デートですか?いえ違います。あくまでシリアスです。
真・法隆寺派に攫われたあと、青葉さんに連れられて建物を後にした。
外に出てみると、あたりはすでに真っ暗。
閉じ込められていたのは廃墟と化したラブホテル跡だった。
「こんなとこに押し込められてたのか・・」
誰に言うとも無く呟いてしまう。
「青葉さんもよくこんな所まで来られましたね」
「君のスマホは追跡されてるからね。それでも攫われるのは防げませんでした」
「あれ?そういえば僕は監視されてるんじゃないんですか?それなのになぜ誘拐が阻止できなかったんです?」
「・・・実はその瞬間は私は目撃していない、いや出来なかったんですよ。私の目には、君は何事もなく歩いているように見えていましたから」
なるほど、誘拐の瞬間は幻術でカムフラージュされていたわけか。
それよりも・・
「いや、僕のスマホ、追跡されてるんですか?」
危うく流してしまうところだったけど、とんでもない話じゃないか。
追跡されてるってか。
誤魔化されるかもと思いながらも聞いてみると
「してますよ。君に万が一のことがあってはいけないのでね」
あっさり認めた。
そんなに簡単に認められるとこちらとしては文句も言いにくい。
「あ、そうなんですか」
などと間抜けな言葉しか返すことができなかった。
それよりも、彼らが言っていたことは真実なんだろうか。
僕の知らない歴史。
聞いてみるべきか。いや、青葉さんに聞くよりは・・霧島さんに聞いてみよう。
青葉さんが運転する車は自宅に向かっていた。
窓から眺める景色がだんだんと山奥から街に戻ってきた。
どうやら山梨付近で軟禁されていたようだ。
しばらく走るとコンビニの明かりが見えてきた。ずいぶん長いこと見ていなかったような気がする。
車はそのコンビニに入っていった。
「ご飯は食べた?何か買ってこようか?」
気を使った青葉さんが声をかけてくれる。
そういえば夕食は食べてないな・・。
「じゃあサンドイッチをお願いできますか」
「ん、了解だ」
ドアを開けて店内に駆け込む後ろ姿が何故か妙に格好良く見えた。
一人になった車内で、今日の出来事を思い出す。
存在しなかった同級生。
法隆寺と聖徳太子の信じがたい話。
そして誘拐。
いろいろありすぎて、どうにも考えがまとまらない。
何が事実で何が嘘なのか。
頭がパンクしそうだった。
・・・そういうときは考えても仕方ないな。
今のところは家に帰れることを考えよう。あ、そういえば両親は知ってるのかな。誘拐されたこと。
そんなことを考えていると車のドアが開いた。
手に袋を持った青葉さんが乗り込んでくる。夕食を買ってきてくれたんだ。
「いろいろあったから、美味そうなやつを買ってきたよ。コーヒーもあるからコレ食べて少し落ち着きな?」
そう言ってコンビニ袋を差し出してきた。
「ありがとうございます。じゃあいただきます」
ガサガサと袋をあさり、サンドイッチとコーヒーを取り出して早速いただく。
「じゃあ自宅に向かうよ」
そう言って車を発進させる青葉さん。
「そういえば僕の両親には連絡はいってるんですか?」
「連絡してあるよ。解放できたことも知らせてあるから、今ごろは胸を撫で下ろしてるだろうね。君からも連絡を入れてあげてくれるかな」
サンドイッチを平らげた僕は、コーヒーを飲みながら自宅宛にメールを送信した。青葉さんに助けてもらったこと、体に異常はないこと。
送信ボタンを押すと、気持ちが落ちついたのか急に眠気が押し寄せてきた。
特に何も感じていなかったけど、やはり体は緊張していたらしい。
そして青葉さんの優しい運転がさらに眠気を加速させていた。
「眠ってても構わないよ」
ウトウトしていたのがバレてしまった。
青葉さんに申し訳ないので頑張って目を開けていたのだけど、もう限界だ・・。
「すみません、では少し寝させてもらいます・・・」
そう言って僕は眠りの世界に入っていった。
頭がガクッと揺れて目が覚めた。
車はもう自宅近くを走っている。ほんの数時間誘拐されただけなのに、なぜか嬉しくなってくる。まさか人生で誘拐されることがあるとは思わなかったから、余計に帰宅できたことが嬉しく思える。
長い一日がようやく終わろうとしていた・・・。
翌朝。
いつも通りの朝。今日は・・日曜日。昨日の疲れがまだ残っているのか、体がとても重かった。
もう少し寝ようかと思っていたら「大悟ー!いつまでも寝てないで起きなさい!」
母上の怒声。休みの日くらいいいじゃんか・・。
眠気まなこで部屋を出て、用意されていた朝食を食べつつ両親に昨日のことを聞いてみた。
自宅近くにいた記憶はあるんだけど、それ以降が眠すぎてはっきり覚えてないんだよね。
両親いわく、青葉さんに担がれて自宅に帰ってきたらしい。そのまま自室に連れていかれ、布団に寝かされたとのこと。青葉さんには迷惑かけたなぁ。
誘拐の連絡をもらった時は驚いたし焦ったけど、特に何ができるでもなし。
なので自宅でおろおろしながら続報を待っていた。
解放の連絡が入ったので、そこでようやく気持ちが落ち着いた。
大雑把に言うとそんな感じらしい。
ある程度そういう可能性は聞かされていたし、霧島さんたちが信頼できる人物であること、相手は乱暴を働くような組織ではないことも聞かされたので、それほどうろたえたりはしなかったらしい。
それはそれで良かったような残念なような・・・。
複雑な表情を浮かべていると、父親が口を開いた。
「とにかく無事で良かった。あっさりしてるように見えるけど、母さん泣いてたんだぞ。
