第7話 樹海から現れたのは
(※途中まで第三者視点)
「ふう、ようやく樹海を抜けたのう。」
「ああ、この辺りは穏やかそうじゃな。」
フェアチャイルド辺境伯領の西端にあたる樹海と呼ばれる大森林の外縁部に奇妙な一団が現れた。
平地に出たところで、気が抜けたように座り込んでいる。
背の低いがっしりとした体格で、男性は立派な顎髭を生やしていた。
「みな揃っとるかの。」
「おお、どうにか無事なようじゃ。」
「それは良かった。故郷は追われてしもうたが、助かったのは何よりじゃ。」
「町へ行ったら安全に休めるかのう。」
「そうじゃな。行ってみよう。」
一息入れた奇妙な一団は、歩いて近くの町を目指す。
やがて、樹海から奇妙な集団が現れたという知らせはフェアチャイルド辺境伯のもとに届いた。
普段は樹海から人が出て来ることなどはないので、急いで報告が行われたようだ。
「ほう、樹海から何者かの集団が出て来て、近くの町に現れたと。」
「はい。見た目も一風変わっておりまして、大人でも背が低くてがっしりしています。男はみな立派な顎髭を生やしていました。」
町からの使者の言葉に、同席していた家令のスミスは驚いた。
「なんと、それはおそらくドワーフの一族ですな、旦那様。樹海の向こうには亜人が住んでいると聞いたことがあります。」
「ドワーフか。それは珍客だね。それで、なぜこの地にやって来たのか話は聞けたのかな?」
「はっ。何でも故郷の山に魔物の群れが現れたので、ここまで逃げて来たそうです。」
「そんな事情があったのか。ドワーフは土地を愛する種族だと聞く。住み慣れた所を離れるとは、よほどのことだったのだろう。」
家族で朝食をとっていると、領内に現れたドワーフたちのことが話題になった。
「父上、樹海からドワーフが現れたそうですね。ドワーフは優秀な鍛冶や細工の職人と聞きます。この地に受け入れたら、領内の発展に貢献してくれるのではないでしょうか。」
「そうだな、エディ。だが彼らは100人もいるのだ。家を急に建てることもできないし、ノーザンフォードにはそんな人数を受け入れる余裕がない。」
「100人もいるのですか。それは多いですね。」
ノーザンフォードはフェアチャイルド辺境伯領の領都だ。
人口は3000人くらいだから、100人もの移住を受け入れるのは確かに大変だろう。
前世の記憶だと3000人というと小さな町だけれど、中世の人口だと考えると大都市になるのかな。確か、アルビオン王国では有数の都市だったはず。
「ドワーフは宝石細工などを持ってきているようだから、少し色を付けて買い上げよう。それを彼らの食料や旅支度の購入資金に充ててもらえればと思う。」
「私たちにできることはそれくらいなのですね。」
兄上は残念そうだ。
一応、ここに残りたい者がいれば2、30人くらい受け入れられると提案したそうだけれど、ドワーフは一族で逃げて来たので離れ離れになりたくないという答えだったようだ。
宿屋に入りきれないドワーフは野宿を始めているようだ。食料や旅のための道具を買ったら、この地を出ていくのだろう。
もうじき秋も深まり、寒さが厳しくなるから、きっとつらい旅になる。
どうしよう?
僕の生産スキルなら、おそらくすぐに家を建てられる。
でも、そんなことをすると目立ってしまうだろう。
辺境でのんびり暮らしたいと思ってはいる。
それでも助けられる人たちを助けないと、ずっと後悔するんじゃないかな。
考えた末に僕は決めた。
「それなら僕がドワーフたちの家を作ります。」
「何だって?」
「ウィル。いくら生産スキルが得意といっても、100人が住める家をすぐに作るのは無理じゃないかな。」
父上も兄上も、そんなことはできないと思ったようだ。
でも、何とかなると思う。
「倉庫を短時間で建てられたので、家を建てるにも時間はかからないと思います。あとは多くの家を建てるのに十分な魔力量があるかどうかですが、エリカ先生によれば、僕の魔力量は王都の宮廷魔術師長以上にあるようです。」
宮廷魔術師長以上と聞いて、父上も兄上も驚いた顔を見せた。
「倉庫を作ったときの魔力の減少具合から考えると、一日に5軒くらい家を建てられます。一週間くらいあれば、100人が暮らせる家を何とかできるんじゃないかと思います。」
父上はしばらく考えてから、頷いた。
「そうか、分かった。材料は揃えるので、やってみなさい。」
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