第6話 一緒に復讐しませんか?
キモデブと紙に書いて俺の机の中に入れた犯人がわからなくて……たぶん近藤絵梨花なんだろうけど近藤絵梨花が犯人なわりには目にハートマークを浮かべて俺をチラチラ見てくるし教えたラインに『なに私のことを見てるの?』という文章と共に可愛らしい絵文字がいっぱい添えられたメッセージが送られてくる。昔はあんなことやこんなことをして俺の人権を踏みにじったくせになにを今更乙女ぶってんだよキショつーかお前はこんな奴じゃねぇじゃんもっと残酷で弱者をイジメる女王様じゃん。
今の俺は弱者じゃないから近藤絵梨花の違う一面を見ているのか? それじゃあ誰が犯人で俺を貶めようとしている?
もう1人の容疑者に俺は心当たりがあった。
全ての授業が終わってホームルームがあって、近藤絵梨花の小学生からの幼馴染が俺達の教室の前で待っていた。小5の時に俺を自殺まで追い込んだ奴の1人である。
コイツにはいっぱい殴られたし画鋲を口に入れられたしオシッコかけてやろうかってゲラゲラ笑われたし唾をかけられたし教科書を捨てられたし上靴も隠された。名前を覚えていたら脳みそが腐りそうだからあえて名前を脳内から抹消していた。
だけど本当はコイツの名前を覚えている。忘れたくても忘れられない大っ嫌い死ね死ねと思う奴。
あだ名はコミショー。コミショーというあだ名のくせにミスター陽キャで、何の取り柄もないくせにクラスカースト上位にいるチャラい奴だった。今も近藤絵梨花とつるんでいるとは思わなかった大っ嫌い死ね。
教室の扉を開けると金髪でピアスを付けたコミショーがいて俺は彼の存在を視線にすら入れずに部活に行こうとした。
「ナオトくん」と後ろから呼ばれて振り返ると近藤絵梨花がいて、なんで呼ばれたんだろう? と思っていたら「コイツ彼氏じゃないから」と言われる。
「えっ?」と俺が聞き直す。
「ほらコミショーもちゃんと言ってよ。勘違いされてるんだから。彼氏じゃないってナオトくんに言ってよ」
と近藤絵梨花が言い出す。
コミショーは苦笑いしながら俺をチラチラ見ていて、うわぁ〜片思い相手にすげぇーこと言われていると思ったと同時に腹の底から込み上げてくる笑い。なんだろうコイツが困っていると嬉しい。
「俺達って付き合ってたんじゃねぇーの?」
コミショーが苦笑いしながら、できる限りコミカルな口調で言った。
付き合ってはないけどいい感じだと思っていた片思いの女子に付き合ってないって言えって言われた時の反応なんだろう。
「付き合ってるわけないじゃん」と近藤絵梨花が目を釣り上げてちょっとマジ切れした口調で言った。
「本当は付き合ってるでしょ?」
と俺が笑いを噛み締めて念押しで尋ねる。
「だから付き合ってないって。ねぇ?」
「付き合ってねぇーけど」と仕方なくコミショーが言う。
「それじゃあ絵梨花のことを狙おうかな」
と俺が言うとコミショーがナイフのように尖った視線で俺を睨む。
「お前」と弱々しい声でコミショーが言う。
「黒瀬直人っていうんだろう?」
それは何かを確認しようとするような口調だった。別に俺はイジメられっ子だとバレてもかまわない。キモデブを乗り越えてイジメられっ子を乗り越えて運動して功績を残して色んな人に評価されて今の俺がある。もう俺はあの頃の俺じゃねぇ。
「それがどうしたんだよ!」
と少しキレた口調で言う。
コミショーは怯えたように目を泳がせて「なんでもねぇー」と言って俺から視線を逸らす。
「それじゃあ絵梨花、俺部活あるから」
と俺は大嫌いな近藤絵梨花に手を降った。
「またね」と彼女が言って手を振り返す。
