酔いしれた天使と悪魔の大宴会

風馬

第1話

ある日の夜、天使ミカエルは天界で最も評判の悪い酒場、**「天の居酒屋・堕天」**に足を運んでいた。神々の世界では「堕落した者の集まり」と恐れられているこの酒場には、天使や悪魔が何かしらの理由で、神々からの評価を無視して集まっていた。


席についたミカエルの隣には、例によって悪魔ルシファーが座っていた。彼はすでにビールジョッキを両手で持ちながら、半分寝ぼけた目でミカエルを見ている。


「お前、また来たな、天使。」ルシファーはニヤリと笑いながら言った。「天界の空気を吸いたいのか?」


「お前みたいな奴と一緒に酒を飲むのも、たまには悪くないかなと思ってな。」ミカエルは軽く笑い、ジョッキを回した。


ルシファーは不敵に笑いながら一気にジョッキを空け、「お前も結構酒が強いじゃないか。まあ、ちょっと酔っ払うくらいが人生のスパイスだな!」と言って酒を注ぎ足した。


その時、酒場の扉がバタンと開き、何とも威圧的な人物が現れた。真っ黒なローブを纏い、目を血走らせながら歩いているのは、あの閻魔大王だった。


「お前たち、またか!」閻魔大王は怒鳴るように言った。「天界の秩序を乱すようなことをしていると、今度こそ、ほんとに地獄に送るぞ!」


「また秩序かよ。」ルシファーは軽く肩をすくめ、「お前、いつもそのセリフだな。うるさいぞ。」と続けた。


閻魔大王は冷たい目で二人を見つめながら、「お前らのせいで、天界の気温が上がってるだろ!」「それ、酒のせいだろ。」ルシファーは自分のジョッキを見ながら言った。「お前、神々の命令を守ってる場合か?もっと楽に生きろよ。」


その時、天界の空から、突然お釈迦様の声が降ってきた。「争いを避け、酒を控え、和を尊びなさい。」


「また出たよ、あのうるさい坊主!」ルシファーは顔をしかめながら、空に向かって叫んだ。「酒控える?冗談だろ!」


ミカエルは微妙な顔をして、「お釈迦様の教えを守れって言われてもな、酒の勢いに逆らえるかよ。」と言いながら、空いていたグラスに酒を注ぎ足した。


「そうだな、でもな、あれは本当に説得力あるんだよ。」ルシファーはしばらく黙った後、グラスを手に取り、「だって、俺たちが争わなきゃ、酒がなくなっちゃうだろ?」と目を細めて言った。


その言葉に、閻魔大王は顔を真っ赤にして怒鳴った。「お前ら、ほんとうに天界の秩序を乱すな!喧嘩ばかりしてると、今度こそ罰を与えるぞ!」


「罰だって?お前、うるさいな。」ルシファーは笑って答え、「だったら、酒を全部持ってきてくれ。どうせ罰なら、天国の酒で酔わせてくれ。」


その時、お釈迦様の声が再び響いた。「喧嘩しても、酒を飲んでも、結局残るのは腹痛だけだ。」


「そんな教え、今更言われてもな。」ルシファーはジョッキを傾けながら言った。「だったら、腹痛が来る前に全部飲み干してやる!」


その瞬間、閻魔大王は完全に言葉を失い、目の前で酔っ払った天使と悪魔を見つめるしかなかった。最後に、「もう、いい。お前らは自由にしろ。でも、次は天界が炎上しても、俺は知らんからな。」と呟き、仕方なくその場を離れた。


ミカエルとルシファーは、互いにグラスを交わしながら、酔っ払った頭で言った。「結局、誰が秩序を守ろうと、酒があれば何でもいいよな。」


「その通り!」ルシファーはにっこりと笑い、「だからこそ、喧嘩してでも酒を飲む価値があるんだ!」


二人は再び乾杯し、天界の秩序はどこへやら。誰も得しない宴が続くのだった。


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酔いしれた天使と悪魔の大宴会 風馬 @pervect0731

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