迂闊ですよ、霧島さん!

霧島さんと連絡が取れない、と聞いて

「え、どういうことですか」と聞き返した。

「大悟様を東京まで送ったところまでは連絡がついたのですが、それ以降電話に出なくなりました。今は位置も把握できません。それで、東京に着いてから何かあったんでしょうか?」


特に思い当たることは無かった。

特に何処に行くとかも聞いてないし、護衛は継続する、くらいしか・・・。

「最後に確認できた場所は新宿駅です。こちらからも何人か送って捜索しているのですが、なにせ手掛かりが何も無く、宿泊場所にも行ってないようなので足取りが追えません。そこで大悟さんにも協力いただきたいのです」


あの人と3日間も連絡が取れないってのは尋常じゃない。何かしらの事件に巻き込まれたのだろうか。

「わかりました。僕も捜索してみます」

「助かります。ぜひ大悟さんの能力をお貸し下さい。私はそちらには行けませんが、できる限りの支援をいたします。また、そちらに行っている者とも合流できるよう手配いたします」


知った人が行方不明になるなんて、やはり気が気ではない。あせる気持ちを抑えつつ、まずは広域索敵で探索を始めた。

・・・わからない。

ここからだと遠すぎるのか?

新宿って言ってたな・・まだ夕方だし、そちらの方に行ってみようか。

最寄りの駅から電車に乗れば新宿まで乗り換えなしで行ける。

そう思うが早いか、僕の足は駅に向かって走り出していた。


学校最寄りの桜上水駅に着いた。階段を駆け上がり、荒い息を吐きながら改札を潜ろうとしてふと周りを見渡す。


・・・気のせいかな。


誰かにつけられてる気がする。

索敵をすると反応があった。学校を出た時にも同じ反応があった。

あの柱の陰だな・・。


じっと見ていると、誰かが柱の陰からこちらを見ている。

僕がが見ているのに気がついたのか、慌てて顔を引っ込めた。


とりあえず急ぎたいので、改札を通ってホームに出る。出たところで後ろを振り向くと、そこには見知った顔があった。

「大悟じゃん。今から帰るとこ?」

小野だった。

学校からついて来ていたのはどうやら彼女らしかった。

「小野は帰り?僕はちょっと新宿まで行くんだ」

「新宿?珍しいね、そんなとこ行くなんて。何か用でもあるの?」

「ちょっと買い物だよ。小野は帰るとこ?」

「そうだよ」

「小野の家ってこっちのホームだっけ?」

確か小野は調布に住んでたような・・?

「あ、帰りに親戚の家に寄るように言われててさ、たまたま今日はこっちなんだよ」

ふーん、そうなのか。

「どこまで行くの?」

「えっと、初台」

「じゃあそこまで一緒に行こうか」

「あ、うん、そうだね」

何故か落ち着きがない小野。

トイレでも我慢してるのかな?

まぁいいや。とりあえず電車に乗り、とりとめのない会話をして初台で別れた。

動き出す電車の窓越しに手を振りながら小野と別れる。

さぁ、いよいよ新宿だ。


駅から地上に出て索敵開始。

すると、霧島さんの反応があった。

移動しているようで、どうやら駅に向かってるようだ。


霧島さんを確認するため、反応に向かって歩き出す。

移動しながら敬淳さんに連絡を入れた。

霧島さんの反応があったこと、移動していること、これから確認しに行くこと。

「お一人では何があるかわかりません。なので近くにいる職員と合流して下さい。幸いにも一人、新宿におりますので」

それもそうだ。高校生一人で何ができるのか。

言われた通り、霧島さんを追いつつお寺の関係者と合流しよう。


しばらく追跡していると、「大悟さんですか?私は法隆寺職員の青葉、と申します」

グレーのスーツを着た細身の男性が声をかけてきた。

この人が、敬淳さんが言っていた人らしい。

ビジネスリュックを背負ったその姿は、このあたりじゃ当たり前に見かけるサラリーマンに見える。

「事情は聞いております。大悟さん、あなたのことも・・ですので遠慮は無用です」

そう言われて霧島さんの位置を教える。

移動しているうちにかなり追いついてきたようで、反応はすぐ近くにあった。

「もうそろそろ見えそうですね」

大勢の人が行き交う中を目を凝らして霧島さんを探す。

・・・いた。

別れた時と同じスーツ姿のままの霧島さんがそこにいた。

「あ・・・大悟さん、青葉君、きてくれたのね」

見た目は特に異常はなさそうだった。

足取りもしっかりしてるし、衣服の乱れもない。ただ、持っていたはずの荷物はなかった。

「迂闊でした・・」

項垂れる霧島さん。

話を聞こうとしたけどここは新宿駅。人が多すぎるので一旦、別の場所に向かうことにした。


どうやらスマホも財布もなにもかも無くしたらしく、連絡を取ることも出来なかったようだ。

とりあえず、時間も遅いので近くのビジネスホテルに行くことにした。

幸いにも部屋は空いていたのですぐにチェックインできた。

青葉さんが霧島さんに寄り添って部屋まで向かい、僕は近くのコンビニで飲み物、食べ物を買う。


両手いっぱいに買い物をして部屋に入ると、霧島さんはシャワーを浴びており、ソファでは青葉さんが難しい顔をして座っていた。

「食事と飲み物を買ってきました」

「あぁ、ありがとう。霧島さんが出てきたら食事にしようか」

買ってきた缶コーヒーを口に運びながら青葉さんが言う。

「大まかに話を聞いたんだが・・何者かに攫われたらしい」


え、攫われた?


