第4話 1月4日


咲と一緒になって何度目のこの日だろうか。

ふーっと息をつけるのはこの日。


すごく寒い早朝、咲がまだ目を覚まさない時間にベランダで煙草に火をつける。

そうだな…。頭の中で小さなシャボン玉と弾けてくうに昇って消える感覚。


年末年始、盆正月はどうしても複数人で集まることが多い。目に見えぬストレスで押し潰されそうになる。でも咲にとっては大切な家族、親戚。

『嫌』だ『行きたくない』だなんて子供みたいなことは言えない。


だから毎年この日は煙で輪を作って浮かせてそのまま僕もふわっとちたくなる…。


理想はどんな時も愛する人と二人きりで居たい。

耐えられない時はそれ用の相手が欲しい。

繋がりたいとかそういう汚い関係じゃなくて、

シンプルに寄り木になってくれる人がいい。



―――――――――――――――。


薄暗いリビングへ戻ると、懐かしい人がソファに座っていた。


「…ごきげんよう。」

「ごめん。呼んで。」

「いいの、…来て。」


彼女は隣を軽く叩いて僕を呼ぶ。



「……。」


彼女の膝に頭を乗せると優しい目が落ちてくる。


「あたしといれば煩わしい事なんて何も無いのに。」

「飯がまずい。」

「それだけでしょ?」

「それだけ…もうひとつわがまま言うならこのまま抜きたい。ここから、その目の下で。」

「好きにすればいいじゃない。」

「色々触ってくれる?」

「あたしの指にかなう相手なんて居た?」

「居るわけない…探したけど。」


「…なんでか解る?」

「わかんっ…ないっ…」


彼女は微笑みながら指先で僕を弄ぶ。



「…本当はわかってるでしょ?」


彼女が優しく僕の首を絞める…。


(幸せだ…。)


「幸せ?」


(幸せ…。)



「…貴方をこの世界で初めて見つけたのは私。誰にも知られたくない事も私は知ってる。それに…私は貴方の全てがいい。」


(翠……。僕は幸せだ…。…ねぇ、どっか連れてってよ…。翠に殺されたい…。)


「大丈夫。私は貴方の全てを受け入れる。貴方が私を受け入れてくれた様に…。それに私には貴方の苦しみが解る。貴方にも私の痛みや苦しみが解る…。」


「じゃあさ…咲みたいにもできる?」

「…?」

「俺があいつから離れない理由はね、あいつは本能で動くから。俺の上で凄く…綺麗になる…。けど、その綺麗さとは裏腹に言葉に出来ないくらい雌になる。一滴残らず搾り取ろうとする…。あいつ、言葉は少ないけどそうやって体で全部教えてくれる…。翠、お前もそうできる?」



―――――――――――――『一緒に寝よ?』


少し枯れた声の『』が僕を迎えに来た。

と同時に翠は消えた。


僕はその『』を思い切り抱き寄せた。


「どうしたの…?」

「ん?…お前が好きすぎてたまんねーの。」

「あたしも一緒だよ。」

「…ベット戻ろっか。」

「戻ろ?…」



頭が半分寝てる咲を抱き上げて寝室へ戻った。

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