俺だけ好感度が見えて心の声が読める世界〜気がついたら【冷笑の姫】を堕としていた件について〜

チドリ正明

第1話 好感度と心の声がわかる世界

 俺には特殊能力がある。


 それは”好感度と心の声がわかる”というものだ。


 3日前の朝に急に発現した。


 好感度というのは、他人から見た俺への好き度合いがわかるもので、3日間の観察によればこんな風に分けられる。



嫌い        0~10

興味なし      11~30

普通        31~50

知人        51~60

友人        61~70

割と好意的     71~80

好き        81~90

親友・結婚したい  91~100



 ちなみに高校2年生の俺に対するクラスメイトからの好感度は、そのほとんどが11~50の興味なし、あるいは普通だった。


 そんなことよりも、問題は51~60の知人を超える好感度を持つ生徒が一人もいなかったことだろう。


 まあわかってた。

 俺は根暗だし、いてもいなくてもいい存在だ。

 でも、正直悔しい。


 眩しい高校生活を夢見ていたかつての自分はどこへやら

 今ではクラスの隅にいる陰キャになっている。


 だからこそ、好感度と心の声がわかるのは俺にとって逆転のきっかけとなる。


 俺はこの特殊能力を使って成り上がる。


 目指せ根暗脱却だ。




◇◆◇◆◇





 教室の隅で息巻いたその日。


 俺はいつものように授業に臨んでいた。

 今は数学の授業だ。

 

 アラサー美人の江之島先生が教壇にいる。


「この計算式は頻出するから覚えてね。あとこの図形はテストに出すから理解すること」


 江之島めぐみ。30歳。

 クールな面持ちでスタイル抜群。独身。

 色んな男子生徒が裏でズリネタにしているのをよく聞く。


 今も近くの席の男子がコソコソ話をしている。


「江之島先生ってエロいよな」

「ドSっぽくていいよな」

「わかるっ! 俺はMだからいじめられたいわー」

「あんな目で見られたらたまらんな」


 ゲスイ会話だ。


 確かに江之島先生はエロい。

 しかし、一つ誤りがある。


 江之島先生はドSなんかじゃない。


「……」


 俺は江之島先生の顔を3秒見つめた。

 なぜ3秒なのかというと、心の声を見るには対象のことを3秒以上見つめないといけないからだ。


 3秒が経つと、江之島先生の頭の上にモヤが浮かび、その中にはっきりと文字が書かれる。


(もう! 今日もエロ猿たちが私の肉体をじっとり見つめてるわね! 特に角の席の目つきの悪いあの子……そんな目で見ないで! ダメ! 興奮しちゃう! 後で保健室に行って1人で慰めないと……)


 とまあ、江之島先生の心の声はこんな具合だ。

 見た目に反してドSなんかじゃなくて、ドMなんだよな。


 ちなみに角の席に座る目つきの悪いあの子ってのは、早川大牙はやかわたいが。俺のことだ。


 じっくり凝視したからか江之島先生の心に火をつけてしまったらしい。

 今も背筋を伸ばして凛としているが、若干内股気味になっているのを俺だけが知っている。


「……でも、好感度はずっと15だな」


 好感度を上げる方法がわからない。


 対象が喜ぶことをしてやれば自然と上がるのか?

 あざとい作戦になるけどそれが常套手段か。


 よし、実験的に江之島先生の喜ぶことをしてみるか。


「計算プリント配ったから各自解いてね」


 江之島先生は教室の中を歩きながら、周りに視線を送っていた。

 まだ頬が少し赤い。さっきの余韻があるらしい。


 これはチャンスだ。


「江之島先生」


 俺は小声で名前を呼んだ。

 ガヤガヤとしている教室の中には俺の声なんてそんなに響かない。


「なぁに?」


 江之島先生は膝を曲げて前傾姿勢になった。

 カッターシャツの下にある大きなボインが強調される。


 わざとやってるな。生徒に見られて喜ぶ変態め。

 俺はドSでもないしそんな柄でもないけど、試しにどんな反応するか見てみよう。


「……駄肉をしまってください」


「へ?」


「顔が赤いですよ。先生はそんなものを生徒に見せつける変態なんですか?」


「っ……あ、ご、ごめんなさい……んぅっ……」


 江之島先生が色気のある声を出した。


 同時に好感度が15→35に上がったので、俺はここぞとばかりに心の声を読んだ。


(なんなのこの子! 私が探し求めていた年下の王子様なの!? いや待って、ダメよめぐみ! 今のはたまたま……でも、悪くなかったかも……もっとほしい!)


 ビンゴ。江之島先生の好感度を操れたぞ。

 しかも、大幅に上げられた。


 俺は演技でわざとやったのだが、間に受けて興奮しているのも凄い。


 これは良い発見だ。

 心の声を読めば楽に好感度を上げられる。


「先生、どうしたんですか? に行きますか? 2人っきりで」


「あっ……だいじょうぶ、だから」


(あんっ、この子侮れないわね。私の秘蔵っ子リストに入れちゃおうかしら。高校卒業までは食べられないけど、絶対にキープしちゃうんだからっ!)


 好感度は……おっ、凄い。


 35→70になって好意的になれた。


 しかも、秘蔵っ子リストに入れられてしまった。

 もしかして高校卒業したら江之島先生で初体験を済ませられるのか……? 

 それはそれで悪くないかもしれない。


 でも、江之島先生はもっと良い人がいるはずだから俺じゃなくてもいいと思う。


「ふふ……」


 俺は顔を伏せて笑みを漏らした。


 放課後はリサーチから始めよう。

 正直、青春とは無縁の俺にこの学園の有名人なんて全くわからないからな。


 まずは調べるところからだ


 


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