第二幕:テロリストの暗躍
時間圧縮技術は社会を快適にする一方、その運用を巡る犯罪やテロも後を絶たない。中でも近年耳目を集めているのが「クロノクラッシュ」という集団だった。彼らは過去に何度か“破壊工作未遂”を起こしており、“歴史をリセット”したいという過激思想を掲げている。
その噂が、まさにオムニクロック社の内部でもささやかれ始めた時、クロウのもとに不審な男が現れた。場所はビル街の暗い連絡通路。黒いコートの襟を立てた男が、隙間風の吹く一角でクロウを待ち受けていた。
「お前がヒダカ・クロウか。時踏み職人……らしいな」
どこか芝居がかった口調と、鋭い視線。男は静かに名乗った。「クロノクラッシュ」の一員だという。
「歴史をやり直す方法を探してるんだ。お前の足先は、それに欠かせないらしい」
「興味ないね」
クロウが即座に拒絶すると、男はふっと笑った。
「まあ、そう言うな。お前の父親は無駄死にだったんだぞ。過去の時空改変を止めたところで、結局この世界は歪んだままだ――そう思わないか?」
突き刺さる言葉に、クロウの心はわずかに揺れる。しかし、その場で追及する間もなく、男の姿は闇に溶けるように消え去ってしまった。
不穏な接触から数日後。オムニクロック社の基幹システムが突然、大規模障害を起こした。配送ドローンは動きを止め、モノレールのダイヤは乱れ、都市の物流と交通が大混乱に陥る。市内のあちこちでパニックが起こり、非常サイレンが鳴り響く。
「緊急召集! “時踏み職人”はメインフロアに集合!」
館内放送が鳴り渡り、クロウを含む数少ない技術者たちが駆けつける。コンピュータが弾き出す膨大なエラーログはどれも一貫性に乏しく、原因が特定できない。まるで誰かが意図的に時間圧縮をバラバラに引き伸ばし、壊そうとしているかのようだった。
制御装置の上に立ったクロウは、痛むつま先を必死におさえながら、何とかタイムステップを踏み、危機的な誤差を少しでも抑えようとする。ところが、一歩踏み込んだ瞬間、鋭い電流のような痛みが足先から駆け上がった。視界を激しいノイズが覆い、脳裏に“歪んだ歯車”のようなシンボルがちらつく。先日、あの男のコート裏に描かれていた図形とそっくりだった。
「ぐっ……!」
クロウはそのまま床に倒れ込み、意識を失いかける。周囲のスタッフが駆け寄り、彼を医務室へ運んだ。
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