第2話 告白の現場

 周りの話を盗み聞きすることで、学園の人気者の名前なんかがわかってきた。


 中でも俺が知っていたのは、2年が誇る超絶美少女の花野香織はなのかおり。又の名を【冷笑の姫】。

 黒髪ロングの容姿端麗。成績優秀で天才児だと称されている。全国模試では不動の1位なんだとか。


 さらに彼女を有名にしているのが、その笑顔の冷たさだ。


 告白して振られる確率は100%

 目が合えば心が凍りつくほどの冷たい笑みを向けられるらしい。

 金持ちの御曹司、モデルをしている男、運動部のイケメンが告白してきたが、その全員を蹴散らしているらしい


「……そんな美人をどうにかできるもんなのか?」


 とにかく一目見ることから始めよう。奇跡的に俺のことを好きになってくれるかもしれないし。



 ◇◆◇◆





「放課後の屋上は告白スポットらしいんだけど今日は誰もいないな」


 俺は屋上にいた。


 鉄柵で囲われた屋上には人工芝が敷かれ、昼休みは学園の生徒たちの憩いの場になっている。


「少し待機してみるか」


 時刻は午後4時。

 少し物陰に隠れてその時を待ってみることにした。


「どんな相手なら満足するのか気になるな……っと、誰か来たぞ」


 ぶつぶつ考えていると屋上の扉が開かれて人影が見えた。


「はぁ、ふぅ……緊張するなっ」


 現れたのは小太りでメガネの男子だった。


「……どきどき」


 彼は誰かを待っているようだ、

 

 ちなみに俺に対する好感度は11だ。お互いに顔すら知らないから当然かな。


 試しに心を読んでみるか。


(わぁっ! だめだ緊張する! でも、この気持ちはお互い嘘じゃない。絶対に成功する、そうだよね?)


 誰かに告白するのかな


 文面から興奮と緊張が伝わってくる。


 彼をここまで狂わせたのは誰なんだろう


「……来た、相手かな?」


 なぜか俺もドキドキしていると、その相手が現れた。


「はぁ……手紙をよこしたのはあなた?」


 俺のいる角度からその姿は見えないが、声色からして女性だった。

 呆れた声色だ。


「来てくれたんだね! こうして話をするのは4度目かな?」


「あなたとは初対面のはずなのだけれど」


「なっ! お、覚えてないの!?」


「……ごめんなさい。覚えてないわ」


 本当に覚えていないのなら悪い女だ。

 でも、対面する彼の険しい形相を見るに、何か大きなすれ違いがあるように思えた。


「っ……じゃあ教えてあげる! 1度目は1年前の入学式の日、僕が体育館で落としたペンを拾ってくれてその時に手が触れ合ったよね。2度目は半年前、廊下ですれ違った時に笑いかけてくれた。3度目は2週間前、全校集会で近くの席になって挨拶してくれたよね。どう、思い出した? 僕たちはこんなにも通じ合ってたんだよ」


 傍から見ている俺ですら悪寒を覚えた。


 穏やかな日差しの下だというのに体が震えていた。


「……あなたも告白?」


「僕たちは通じ合っているんだから、これはプロポーズだよ! 選択肢は1つ!」


「ごめんなさい」


「は?」


「……ごめんなさい」


「なんで!?」


 彼は飛び跳ねて驚いていた。ギョッとした顔だ。


「いきなりプロポーズされてOKする女性はいないわよ。よく知りもしない相手に告白されても女性は戸惑うだけよ。特に私はね」


 お堅い感じがあるけど至極真っ当なことを言っていた。


 俺ならこんなこと言われたら泣いちゃうし立ち直れなくなる。

 でも、彼は違うらしい。


 彼は拳を握りしめると、鼻息を荒くして女子生徒との距離を詰めた。


「ふーっふーっ……どうして僕の気持ちがわからないの!?」


「……近づかないで。先生を呼ぶわよ」


 強気な口ぶりとは裏腹に、女子生徒の声は震えていた。


「放課後の屋上に先生なんて来ないよ」


「やめて……」


 まずい。

 

 彼はもう女子生徒の肩に手を伸ばし始めていた。

 助けてあげないと。


「……」


 俺は無言でスマホを取り出した。


——カシャ


 シャッター音が鳴った。


「な、なに!?」


 彼は辺りを見回して驚いていた


 やましいことをしているとそういう音に敏感になるって記事を見たことがある

 効果抜群だったらしい


「たまたま屋上にいたんですけど、無理やりそういうことやるのは良くないと思いますよ?」


 俺は彼らに近寄った。


 その最中、女子生徒はジリジリと後退しており、日陰の中に隠れていく。

 俺の視界からその姿はほとんど見えないけど、心なしか口角が上がってる気がした。


 こんな場面で笑うかね


「君は誰! 僕の邪魔をするの!?」


 彼は今度は俺ににじり寄ってきた。


 怖っ! 思ったより背高っ!


「い、いや、邪魔とかじゃなくて、人の嫌がることはしないほうがいいって話です。相手に好かれたいなら、喜ぶことをやってあげるのが一番ですよ」


 俺は怯えながらテキトーに言葉を続けた。


 同時に彼の心を読む。


(なにをすれば女の子は喜ぶの? なにをすれば良いの? 具体的なことを教えて? 説得力がないよ!)


「例えば女の子が重いものを持っていたら手伝ってあげたり、色々ですよ。それに出会いは一つではありません。男ならビシッと諦めて次の出会いを探してみては?」


 女性経験皆無な俺にはこんなアドバイスしかできない。


「……ぶひっ、なんか良いこと聞いたかも。僕も良い出会いを見つけられるってことだよね?」


「そういうことです」


「じゃあ、頑張ってみる……かも」


 彼は不気味な笑みを浮かべながら屋上を後にした。

 そして、そんなやりとりをしている最中に、既に女子生徒は逃げていなくなっていたことにも気がついた。


「……なんか助け損だな」


 俺は肩を落として座り込んだ。


 別に期待していたわけじゃないけど、誰にも見られずに人助けをしたところでそれを広める人がいないんじゃ意味がない。


 感謝してほしいわけじゃないんだけどね


「帰ろ」


 例の人には会えなかったけど、もうそんなことなんてどうでもいい。

 なんか冷めちゃった。

 

 また明日から別の作戦を考えるか。

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