第3話 元イジメっ子とも知らず目にハートマークをさせて近づいて来たバカ女vs

 近藤絵梨花の手口はわかっていた。

 クラスの中心的な人物になり、可愛いさで男達を魅力して従う奴を作り、気に食わない奴をイジめて私に従わなかったら地獄行きを可視化してクラスでの発言権を強くするのだ。


 俺は近藤絵梨花を弄ぼうと思っている。具体的には〇〇したり、〇〇したり、そういえば近藤絵梨花のせいで顔面にオシッコをかけられたことがあったけ? 絶対にやり返す。俺が彼女を魅力して心を破壊して泣いてすがって恋人にしてほしいと懇願しても顔面にオシッコをかけて拒絶してやる。アイツが俺にしたように人権を踏みにじってやる。


 これは戦いなのである。

 

 元イジメっ子とも知らず目にハートマークをさせて近づいて来たバカ女。

 vs

 仕返しするためにセ◯レにして弄ぼうとする俺。


 しかも俺の方が情報戦で優位の立場である。彼女の手口を知っていて対策ができるのだ。


 入学式から1週間。

 教室に入ると近藤絵梨花の居場所をチラッと俺は確認する。奴も俺が登校したことを確認しているらしく、視線が重なる。近藤絵梨花は教室の端っこ。クラスのイケてる女子3名を集めて巣を作っていた。


 小学生の時も彼女は隅っこに陣取っていた。そしてコソコソと同じグループのイジメっ子達に今日どうやってキモデブをイジメるか相談していたのだ。彼女がソコにいるというだけで俺の心は恐怖と憎しみが混ざり合って、何もされてない現在でもトラウマを生成しているような嫌な気持ちになる。


「黒瀬きゅ〜ん」と男子生徒が言って近づいて来る。「おっは」と俺が言う。「黒瀬くん、おはよう」と女子数名が言う。「おはよう」

「ナオ〜ト」と男子生徒に飛びついてくる。「重たっ」と俺は言う。「朝からイケメンやの〜」

「んっなことねぇーよ」

「ナオト君おはよう」と静かなタイプの男子まで俺に挨拶してくる。「おはよう。昨日言ってた漫画読んだよ。超面白かった」と俺が言う。



 そうである。初めの近藤絵梨花との戦いは陣取り合戦だった。どちらがクラスで人望を集めてクラスの発言権を強くするのか。


 近藤絵梨花が小学生5年生で転校して来た時に、そうやって彼女はクラスの発言権を強くしていたのだ。気づいた時には彼女はクラスの女王様になって誰も彼女に逆らう奴はいなくなった。


 今回の陣取り合戦は明らかに俺の勝ちである。

 近藤絵梨花はイケてる女の子数名。

 俺はクラスメイトほぼ全員と仲良くなっていた。これで近藤絵梨花がクラスメイトを使って空気を作り出す効果を塞げるはず。

 いやいや、まだまだ余談は許さない。まだゲーム開始から1週間も経っていないのだ。オセロだって終盤に全てをひっくり返されていることもあるのだ。


 近藤絵梨花の女子グループが動き出す。トイレに行こうとしているらしい。彼女達のグループの中に、そろそろ仲良くなりそうな女子がいて、その子にしかわからないように俺は小さく手を振った。茶髪で巻き髪の春田マキちゃん。

 彼女はそれに気づいて俺に小さく手を振りかえす。


 女子グループの先頭を歩いていた近藤絵梨花が男子にぶつかった。しかも、よりにもよってカースト下位の角刈りのデブ。五十嵐くんである。


「いたぁ〜」

 と近藤絵梨花が言った瞬間、俺だけが体を硬直させた。

 彼女がイジメのターゲットを決めるのは些細なことからである。

 俺がイジメられてなくても、イジメが間近にあると思うだけで胃にあるモノを全て吐き出してしまいそうになる。だからイジメは許せないし俺の目の前に存在してはいけない。


 まだ近藤絵梨花は本性を出していない。女子グループも、まだ彼女の負の面を知らない。俺だけがイジメられていた過去を思い出して、五十嵐くんがイジメの対象になると思って、口の中が薬を飲んだみたいに苦くなる。


「あっ、ごめんごめん」

 と五十嵐くんが軽く謝る。

 ぶつかったお前も悪いんだからな、みたいなニュアンスがある謝り方だった。


 俺は息を飲んだ。

 

 近藤絵梨花の目は明らかに軽蔑と嫌悪感を抱いた目だった。

 その目を見た五十嵐くんが、目を泳がせて誰かに助けを求めた。

 ヤバい奴にぶつかったと人生経験で感じ取ったのだろう。

 そして、この緊急事態を唯一見ていた俺と五十嵐くんの目が合う。

 

 そうか、今の俺なら助けられるのか。

 五十嵐くんが、過去の自分に見えた。少しニキビ面で脂ギッシュでデブ。俺は席から立ち上がって五十嵐くんに近づいて行った。


「ウチの子がぶつかってしまって、申し訳ございません」

 と俺は少しコミカルな口調で言って、近藤絵梨花に頭を下げた。

「別にナオトくんが謝ることじゃないし」

 と少し頬を赤く染めて近藤絵梨花が言った。いつの間にか黒瀬くんからナオトくんに呼び方が昇格されている。

 

 俺だって別にコイツに謝りたくない。だけど俺が動かないとコイツはいつか五十嵐くんを攻撃対象にするのだ。

 五十嵐くんを助ける義理なんてないけど、あの頃の俺も誰かに助けを求めていた。


「アンタもちゃんと謝りなさい」

 と俺は五十嵐くんに言う。

「ごめんって」

 と五十嵐くん。

 って、が余計だけど、良しとしよう。

「この子もこうやって謝ってるから許してください」

「別に怒ってないわよ」

 と近藤絵梨花が上目遣いで言う。


「絵梨花、トイレ早くトイレ」

 と女子が言う。

「もう、わかってる」

 と近藤絵梨花。

「またね」と近藤絵梨花が言って、俺に手を振った。俺も手を振り返す。


 そして近藤絵梨花率いる女子グループが教室を去って行った。

「女子怖ぇー」

 と五十嵐くんが呟いた。

「同意」

 と俺は言った。

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