第2話 『君の長さがちょっと短い』 のりてるぴか さん
p.18)これはね、理想の結婚相手を見つけられる定規なの。
ショートショートには奇想天外な道具が登場する。その多くは単機能なアナログで「文房具」の姿をとるものも多い。ドラえもんの秘密道具にも共通するものがある。既存の道具に意外な用途をどう適用するか、また既存であるが故の制約をどうストーリに生かすかが、腕の見せ所となるのだろう。
p.18)女性専用なのゆお。定規って漢字、夫を見定めるって書くでしょ?
言葉にたいする感度、アンテナの精度が高いことが、ショートショート作家の特徴だと思う。定規をこのように分解できると看破する力。このお話自体が、この言葉から着想したものだったのかもしれない。
p19.)十四センチくらいだね
軽い下ネタは、七瀬と修一の関係性を、記述していない背景までを含めて読者に与えることができる、とても効率のいい方法である。
p.20)三十センチの男
「十四センチ」に対して「三十センチ」と呼称する。ここではすでに長さだけではない、七瀬と修一と中村の関係性そのものを示す指標となっている。それは定規に期待される用途に合致している。定規にとっては長さが全てだからだ。
p.27)中村くんと一緒にいる時も、つい修一と比べてた。
定規の目盛りは、天文学的数値から決められているらしい。それは客観的で普遍的だ。しかし、人間を測る定規はもっと主観的でいい。それに七瀬は三万円の定規よりも信頼できる定規をすでに知っている。それは七瀬のための定規でもなく、修一のためのものでもなく、七瀬を幸せにするためのものでもないと分かっている。そんな、主観的すぎる定規の目盛りに不安を感じた時、他に頼るべきものを求めたのだ。三万円の定規はその助けとなったか。
p.24)うまく折り合いをつける
修一は七瀬の迷いを断ち切るために定規を折る。それは、七瀬の結婚相手委に対する理想の半分を捨てさせる、というふうにもとれる。人間関係において、それぞれが「ありのまま」でなんの不満もない、などということはありえないだろう。杓子定規なチェック項目さえ満たせば、末永く幸せに暮らせました、が手に入るほど単純なものではないのだから。
このお話では、定規という文房具を、ある意味で捨て去ることで新たな一歩を踏み出せる。道具とはあくまでも補助具であって、それが枷になるのであればあえてこだわる必要はないのだ。七瀬は三万円で不安を捨てることができる定規を買った。半分に折ってもらうための定規。まさに、意外な、そして共感できる用途であった。
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