おまえが原因じゃないから仕方ないけど、これを機会にひとつ武道でも身に着けたらどうだ?」
それは光淳さんにも言われていた。実際こういう目にあったわけだし、あまり気は乗らないけど習うべきかな。
「それと、霧島さんにも連絡入れてくれないか。なんか話がしたいそうだぞ。あんな美人と話せるとかうらやま・・イテテ」
話の途中で母さんが親父の頬をつねっていた。
「ま、まぁそういうわけだからよろしく!」
逃げるように立ち去る親父。ジト目で見つめる母。
なんだかんだで仲のいい夫婦だなぁ。
朝食を終え、自室に戻った僕はさっそく霧島さんにメールで連絡を入れてみた。
そういやこの人の電話番号、知らないなぁなどと思っていると、返事が返ってきた。
「昨日は大変でしたね。体調は問題ありませんか?お話したいことがあるので、どこかで
会えませんか?」
用件だけの簡単なメール。業務連絡かな?とも思うけど僕はあくまで警護対象なんだからこんなもんか。
って何を期待してるんだか。
「いいですよ、じゃあ駅前のコーヒーショップでどうですか」
「わかりました。では後程」
僕もだらだらと文章を書くのは苦手だから、これくらいが丁度いいのかも知れないな。
そう思いながら出かける準備を始めた。
駅前にあるコーヒーショップに入ると、すでに霧島さんがカウンターに座ってコーヒーを飲んでいた。
「遅くなりました」
「大丈夫ですよ。ゆっくり待たせてもらってましたから。それよりお疲れのところ呼び出して申し訳ありません」
「いや、気にしないでください。特に疲れてないですし、やることも無かったので。で、話ってのは昨日の件ですか?」
「とりあえずコーヒーでも頼んできてください。話はそれからです」
・・何か妙にアタリがきついな?
とりあえず、言われたとおりにコーヒーを注文し、席に着く。
どんな話が出るんだろうと思っていたけど、他愛もない雑談ばかりだった。
あれから修行しているか、とか東京観光についてとか。そんなことで呼び出されたのか・・?
互いにコーヒーを飲み終えると、霧島さんが外を歩きましょうかと言ってきた。
カップを返却し、怪訝な顔をしながらも霧島さんの後に続いて店を出る。
店を出た僕たちは、近くの緑道を歩いていた。
無言のまま、時折スマホを見つめて歩く霧島さん。話があると言うから来たのに、一体どうしたんだろう。
「お待たせしました。もうそろそろ大丈夫ですね」
「え?大丈夫って何がですか?」
「実は店内からずっと尾けられてたんですよ。おそらく真・法隆寺派でしょう。私のバッグに仕込んだカメラで後方を見ていたんですが、ようやく離れてくれたようです」
スマホを見ていたのは後方をカメラで見ていたのか。なるほどな。
「早速ですが、昨日は助けにいけず、申し訳ありませんでした」
そういえばこの人いなかったな。そんなの気にするどころじゃなかったから、言われて初めて気づいたよ。
「別の場所で仕事があったため、青葉君に任せきりになってしまいました。ただ状況は逐一報告されていたので、経過については把握しています」
まぁ四六時中僕に張り付くわけにはいかないし、それだけが仕事じゃないだろうからそれは仕方ないんじゃなかろうか。
「で、本題ですが、攫われた間に何か話をされましたか?」
おおう、それは僕も話したかったことです。
彼らの一部が暴走した結果、僕が攫われたこと。
法隆寺の歴史について、またその始まり。
そして聖徳太子とは何者なのか。
これらを詳細に話すと、霧島さんがプッと吹き出した。
「そんなことを言っていたのですか?事実は学校で教えられた通りの歴史です。
聖徳太子が宇宙人とか、なかなか荒唐無稽な作り話ですね」
鼻で笑われてしまった。
あの話は嘘っぱちだったのか?
それにしては妙に辻褄が合う気がするんだけどな。
そうなるとなおさら、疑問が沸き起こる。
「彼らは法隆寺の名をかざしたテロ組織です。彼らの言うことを真に受けてはダメですよ」
とはいえ何か質問しても、軽くあしらわれて終わりそうだ。
「そうなんですか、やっぱりね」
とりあえず話を合わせ、騙されていたという感じに話をまとめた。
緑道を抜けて隣の代田橋駅近くまでやってきた。
「話は以上です。くれぐれも彼らの言うことは真に受けないでくださいね」
そう言って霧島さんはどこかに消えていった。
姿が見えなくなるのを確認し、念のため広域索敵で距離が開いたことを確認。
自身の思考ブロックを解除し、ほうっと溜息をつく。
「あの人、ナチュラルに人の考えを読むからな・・・。これはブロックしておいて正解だったかも」
それにしても、真・法隆寺派の話をあからさまに否定したな。
もしそんな話を聞いたことが無いとしたら、あそこまで否定するだろうか。
いつもの霧島さんなら調べてみます、と言いそうなものだけどな。
実は知ってるのかな・・・。
彼女の思考はいつも読めないので、真実は分からない。
だけど疑念を生じさせるには十分な態度だった。
これは僕のほうでも調べてみた方がいいかな。
聖徳太子とは何なのか。
法隆寺とは何なのか。
真・法隆寺派は何を目的にしているのか。
そして、僕のこの能力は一体何なのか。
考えを巡らせながら駅に向かって歩く僕を、じっと見つめる人物がいるとも知らずに僕は家路につくのだった・・・。
まほろば大戦 @marorinrin70
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