第11話 『花柄』 ことのは もも 様

p.94)子供の頃に読んだ本の主人公に影響を受けた


この話を読み終えて、もう一度この文を読む。凄い文だと思う。



p.94)彼女がどのメーカーのどんな文房具を実際に使用しているのか気になった俺は、


純粋に、それはそういう興味から「俺」は彼女の誘いを受けたのだと信じられる。だが、彼女は別段、文具好きではないのだと思う。おそらく傘だって忘れたわけではないだろう。すべては罠だ。



p.94)リビングのソファーの前のテーブルの上に広げていた紙と数本の筆と墨や硯。


期待していた文具とは微妙にズレる書道セット。無論それは文具のカテゴリーとしてもよい用途をもっているが、ここに唐突に現れる書道セットに対して違和感を抱くことは本能的に正しかったのだ。


p.95)白い壁紙に黒の小花柄。


ゾワゾワする。



「先輩の手形も今日からここに仲間入りですよ」


彼女の、何重にも屈折したコレクター気質に痺れる。

彼女が花柄がすきなのは、好きなものが花柄のように見えるからであり、身に着けているものの中には、彼女のオリジナルも含まれていたに違いない。

彼女にこうした性癖を覚醒させた本は何だろうと考えてみたいが、それをサイコ系の小説から見つけ出すのはわたしの手に余る。

むしろ、幼いころに母が成長の記録として子供の手形を残す、という行為に関して、彼女には何か、思いがあるのではないか、と勘ぐってみたい。

手が好きだ、というコレクターは手をどのように蒐集するだろうか。

彼女にとって花柄はコレクションの本体ではなく、その目録のようなものなのではないのか。文具は記録する道具である、という点からそういう文具の用い方は正しい。

ところで、手は本体を生かしておけば何度でも繰り返し眺めたり花柄スタンプを押したり、その他さまざまなことを試したりすることができるはずだ。。

彼(先輩)は、壁紙の手形に仲間入りするのみならず、必要なときだけ取り出され、真っ黒になるまで酷使されたらまた放り込まれるクローゼットの中のコレクションになったのだ。

コレクターの中には、集めるだけで満足するタイプと、完璧に分類整理するのが目的なタイプに大別できる。そのいずれに捕獲されるほうがマシだろうか。彼女はおそらく前者なのだが。


ここでは文具は文具好きを油断させ、罠に誘い込む働きを果たしていた。文具好きに悪い人はいない、などとはいわない。脅迫状に用いるボールペンにこだわる誘拐犯だっているかもしれないのだから。

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