第2話 魔人の呪法

「すごい……というか、エウロペと言いましたね? 俺の母の名です」


「気付いたか。その通り。私はかつてお前の母に助けられた。このポーチに匿ってもらっていたのだよ」


 なんだか知らないが、こんなすごい人を封じていたなんて、母さんはそこまでの使い手だったのか? そうは見えなかったが。


「あの、お名前は?」


「私はラウレイオーン。1000年前には魔人と呼ばれ恐れられたのだが、もう忘れ去られたようだな」


 確かに知らない名前だ。母さん繋がりであることは分かったが、なぜそんな大人物がアイテムボックスに?


 とはいえ、あらゆる冒険者のポーチに仕込まれている簡易魔術【アイテムボックス】には未知の領域も多い。魔人の魂が封じられていても不思議ではないか。


「アイテムボックスの魔術に潜むなんて、さすがは魔人ですね」


「私のことはどうでもよい。それより、お前を見捨てた仲間に復讐したいとは思わないのか? このアイテムボックスには5つまで、どんなものでも仕舞えるぞ?」


 『どんな物でも』って、まさか……


「人の命とかも収納できるのですか?」


「お、良い推察だな。その通りだ。貴様を陥れた仲間の魂のみを抜き取り、このアイテムボックスに収納することもできる。さぁ、どうする?」


 確かに、アルドたちへの憎しみがないと言えば嘘になる。俺を追放した兄貴や父さんにも、恨みはある。


 だが、人の道は踏み外せない。それでは天国の母さんに顔向けできないからな。


「魔人というからには、すごい魔術が使えるのでしょう?」


「魔術は使えん。代わりに、呪法が使える。魔術の元となった技術で、非常に危険な代物だがな」


 良かった。俺には魔力がない。魔術は使えなくても、呪法なら修得できそうだ。


「なら、俺に呪法を教えてください!」


「なんだ。そんなことでいいのか」


「あっ、でも。なるべく人を傷つけない感じで」


 俺は臆病風に吹かれ、そんな注文を出していた。


「まぁいいだろう。呪法の中でも結界術と呼ばれるものを伝授しよう。よく見ているといい。

【わが主よ、わが領域を守りたまえ】

バアル・カド・アリシュ」


 途端に周囲を黒のドームが覆い尽くした。ドームはバチバチと雷のような音を立てており、ダンジョンの壁を次々に砕いていく。


 やがて地下ダンジョンは崩落し、ドームは地上に剥き出しになった。


「攻性防壁……これは、もはや結界術を越えていますね」


 触れた者を次々と消し飛ばすバリアなど、魔術の世界ではかなり高位の術式だ。それをこんな易々と発動してみせるなんて、さすがは魔人だ。


「レ、レイド?」


 見ると、ダンジョンから脱出したばかりらしいアルドたちが、腰を抜かしていた。

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