コイツ等をどうしよう? むちゃくちゃに人権とか踏みにじって過去の仕返しをしたいのに、どうやったらいいのかわかんねぇーと思いながら近藤絵梨花に笑顔で手を振り返して部活に行く。部活終わりには春田マキちゃんがまた駐輪場のところで待っていて自転車で二人乗りして帰る。春田マキちゃんは近藤絵梨花が俺を横取りしそうで嫌だぁーみたいなことを言って後ろから抱きついてきたけどクスぐったいからやめてと俺はケラケラ笑いながら自転車を漕いで彼女を家まで送って、次の日の土曜日も部活があってそれが終わってからダイヤモンドシティーの本屋で文香と待ち合わせをした。
文香は長袖の黒いワンピースを着ていて、それが彼女の体型や雰囲気にもあっていて、すごくおしゃれだと思うと同時に妖艶さみたいなモノもあった。俺は無地の黒のトレーナーに黒いパーカーにデニムを履いて無難な選択をしていた。
色々と話したいこともあったのに、とりあえず本屋で待ち合わせしたから本の話をする。
「文香に本をプレゼントしたい」と俺は言った。
「あっ、それじゃあ私もプレゼントする」
ってことになってお互いに好きな本をプレゼントすることになった。
俺は電撃文庫の『ミミズクと夜の王』を彼女にプレゼントして、文香は昨日話題に上がった舞城王太郎の『土か煙か食い物』を俺にプレゼントしてくれた。お互いありがとうと言い合って本を交換して、喫茶店に入ろうとしたけどブラブラ外を歩きたいと文香が言うからダイヤモンドシティーを出て暗くなって行く街を目的もなく歩く。
本のプレゼント交換はあの頃の繋がりみたいなモノは無くなってしまったけどまだ俺達の関係を修復できるよねみたいなやり取りで、どちらか本題を切り出すのか歩きながら様子見していたけど切り出したのは文香からだった。
「ナオトくんが転校してから」
と彼女が言った瞬間には小学生の頃の話をしていることはわかった。俺達の脳内には、いつもあの時のイジメられていた自分達とイジメていたアイツ等がいて、俺が去った後のその後の話を俺は知らない。
「私も死のうとして自殺をしたんだよ」
と彼女が言った。横を見ると文香のサラサラの黒髪が揺れて口角を上げた白い頬がチラチラと見えた。
「だから私も病院に緊急搬送されて、それから転校したんだ」
「逃げてごめん」
「ナオトくんが謝ることじゃない」
「うん」と俺は頷く。
「近藤絵梨花が、俺達の高校にいること知ってる?」
「知ってるよ」と彼女が言う。
「俺、アイツに復讐したいのに、どうしていいかわかんねぇーんだ」
と俺が言う。
もしかしたら復讐なんてやめなよ、と彼女が言うかもしれないし復讐という言葉を使ったことにドン引きされるかもしれない。彼女は過去を乗り越えているのかもしれない。そしたらあの頃の憎しみを今だに持っているのは俺だけだったんだとわかって残念な気持ちになるだろう。
「そっか」
と彼女が弾んだ声で言った。
「ナオトくんも復讐しようとしてるんだね。嬉しい」
「文香も?」
「あんな奴、死ねばいいの。うんうん死んだらそこで苦しみが終わりだからXXXビデオにセッ○ス動画でも投稿されて親戚や友達に拡散されればいいのに」
と文香らしくもなく弾んだ声で言ってスキップした。
XXXビデオっていうのはエロ動画の投稿サイトで女子高生でも知ってるんだ、って驚きはあったけど、近藤絵梨花はそこまでされて当然だと思う。
「文香」と俺が言う。「それ最高じゃん」
「でしょ」と文香が言う。
「あとアイツ」と彼女が言って暗い目をして俺を見る。「小宮翔一、アイツはマジで死んでほしい」
「どうして?」
「同じクラスになったんだけど……私が田口文香だと気づくと、小6の時に撮られた私の裸の写真で、私を脅してくるの。私とセッ◯スできると思ってるの。死ねよマジで」
と彼女が震えた声で言った。
そして泣き出しそうな顔で俺を見つめて、「一緒に復讐しませんか?」と彼女が尋ねて来た。
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