第2話 理沙と理奈


  ◇



「ねぇねぇ、沢渡君~」

 私―――野村理沙は、今日も隣の男子に声を掛けた。

「何だよ」

「今日の私、昨日とどこか違うと思わない?」

 不機嫌そうに返してくる沢渡君に、私はいつもの質問をしていた。……私は今、妹とある賭けをしている。その賭けとは、沢渡君にこの質問をして、彼が正解を言い当てられるか。

「知らんがな」

「えぇ~? ほら、もっとよく見て~」

「鬱陶しい……」

 これもいつものやり取りだった。彼はいつも私のことをちゃんと見ようとしない。それがちょっぴり不満で、つい馬鹿にするようなニュアンスを台詞に込めてしまう。

「恥ずかしいのは分かるけど、よく見ないといつまでも分からないよ?」

「なんでお前のことなんか見ないといけないんだよ」

「美少女のご尊顔だよ~? 目の保養じゃん」

 沢渡君はちらりとしか私のほうを見ようとしない。それがちょっとだけ悔しくて、挑発するようにそう言った。実際、客観的に見ても私はクラスでもかなり可愛いほうだと思うし、自惚れでもないだろう。

「んなわけない」

「何おーう!」

 でも、沢渡君には速攻で否定されてしまった。……もしかして沢渡君、女の子に興味ない人?

「お前の髪、金髪で眩しいから目が疲れるんだよ」

「そんな理由……?」

「まあ金髪じゃなくても見ないが」

「何でさ!」

 私の突っ込みも意に介さず、沢渡君は授業の準備を始めてしまう。実際、授業が始まるまでもう一分もない。これ以上は、どの道次の休み時間まで無理だろう。

「ほんと、いつ気づくんだろ……?」

 この不愛想で鈍感な男に、私は呆れるようにそう呟いた。



  ◇



「ねーねー、沢渡君~」

 わたし―――野村理奈は、今日も隣の男の子に声を掛けた。

「何だよ」

「今日のわたし、昨日と何か違うと思わない?」

 不機嫌そうに返してくる沢渡君に、わたしはいつもの質問をしていた。……わたしは今、お姉ちゃんとある賭けをしている。その賭けとは、わたしとお姉ちゃんが入れ替わった状態で沢渡君にこの質問をして、彼が正解を言い当てられるか。

 わたしとお姉ちゃんは双子の姉妹だ。顔もそっくりで体型もほぼ一緒、髪も同じ金色に染めてるから、外見では見分けがほぼつかない。友達ですら、ずっと喋っていても気づかれないことが多い。例外は両親くらいだった。だからこそ、たまに学校で入れ替わっては、いつもと違うクラスで過ごすという悪戯を度々していた。そして今は、隣の席の(正確にはお姉ちゃんの隣の席の)沢渡君が、わたしたちの入れ替わりに気づくか、気づくとしたらどちらの時に気づくか、賭けをしていたのだ。

「知らんがな」

「え~~? ほら、もっとよく見てよ~」

「鬱陶しい……」

 このやり取りも、既に恒例になっていた。沢渡君はわたしのことをちゃんと見ようとしない。多分、お姉ちゃんにも同様なんだろう。だからこそ、彼はいつまで経ってもわたしたちの入れ替わりに気づかないし、そのため賭けは継続していた。

「恥ずかしがらずに、がっつり見てもいいんだよ?」

「なんでお前のことなんか見ないといけないんだよ」

「美少女の顔が見放題とか、男子垂涎じゃん~」

 自分で言うのもあれだけど、お姉ちゃんと同じく、わたしは結構可愛い顔をしている。このクラスでも、自分のクラスでも、トップレベルの美少女と言っていいだろう。

「んなわけない」

「何でや!」

 でも、沢渡君には爆速で否定されてしまった。……沢渡君、もしかしてそっち系? それともブス専?

「お前の髪、金髪で眩しいから目が疲れるんだよ」

「そこまで眩しいかな……?」

「まあ金髪じゃなくても見ないが」

「何でやねん!」

 思わず関西弁で突っ込んでしまったけど、彼はそれ以上取り合わず、授業の準備を始めてしまった。……まあ、授業が始まるまでそんなにないし、仕方ないかな。次の休み時間にまた絡んでみよう。

「ほんと、いつ気づくのかなぁ……?」

 この鈍くて愛想がない男子に、わたしは思わずにやにやしながらそう呟いたのだった。

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