第2話

タバコを咥えながら、火をつける。ライターを左手で覆うようにした。少しばかり格好のつく付け方を数年前からやっている。墨はタバコを口から離し、煙を吐いた。

「ふーっ」

白いような灰色のような気体が空気へと溶けた。住んで数年のこのアパートにはタバコの匂いが染み付いている。寝室は洋服や雑誌、ゴミでぐちゃぐちゃだ。リビングはかろうじて人を迎えることはできるくらいだ。片付けはしたいが、そんな時間は無いわけで。

墨は息をついて、宙に視線を漂わせた。肩が凝っていて、最近は頭痛がひどい。マッサージを受けにいきたい。


ピピピ ピピピ


スマホのタイマーが鳴った。ようやくカップラーメンが食べられる。グウーっとタイミング良く腹が鳴った。ソファから重い腰をあげてカップラーメンを掴んで持ち上げた。右手の指先から伝わる熱が、じんわりと手の血管を温めてくれた。


使い終わったティッシュとエアコンのリモコン、要るのかわからないプリントが散らばるテーブルの上にカップラーメンを置いた。

「いただきます」

飯があることに感謝しながら、手を合わせた。ズルルルと啜る音を響かせながら、喉に流し込んだ。熱い麺が喉を温めてくれる。安い食べものだけれど、墨の疲れた身体によく染みた。

ゴクゴクとスープを飲む。濃くて熱いそれは墨の芯を温めた。

「ご馳走様でした」

食べ終わって墨は眠くなった。しかしシャワーを浴びなければならない。墨は立ち上がって脱ぎっぱなしのスーツをハンガーにかけた。今日着ていたものなので、脱ぎたてほやほやだ。だからと

いって人間の体温を感じることができないほど冷えていた。

「入るかぁ」

伸びをしてから、着替えを持ってシャワー室へと向かった。

シュルルっと赤いネクタイを取る。よく見るかっこいい取り方に憧れて早数年。自分で言うのもなんだけどまあまあかっこいい。ワイシャツのボタンを外し、全部脱いだ。最後にメガネも外して。風呂の時間は嫌いだ、湯船は好きだけど。残念ながらこのアパートで湯船を使う気にはならなかった。

シャワーから出るお湯が墨の頬を打つ。墨の肌を明るく風呂の電気が照らした。綺麗な顔に水が滴って、妙に色気染みていた。


風呂場を出て、体をふく。着替えを着てからリビングのソファへと座った。火照った体がなんだか思い通りに動かない。


墨はそのまま眠った。

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狼のウイスキー Niagost @Nia1031

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