第2話






『私とヘレナーは真実の愛で結ばれている!』



 実は陛下には私の祖父───つまり先王が決めた由緒正しい将軍家の婚約者が居たのだけど、事もあろうに若かりし頃の陛下は彼女を捨てて平民の娘を王妃に据えてしまったの!


 お父様の話によると、平民の娘ことヘレナーが王妃になるというシンデレラストーリーに民達は熱狂したけど、王妃になった当人はというと、王妃になれば左うちわで贅沢三昧な日々を送れると思っていたのに


『王妃様の役目は世継ぎを産む事です』


『食事のマナーがなっていません!』


『会談する相手の国の言葉を話せぬとは・・・こんなのが王妃とは情けない!!!』


『ヘレナー様、王妃が無知という事は陛下の侮辱に、国の恥に繋がるのです!!!』


 寝ても覚めても重臣や教育係から小言を食らうなんて夢にも思っていなかったみたい。


 遂に耐え切れなくなったヘレナーは陛下の目を盗んでイケメンの庭師と逢瀬を重ねるようになったの。


 結果、産まれたのがジュリアーノって訳。


 コンフィテュール王家の者だけが持つ紫色の瞳だけではなく父親の特徴を何一つ受け継いでいない赤子を陛下は、愛しいヘレナーが産んだ、初めて我が子と呼べる存在とでも言うべきジュリアーノを可愛がり次期国王と指名したわ。


 だが同時に陛下はある事に気付いたの。


 ヘレナーは平民の娘。


 平民が後見人になれる筈がない。


 そこで白羽の矢が立ったのが私ことベルフィーネ。


 ベルフィーネの父親は王弟、母親はシルキー王国の王女。


 平民の娘を母に持つ王子の後ろ盾としてはこれ以上ない有力な存在よね?


 陛下は父と母に土下座をしてまで私をジュリアーノの婚約者に据えた訳。


 ゲームのベルフィーネは幼い頃から従兄のジュリアーノに憧れていたから喜んで嫁いだのだけど、そこで待っていたのは───ユーリアが正妃だと言わんばかりに従兄の後宮に君臨している姿。そして王太子妃としての公務だけ。


 ジュリアーノによって後宮の片隅に追いやられたベルフィーネは毎晩夫が弟の部屋を訪れ「アッー!」する事に涙する日々を送るしかなかったの。


 両親を心配させたくないという思いだけでベルフィーネは耐えていたのだけど、遂に彼女の堪忍袋の緒が切れる事件が起こってしまうの。


 ユーリアの侍女の一人がベルフィーネの侍女を馬鹿にした。


 ベルフィーネは悪役に位置付けられているけど、実は侍女の顔と名前を覚えているし、結婚する前は年頃の娘として恋バナだってするし、仲人になって侍女達の結婚の世話もしている。


 侍女の一人が体調を崩したら見舞ったり、『親が病気で見舞いに行きたい』と頭を下げて頼んだら有休を取らせるという風にちゃんとフォローするという気遣いの出来る姫なのよ。


 ベルフィーネはユーリアの部屋を訪れて


『私の侍女がユーリアの侍女に馬鹿にされた。だから私の侍女に謝って欲しい』


 と要求したの。


 それを・・・どこをどう解釈したらそうなるのか



『女!貴様は我が愛しのユーリアの命を狙ったな!!!貴様のような恐ろしい女は今すぐ車裂きにしてやる!!!』



 憤怒の顔でジュリアーノは兵士達に命じてベルフィーネを後宮から引き摺り出すと、競技場で正妃だった女をちょっとしたショー感覚で〇山三国志の村祭りの話に出てきたお嬢さんと同じ目に合わせたの。


 ベルフィーネって王弟殿下の娘だけど、戦で働き手を失った女性が、乳飲み子や幼子を抱えている女性が、戦で傷ついた事で手が自由に動かなくなってしまった元兵士達が社会に復帰して働けるように職業訓練校、病院や銭湯を建設したり、時には被災地に赴いて自ら炊き出しをしたり、復興に手を貸したり、相手を傷つけないように言葉をかけたりと、本当の意味で国の事を考えて行動していた彼女の死に民達だけではなく、ジュリアーノの命令で王太子妃を引き摺り出した兵士達さえも歓声ではなく涙を流していたわ。


 ベルフィーネの死後、ユーリアが後宮を抜け出して城下町を散歩していた時に出会った男───ミルキー王国の王子であるシェムザに、シェムザもまた女神のように美しい容姿と純粋無垢な心を持つユーリアに一目惚れしてしまうの。


 城下町で出会った青年の事が忘れられなくなってしまったユーリアは立場を捨てる覚悟でシェムザと共にミルキー王国に駆け落ちして穏やかな日々を送るのだけど、自分の愛する男を奪われた怒りでジュリアーノは戦を仕掛ける事になる。


 これが後の世にコンフィテュール・ミルキー戦争と語られる事になるのだけど、実はこの戦の勝敗はユーリアの好感度で決定づけるの。


 ユーリアの中でジュリアーノの好感度が高かったらコンフィテュール王国が、シェムザの好感度が高かったらミルキー王国が勝つという風にね。


 ジュリアーノルートのエンディングで


『ユーリアに認められたい一心で国を豊かにしたジュリアーノは後に名君と謳われるようになる』


 というナレーションが流れるのだけど、主人公に無礼を詫びて欲しいと注意しただけで奥さんを〇山三国志の村祭りの話に出てきたお嬢さんと同じ目に合わせた男のどこをどうすれば名君なのだろうか?


 まぁ、民は自分達の暮らしを良くしてくれさえしたら君主のプライベートなんてどうでもいいからね~。


 でもね、救いもあるのよ。


『だが、亡き王太子妃ベルフィーネを慕っていた者達はジュリアーノの墓標に刻む』



 コンフィテュールとミルキーの民を弄びし傲慢で卑しき平民王・ジュリアーノ


 ここに眠る


 公明正大なる冥界の神よ


 我等善良なるコンフィテュールの民は願う


 男色に耽り、淫婦ヘレナーの血を引く王国の簒奪者たる傲慢で卑しき平民王・ジュリアーノの魂に神の裁きを


 傲慢で卑しき平民王・ジュリアーノを無間地獄に留め、終わる事のない神罰が下る事を



 これでゲームのベルフィーネも少しは浮かばれた・・・かな?






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