第5話 尽きない魔力
いつものように家族で朝食をとっていたら、館の中が騒がしくなった。
「何事か?」
「旦那様、お食事中失礼致します。樹海から魔物が出ました。」
食堂に慌ただしく入ってきた家令のスミスが父上に報告した。
スミスはフェアチャイルド家の家臣のまとめ役をしている経験豊富な老人だ。
樹海と呼ばれる西の大森林の近くの町から、早馬で連絡が来たらしい。
ときどき樹海からは魔物が出て来る。
フェアチャイルド辺境伯家が騎士団を保有しているのは、そんな魔物を討伐するためだ。
騎士が何人か行って退治することも多いけれど、今回は群れになって出て来たらしい。
そうなるとフェアチャイルド家騎士団の出番だ。
父上は朝食を途中で切り上げていった。
よく訓練されている騎士団の準備は早く、その日の昼には装備を整えて館の前に勢ぞろいした。
「総員、整列!」
団長のリアムが号令をかけると、騎士たちは踵を合わせて背筋を伸ばす。
「閣下、準備が出来ました。」
「よし、では行こうか。」
騎士団を率いるのは父上だ。
フェアチャイルド家では、騎士団が出撃するときは当主が率いるのが慣例だ。
父上は剣術スキルを授かっている。有能な指揮官であるだけではなく、個人としても強いのだと家臣たちは言っていた。
馬を並べて出陣する騎士団は勇壮だ。
魔物の脅威から自分たちを守ってくれる存在として、領民の間でも騎士団の人気は高い。
転生するときに勇者を選んでいれば、僕も騎士団で活躍できたかな。でも、どうにも魔物を相手に剣を振るう気になれそうにない。
神様には魂まで疲れていると言われたなあ。
「今日は新しい素材として皮を使ってみましょうか。」
複雑な気分になっていると、ちょうどエリカ先生が新しい素材を使ってみようと提案してくれた。
まず先生が小さな皮の鞄を作ってみせてくれる。
「皮製品の場合、糸も使う必要があります。二種類の材料を使うので難しくなりますよ。」
皮の鞄かあ。イメージが浮かんできたのは、前世で見たイタリアやフランスのブランド物のハンドバックだ。
うん、やはり記憶は鮮明だ。
出来上がりを強くイメージする。
暖かい光が消えると、美しい鞄が現れた。
「まあ、こんなに美しいデザインの鞄はなかなかありませんよ。手触りも良いですね。」
エリカ先生がまた褒めてくれた。
鞄の次はリュックサックを作ってみる。前世で欲しかったけど高くて買えなかったスポーツブランドのリュックをイメージする。
うん、イメージどおりに作れた。
喜んでいたら、また部屋の外でバタバタと足音がした。
「ウィル、何だか凄いモノを作ったんだって。」
「わたしも見たいです。」
今度は両親ではなく、兄上と妹が現れた。
うちの使用人たちは今回は兄上と妹に知らせたみたいだ。
「うわ、すてきなかばん。」
妹はハンドバックが気に入ったみたいだ。
「もしよかったら、ソフィアにあげるよ。」
「ホントですか。ありがとうございます。」
「この袋はどんなふうに持つのかい。見たことのないデザインだけど格好良いね。」
兄上はリュックサックが気になるようだ。
「兄上、それは背中に背負うのですよ。良かったら背負ってみてください。」
「それじゃ、お言葉に甘えて。おお、両手が自由に使えるし、いい感じだね。」
リュックサックは兄にあげることにした。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ。」
こうして家族が喜んでくれるのは嬉しい。
ものづくりが楽しくなってきて、いろんな物を作ってみた。
自分で使うロッキングチェアも作った。揺れながら本を読むのは優雅でいいなと前世で思っていたのだ。
木とガラスを材料にしたミラーチェストも作ってみた。
エリカ先生によると、異なる性質の素材を組み合わせるのは難しいようだけれど、問題なく作れた。
「あらあら凄いわ。これは他の貴族への贈り物にできるわね。」
出来上がったミラーチェストは母上が絶賛してくれた。
先生からは出来栄えを褒めつつ、問いかけがあった。
「ウィリアムさんは本当に才能豊かですね。ところで疲れは感じていないかしら?」
「いえ、特に感じませんが。」
魔法をたくさん使うとお腹はすくけど、食べると元気になるから疲れた感じはない。
「うーん、顔も青くないわねえ。普通は一つか二つ作ったら、魔力が切れかけてぐったりするものだけど。」
そうなんだ。僕は一日にいくつ作っても平気みたいだ。
「どうやらウィリアムさんの魔力は膨大みたいね。王都の宮廷魔術師長より多いんじゃないかしら。」
エリカ先生は感心というより、やや呆れた感じだった。
膨大な魔力量か。
きっと神様の祝福のお陰だ。
勇者でも賢者でもなく生産者を選んじゃったけど、少しはみんなの役に立てるかな。
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