プロローグ
ヒダカ・クロウは、そんな数少ない時踏み職人の一人である。今宵、彼は仕事を終えて薄暗い路地を歩いていた。街路には、昼夜を問わず光を発している配送ドローンや、床下を走る高速輸送チューブの微かな振動が伝わってくる。
耳を澄ませば、遠くで何本ものモノレールが交差する音がわずかに聞こえてくる。慌ただしい都市の中、人々は時間を圧縮しながら――言い換えれば、“時間を駆け抜ける”かのような生活を送っていた。
帰宅中、クロウのつま先にひどい痛みが走ったのは、ちょうど駅前の古いカフェの脇を通りかかった時だった。強烈な刺すような痛みと同時に、脳裏にかすかな映像がよぎる。そこには、灰色の作業着をまとった壮年の男――クロウの父の姿があった。
(どうして、いま……)
記憶に出てきた父は、かつて著名な時踏み職人だった。時間圧縮技術がまだ実験段階だった頃、政府の依頼で“ある歴史改変を食い止める大仕事”に携わり、その最中に命を落とした――という噂だけが残っている。
「また、か……」
クロウは顔をしかめ、足を軽く引きずりながら自宅アパートへ急いだ。父の死について真実は何も知らない。ただ一つ確かなのは、父から受け継いだ足先の繊細な感覚と、自分も“危険な大舞台”へ引きずり出されるかもしれないという恐れだった。
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