第3話 野村と小テスト



  ◇



「はい、沢渡君」

 英語の授業中。小テストの採点のために、野村が自分の答案を俺に渡してきた。俺は答案を受け取ると、自分の答案を渡して採点を始めた。

「……」

 野村の答案は全問正解だった。小テストなので難易度は低めとはいえ、英語は得意なのか、いつもこの調子だった。もう一人のほうとは随分な違いだ。

「沢渡君、惜しかったねぇ」

 答案を戻す際、野村が小声でそう告げてきた。俺の結果は一問だけ不正解。綴りが似ている別の単語と間違えてしまった。野村が言っていたのはこのことだろう。

「……」

 余計なお世話だとは思ったが、言い返すのも癪だったので、だんまりを貫く。ケアレスミスとはいえ、ミスは違いないのだし、自分を戒めればいいだけの話である。

「少し時間が残ってるが、今日はここまでにしよう。他のクラスはまだ授業中だから騒いだり教室から出たりしないように」

 小テストが終わって、英語教師はそう言って授業を終わらせた。教師が出て行って、教室が少しだけ騒がしくなる。

「沢渡君、英語苦手なら教えてあげようか?」

 教科書を仕舞っていると、野村が声を掛けてきた。……さっきのはただのケアレスミスであって、別に苦手ってわけでもないんだが。

「満点だからって偉そうにするな」

「親切心で言ってるだけだよ?」

 にやにやと笑みを浮かべながら言ってくる野村。小テストの点数だけで、マウントを取ろうとするな。

「余計なお世話だ」

「またまたぁ。遠慮しなくていいんだよぉ。妹も英語苦手だから、教えるの慣れてるし」

 ここぞとばかりに煽られて、さすがにイラっとする。とはいえ、教室からは出るなと言われているし、逃げるわけにもいかない。無視するしかないか。

「……」

「ほらほら、お姉ちゃんに頼っていいんだよぉ~?」

 だが、無視していても、野村は顔を近づけてひたすら煽る。……こいつ、うざ絡みがいつもより増しているな。

「……あんま調子乗ってるとぶん殴るぞ」

「えぇ~? 暴力反対ぃ」

 ちょっとキレ気味にそう告げると、野村はさすがに引き下がった。

「ったく……」

 俺は溜息を漏らしながら、次の授業の準備を始めた。



  ◇



「はい、沢渡君」

 数学の授業中。小テストの採点のために、野村が自分の答案を俺に渡してきた。俺は答案を受け取ると、自分の答案を渡して採点を始めた。……相変わらず他人の席に勝手に座って勝手に授業を受けているし、名前も他人の物を書いているが、面倒なので突っ込まないことにしている。

「……」

 野村の答案は全問正解だった。小テストなので難易度は低めとはいえ、数学は得意なのか、いつもこの調子だ。もう一人のほうとは随分な違いだ。

「沢渡君、惜しかったね~」

 答案を戻す際、野村が小声でそう告げてきた。俺の結果は一問だけ不正解。些細な計算ミスをしてしまった。野村が言っていたのはこのことだろう。

「……」

 余計なお世話だとは思ったが、言い返すのも癪だったので、だんまりを貫く。ケアレスミスとはいえ、ミスは違いないのだし、自分を戒めればいいだけの話である。

「丁度いい時間ですので、今日の授業はここまでです」

 小テストが終わると同時にチャイムが鳴り、授業が終わった。休み時間になり、教室が一気に騒がしくなる。

「沢渡君、数学が苦手なら教えてあげよっか?」

 教科書を片付けていると、野村がそう言ってきた。……昨日にも似たようなことがあったな。

「満点だからって偉そうにするな」

「親切心で言ってるだけなんだけど?」

 にんまりと笑いながらそう返してくる野村。小テストの点数って、そんなにマウント取れるものだったのか。

「余計なお世話だ」

「またまた~。遠慮しなくていいんだよ~。お姉ちゃんも数学苦手だから、教えるの慣れてるし~」

 いつも以上に鬱陶しい態度で煽られて、いい加減イラっとしてきた。もう休み時間だし、次の授業までトイレかどこかで時間を潰してもいいが、ここで逃げるのも癪ではある。

「……」

「ほらほら、頼っていいんだよ~? お兄ちゃ~ん」

 だから無視していたのだが、野村は調子に乗ったようで更に煽ってくる。……というか、何だよお兄ちゃんって。

「……あんま調子乗ってるとぶん殴るぞ」

「え~~? 暴力反対~」

 ちょっとキレ気味にそう告げると、野村はさすがに引き下がった。

「ったく……」

 俺は溜息を漏らしながら、次の授業の準備を始めた。

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