日常生活ではなかなか聞かないワードにびっくりした。

「ずっとつけられてたようですね。ただ、手荒なことはされてないようです」


その言葉に少しほっとする。

「その先は私が話します」

バスルームから霧島さんが出てきてソファに腰を下ろした。

状況を伝えるため、スマホをテレビ通話にして法隆寺に繋ぐ。

「東京駅から新宿に移動し、駅を出たところで数人に囲まれて、そのまま近くのホテルに連れて行かれました。荷物は全て奪われ、そのまま軟禁です」


テレビでよくある地下室に監禁とかじゃないんだな。

「監禁用の部屋を用意するのは簡単ではありません。彼らの拠点となる場所はあるでしょうが、そんな所に私を連れて行く訳にはいかないでしょう。むしろ殺したりするつもりがないなら、安いホテルか何かのほうが防犯設備も無く、お手軽です」

あ、考えを読んだな。

「しばらくは監視付きの軟禁状態だったんですが、今日突然に解放されました」

「何でまた解放されたんでしょうね」

僕が問うと

「聞こえた話では、何かに失敗したとか。拷問等をしなかったところを見ると、目的は私ではなかったようです」


・・・霧島さん自体が目的ではない、と言うことは・・・わからないな。

悩んでいると、難しい顔をしていた青葉さんが口を開いた。

「今はまだわからないことが多いですが・・心当たりはあります。恐らくは真・法隆寺派かと」


霧島さんが怪訝な顔をしながら、

「話には聞いたことがあります。かつて法隆寺は別勢力に乗っ取られ、本来の法隆寺の僧侶たちは居場所を問われた、とのことですが・・・あれは戦国時代の話なのでは?」

「話自体は事実でして、その居場所を失った僧侶達の末裔が真・法隆寺派を名乗って活動しているらしいのです。とはいえ実力行使に出るような組織では無かったですし、そもそも活動しているかどうかも怪しい状況でした」

「・・・今はまだ、誰が私を攫ったのかは断定できないですね。ただ大悟さんも無関係ではありません」


よくわからないまま相槌を打っていただけの僕が、突然話題に出てきた。

「え、それはもしかして聖徳太子が絡むからですか?」


霧島さんが僕の方を見る。

「聖徳太子の生まれ変わりという人物を取り込めば、彼らの主張も真実味を帯びてきますし、組織に取り込んだ君の口から法隆寺を返せ、と言わせればあるいは奪還も可能性が無いわけではありません」

「・・・」


言葉を失った。

まさか自分がそんな大きな話に巻き込まれるとは思っていなかった。

特殊能力すげー!奈良に旅行に行ける!くらいにしか考えていなかった。

頭の中がいっぱいになり、思考がフリーズしてしまう。


「そうなると、大悟さんの警護にはもう少し人員を割いたほうが良さそうですね」

テレビ通話をしていた法隆寺の敬淳さんが発言した。

「霧島さんに加えて、青葉君にも警護に入ってもらいましょう。他にももう何人か用意します。その間にこちらでも真・法隆寺派について調査しましょう」

霧島さんと青葉さんが顔を見合わせて「承知しました」と頷いた。


話がまとまり、今日のところはこれで解散となった。

とは言っても今から青葉さんが警護につく。

霧島さんは、今日のところは休息と失った荷物とスマホの手配をするそうだ。

霧島さんの見送りを受けてホテルを出ると、周りはすっかり暗くなっていた。

「では自宅までお送りします」

青葉さんと共に電車に乗り込み、帰宅。あんな話をされた後だと、周りがみんな僕を見ているように見えてくる。

「青葉さんはずっと僕に張り付いているんですか?それはそれで大変では?」

気を紛らわせるかのように青葉さんに話を振ってみる。

「見えない所から警護するのと、交代要員が控えているので四六時中張り付いているわけではありません。我々も休息は必要ですから」

そりゃそうだ。

でも霧島さんは一人だったような?

そう尋ねると

「霧島さんも警護から抜けている時間はありました。その時は誰も付いてない状態でしたね。今ほど危険な状態ではなかったのと、大悟さんがノーマークだったことも関係しています」

なるほど。今とは重要度が違ったってことか。

「とは言えこちらも限界はあります。場合によっては振り切られたり見失うこともありますので、突発的な行動は控えてください」

自宅近くの駅に着いた。

電車内では打ち合わせた通り、改札口を出て青葉さんと別れた。

この後は付かず離れずで護衛してくれるとのことで、何とも心強くも煩わしくもあった。

自宅に着くと夜中近く。両親はすでに寝ており、真っ暗な室内を見た瞬間に今日の疲れがどっと出てきた。

とりあえずフロ入ってごはん食べて寝よう・・・そうして長い一日が終わった。

翌朝。

いつも通りに支度をし、いつも通りに学校に向かう。途中で小野と出くわし、一緒に登校することに。

「昨日は新宿で何してたの?」

「服買ってた。あとはぶらぶらして家に帰ったよ」

ふーんそうなんだ、と言ったあとは何てことない会話が続いた。

学校に着いてからはいつもと変わり映えのしない時間が過ぎていき、いつの間にか下校時間。

いつも通りの道でいつも通りの電車に乗り、いつも通り自宅に帰り着いた。

今日は何事もなさそうだな、と思ってたら霧島さんからメールが来ていた。

「昨日はお騒がせしました。あれから能力の修練はしてるでしょうか。真・法隆寺派についてはまだ調査中ですが、一つお聞きしておきたいことがあります」

そこでメールは終わっていた。

あれ、聞きたいことって何だろう。

と思ってたら続報が届いた。

「同級生の小野さんとはどういうご関係ですか?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る