第5話・ウォルフリックとの再会
翌日。両親と共に宮殿に出向いた私は、ウォルフリックと引き合わせられた。彼は黒髪に栗色の瞳をした若者だった。髪の色や瞳の色、顔立ちなどの特徴は、現大公や今は亡き前大公に良く似ていて、血の繋がりを感じさせた。疑いようがなかった。
端整な顔立ちは10年前の彼を成長させたものには感じられたが、残念ながらあの頃のウォルフリックさまの面影は微塵も感じられなかった。別人のように思われた。
「ヘッセン侯爵令嬢とは初めて会うような気分だけど、言葉としてはお久しぶりが良いのかな?」
「お心のままに構いません。あなたさまがそう思うのならば、『初めまして』で宜しいのではないでしょうか?」
私達の他人行儀な言葉に、見守る両親や大叔母は心配そうに見守っていた。10年ぶりに再会する仲の良かった許婚同士の会話にはとても思えないせいだろう。でも、仕方ないと思う。ウォルフリックには私と仲良くしていた記憶などないのだから。
「……きみとは少しずつ距離を縮めていけたらと思っている」
「ありがとうございます」
彼は緊張しているように思われた。皆に注目されての会話がスムーズに進むとは思えない。私は提案した。
「大叔母さま。少し二人でお話がしたいのでお庭に出て来ても良いですか?」
「そうね。ウォルフリック。バレリーに中庭を案内してあげなさい。今なら東屋の薔薇の花が見頃だわ」
「はい。お祖母さま。では参りましょうか?」
この場にいても様子を見守る三人の辛気くさいため息が零れるだけなので、ウォルフリックを外に連れ出すことにした。彼はぎこちなく手を差し出して来た。中庭の東屋までエスコートしてくれるらしい。無言で歩き続けた彼は、東屋に着くと話しかけようとした。
「俺……、あっ、いえ僕は──」
「私の前では、言葉遣いを無理に正そうとしなくても大丈夫ですよ。慣れた口調で話してください」
思わず出た彼の一人称。彼は慌てて言い直そうとしたが、彼の本心を知りたかった私は誘導することにした。
「ありがとう。助かる。今までの生活とは180度違うからさ、肩が凝って仕方なかった。でも、あんたみたいなお姫さんが、俺の女房になってくれるなんて夢みたいだ。しかも、優しそうだし」
彼は猫を被っていたらしい。私の言葉に早々に重苦しい猫は脱ぎ捨てたようだった。彼は平民として今まで暮らして来た。そちらの方が馴染んでいるようだ。
「今までウォルフリックさまは、どのようなお暮らしをしてきたのですか?」
「俺は花屋を営む両親と暮らしてきた。大公の息子なんて言われても正直、ピンとこなくてさ」
「ご両親は今も隣国に?」
「ああ。元気に花屋を経営しているよ」
それを聞いて不思議に思った。ウォルフリックさまがいなくなったのは10年前のこと。つまり彼の育ての親は、その当時、6歳だった彼を保護した事になるが、どうして今まで届け出なかったのだろう?
あの頃、レバーデン大公家や、我が家でも大々的に捜索を行っていた。それなのに何の手がかりも無く、まるで神隠しにでもあったようだと、大人達が言っていた。
そこへ大公の妻が事故死した為、その葬儀や喪中に追われ、ウォルフリックさまの捜索はいつの間にか打ち切られてしまったのだ。
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