだということ自体、今回初めて知った。

 あ、あれ……?な、なんか体感温度が下がったような………??


「ガーちゃん、馬鹿のリストちょーだい」


「やるわけがないだろう!ルビー、パパ様に任せておくれ」


 あっ?!大人2人が怖い!!いやそれより、元講師達の人生がやばい!!


「でででででもおかげでフリージア先生という最高の講師をお迎えできました!お、女公爵としても見本にしたいぐらい素敵な方ですし!むしろもう関わりたくないので放置してください!」


 それに余計な火種はいらん!元講師達に思うところはあるが、やるなら自分でやる!!


「あらぁ、嬉しいわ」


 実際フリージア先生の教えは上手い。流れを理解させるために、まず血流と鼓動を意識するようにと教えてくれた。フリージア先生は落ち着いたが、パパ様は地味に炎出てる!私は平気だけどこのままでは屋敷と元講師達の人生が(物理的に)焦げる!


「パパ様、私魔法の修行を頑張るからバカどもに時間を割かないで!その時間はルビーと遊んでね。約束だよ」


 実際ようやくご飯の時間を一緒にできているのだ。余計な仕事はしないでほしい。


「…………でも、かわいい娘をバカにされて……パパ様はそれに気がつけなかった……」


「大丈夫、私はパパの娘よ。奴らが無能だっただけだと実力で証明してみせるわ!」


「お〜、先生も応援しちゃう!」


「頼りにしてます、フリージア先生!」


 それから魔力循環は先生の補助無しで問題なく行えていると判断され、無事に次のステップへと進むことができた。




 数日後、領内で小火騒ぎがあったのだが………パパ様のせいじゃない……よね??気のせいであることを全力で祈ったが、元講師達が焦げた衣服と鋭利な刃物で切り刻まれた衣服で地面に頭を擦り付けて謝罪してきたので短気な大人たちの仕業であると確信した。


 短気な大人たちはジト目で見ると目を逸らした。気持ちは嬉しいけどね?これはやりすぎだと思うんだ。おい、こっちを見なさいよ。

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