第3話 世界がふたつ
僕には住む世界が2つある。
咲はどっちにも行き来できる。
咲との世界は2人だけの世界。
そこにも生活があり、街がある。
僕の世界にも生活があり街があり、山があり森があり海がある。
疲れると咲との世界に引きこもる。
咲に後ろからくっついて甘えてる時が一番幸せで落ち着く。
――――――――――――「咲さん…。」
「ん?なに?」
咲は常に優しい…。
時に厳しいけど優しくて可愛くて綺麗で…。
「……。」
「聞くよ。」
「…先寝ていいよ。」
「あたし寝かせて何しようとしてんの?」
「……」
「なに?」
「…。」
答えない気でいた。
答えた所でまた咲を悩ませなくていいことで悩ませるから。
だからと言って咲にこの憂鬱な気分に付き合わせたくもなかった。
「なんでもないから。先寝てて。」
どうしょうもなくなって咲を一人にして地下室へ行った。
――――――――――――。
「…話してよ。また繰り返すだけだよ。」
咲はすぐに着いてきて地下室の二つ並んだ革の椅子の隣に座った。
「……。」
「話すまでどこにも行かないから。」
「話したらどっか行くの?」
「行かない。」
「……。」
「言いたくなるまで他の話でもする?」
「…言いたくない、それに出来れば咲が寝てからここに来たかった。」
「一人で抱えるのやめてくれる?」
「…お前じゃない相手なら話せるかも。」
「誰なら話せるの?」
「…。」
「…もしあたしがあたしじゃなかったら?」
「話す。」
「もし立場が逆なら?」
「首絞めてでも吐かせる。吐くまで殴る。絶対誰にも行かせない。どこにも行かせない。」
「病気。手に負えない。」
咲は鼻で笑った。
「…死にたい」
「うん。」
「上手く言えないけど、きずだらけになりたい。どうせなら理解してくれる人が欲しいのとその理解してくれる人に死ぬ手前まで持っていかれたい。」
「…なかなか居ないよね。」
「咲はそういうのできないし、しないから。」
「私は、あんたをあたしで溺れさせることならできる。あんたがもっとちゃんとあたしに心を開けばだけど。」
そう。咲はまだ距離を感じていた。
何年経っても破れないドアや壁が悲しくもあった。
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