第4話 家庭教師

 僕の授かったスキルは生産スキルだと分かってから数か月後のこと。

 一人の老婦人が訪ねて来た。

 「こんにちは、ウィリアムさん。エリカと言います。」

 にこやかに笑うエリカさんは、父上が招いてくれた生産スキルの家庭教師だった。

 生産スキルは少し珍しいスキルで、領内の工房にもスキル持ちの職人はいるものの、教師になってもらうほど経験豊富な人はいなかったらしい。

 エリカ先生は王都では名の知れた工房を率いてきたけれど、最近になって後進に道を譲り、引退したそうだ。

 そのことを人伝てに聞いた父上が、是非にと頼み込んでくれたらしい。

 できるだけ良い人に教えてもらえるようにという気遣いが嬉しくて泣ける。 


 「それでは今日から生産スキルを学んでいきましょう。」

 まずはスキルとは何か、魔法とは何かについて教えてもらった。

 エリカ先生によると生産スキルの中心になるのはものを産み出す魔法だ。スキルが伸びていくと、関連する他の魔法も覚えていくらしい。

 魔力は体内にあって、それを使って世界に干渉するのが魔法らしい。

 最初に体の中の魔力を感じることから始め、魔力を外に放出する練習をした。

 そして、いよいよ生産スキルの練習が始まる。

 「じゃあ、この木材を組み合わせて人形の座る小さな椅子を作りましょうね。」

 目の前には、使用人が持ってきてくれたいろいろな木材が置かれている。

 「よく見ていてね。」

 エリカ先生が集中した表情になると、木材の一つが暖かい光に包まれた。

 そして光が消えると、小さな椅子が現れた。

 「このように、製造工程などは飛ばしていきなり完成品を作れるのですよ。」

 なるほど便利だ。

 「良いものを作るには、出来上がりのイメージをしっかり持つことが大切なんです。」

 先生によると、明確にイメージすることのできない人が大半のようだ。

 「最初は上手くできなくても気にすることはありませんよ。」

 目を瞑って集中し、先生に教えられたとおり、出来上がりをイメージしようとする。

 椅子といっても、いろんな椅子がある。

 頭に浮かんできたのは、前世で見たアンティーク調の椅子だ。

 ありがたいことに、はっきりと記憶している。これならいけるかな。

 身体から何かが抜けていく感じがする。先生に教えてもらったとおり、魔力を放出できたようだ。

 目を開けると、木材が光に包まれていた。

 「まあ、最初から生産スキルが発動するなんて、凄いわ。」

 良かった。とりあえず生産スキルは発動したらしい。

 そして光が消えると、そこには凝った装飾の椅子があった。

 やった、イメージどおりだ。

 でも、サイズが少しおかしいかな。

 「あらまあ、こんな凝った椅子を作れるなんて。しかも人が使えるサイズのものだわ。」

 椅子を見たエリカ先生は驚いた。

 そして、いろんな角度から椅子をチェックした先生は、うんと頷いた。

 「素晴らしい作品ですね。あなたには優れた才能があります。」

 何だか照れ臭い。こんなふうに褒められたことは前世ではなかった。


 試しにもう一度作ってみたら、同じような物ができた。

 良かった。まぐれじゃなかった。

 しかも最初のときより楽に作れた気がする。

 次は何を作ろうかと思っていたら、バタバタと急ぐ足音がして、部屋の外から声が聞こえた。

 「ウィルが椅子を作ったというのは本当かい。」

 「あらあら、ウィルちゃんは才能があるのかもしれないわね。」

 どうやら父上と母上だ。使用人が知らせてくれたのかな。

 それにしても、二人とも忙しいのに見に来てくれたんだな。

 両親は部屋に駆け込むように入ってくると、椅子を目にとめた。

 「この立派な椅子は先生が作ったお手本かな。」

 「いいえ、ご子息が作ったものですよ。」

 「えっ、ウィルが作ったのかい?」

 「まあ素敵なデザインね。凄く凝った作りだわ。」

 「ご子息の生産スキルの才能は素晴らしいですよ。これが初めて作った椅子とは思えません。」

 父上も母上も凄く嬉しそうだ。

 「よく見せてもらっていいかい(かしら)?」

 二人は椅子に近づき、「ベテランの職人が作ったみたいだな」とか「本当によくできているわね」とか話し始めた。

 ちょうど椅子は二つある。

 怯む気持ちもあるけれど、勇気を出して言ってみた。

 「もしよかったら、この椅子を父上と母上に差し上げたいのですが。」

 「本当にもらっていいのかい?」

 「大事に使うわね。」

 うん、思い切って言って良かった。


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