第6話 幼馴染
「お久しぶりですわね、ウィル。」
幼馴染のスカーレットが両親と一緒に遊びに来た。
スカーレットはフェアチャイルド辺境伯家とは領地が隣接するカーディフ伯爵家の娘だ。
カーディフ家は歴史的にフェアチャイルド家と親しい。
特に今のカーディフ伯は父上とは王立学園の同級生で仲が良いので、年に何度か互いの領地を訪問している。
最初に家族全体で挨拶をすると、あとは大人同士、子ども同士で過ごすことになる。
だから僕とはお互いにウィル、レティと愛称で呼び合うくらい親しくなっていた。
レティは目の覚めるような鮮やかな紅い髪と大きな青い目が印象的で、運動が得意な明るい女の子だ。
今回はスキルを得てから初めて会ったので、自然とスキルの話題になる。
「私は剣術スキルだったわ。ウィル、貴方はどんなスキルだったの?」
「レティ、僕は生産スキルだったよ。」
レティは口に手を当てて驚きを隠そうとした。
「まあ、貴方は本が好きだから、きっと魔法スキルだと思ったのだけれど…生産スキルとは珍しいわね。」
慌ててレティは言葉を続ける。
「生産スキルは腕の良い職人には必要なスキルだと聞いたことがあるわ。きっとウィルも良いものを作れるようになるわよ。」
どうやら慰めようとしているようだ。
「気遣ってくれてありがとう。でも、もう家具や鞄を作っているし、生産スキルは思ったより使えるスキルなんだよ。」
にわかには信じられないみたいなので、目の前で実演する。
「それじゃあ今から作ってみるよ。何か欲しいものはない?」
「え、ええと、そろそろ新しい鞄が欲しいと思っていたの。」
「鞄だね。色はどんなのがいい?」
「そろそろ大人っぽい色にしようと思って、焦げ茶の鞄を探そうと思っていたの。」
「焦げ茶だね。分かった。」
皮の素材はいくつか自分の部屋にも置いている。
良さそうなものを選んで集中する。
暖かい光がぽうっと光ってから消えると、鞄が現れた。イタリアのブランド品みたいな大人っぽいデザインのやつだ。
「まあ、貴方、本当に鞄を作れるのね。」
レティは目を丸くして驚いた。
鞄を手に取っていろんな角度から眺める。
「凄いわね、この鞄。お洒落なデザインだし、手触りも良いわ。あら、うちの紋章まで入ってるのね。」
装飾にはカーディフ伯爵家の紋章もあしらっている。
「気に入ったのならあげるよ。」
「本当に頂いても良いの?」
「うん、どうぞ。」
喜んでくれたら何よりだ。
「鞄の他に大きな家具も作っているんだ。庭の倉庫に入れてあるんだけど見るかい?」
「そうなの。それでは見せて頂こうかしら。」
実はロッキングチェアやミラーチェストみたいな大型家具を作ったせいで保管場所に困るようになり、倉庫を建てたのだ。
ちょうど収納魔法を覚えて、材料を亜空間に収納できるようになったので、倉庫の材料は収納して持って行った。
エリカ先生によると収納魔法は生産スキルをかなり極めた人しか使えないらしく、 「まあ、こんなに早く」と驚いていたな。
父上に相談して、うちの広い庭の奥の方に、他の邪魔にならないように倉庫は建ててある。
幼馴染を連れて庭に出て、奥の方に建てた倉庫のところまで進む。
倉庫は木造の平屋で大きめの窓もあり、木目を生かしたデザインにしたから、ログハウスみたいに見える。
「随分大きい倉庫なのね。こんな建物がお庭にあったかしら?」
「僕が作ったんだよ。」
レティは再び驚いて目を丸くした。
幼馴染を倉庫の中に案内する。
「まあ、こんなにたくさん!」
たくさんの椅子や本棚、鏡台などが並んでいることにレティは感心した。
「凄いわね。こんなに生産スキルが凄いものとは知らなかったわ。」
どうやら幼馴染は生産スキルの良さを分かってくれたようだ。
王都と違って、いろんな品物が手に入りにくい西部では、ものづくりの良さは理解されやすいのかもしれない。
帰り際にレティは「生産スキルは素晴らしいわ。どうやら心配する必要はないわね」と笑顔を浮かべた。
何だか気遣われてばかりだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます