第7話 やられ役のヒーラー、拠点を探す





 発狂するテレシアに白骨化していたので胸は触っていないと説明した後。


 テレシアの部下たちを蘇生し、別行動を取る。


 彼女たちには生前通りにこの辺りで暴れ回ってもらう必要があるからな。

 そうして連合軍の気を引いているうちに他の悪役たちを蘇らせる。


 更には勇者が攻めてきた時のために、家族を蘇生しておく。


 いやまあ、これはまだ後回しでいい。


 下手に抵抗されて逃げられてしまっては元も子もないし、勇者の家族を隔離しておくための設備が整うまでは骨として持ち歩こう。


 今やるべきことは一つ。



「魔王様、新しい拠点を探しましょう」


「……ふむ、たしかに魔王城の詳細な位置はあの剣聖に見つかって知られてしまった。しかし、拠点を探そうにも見つかるものなのか?」


「俺にいくつか当てがあります」



 再三言うが、『アルグレイシア』に登場する悪役はヘルヴィアだけではない。

 テレシアのような人間の盗賊を始め、悪魔崇拝者などの悪役がいる。


 その大半が古代遺跡や廃村を隠れ家にして生活しているのだ。



「というわけで、今から邪神信奉者のいる古代魔法王国の遺跡に向かいます」



 邪神信奉者。


 名前の通りに邪神を信奉している者たちのことで、彼らは古代の勇者が封じた邪神の復活を目論む悪役だった。


 ちょっとコンビニ行ってくる、みたいなノリで生け贄を集めに近隣の村を襲う奴らなのだ。


 いやまあ、金品や食料の強奪、殺人や強姦を行うテレシアとその配下も中々の極悪外道だが、邪神信奉者はもっとタチが悪い。


 奴らは人間を生きたまま調理して、それを邪神に捧げるのだ。


 俺が『アルグレイシア』をプレイしていて唯一二度と見たくないと思ったスチルがまさにそのシーンだった。



「邪神信奉者、か。余はあまりいい思い出がないな」


「あ、知っているんですね」


「ふっ、余は何百年も生きる魔王だぞ。奴らの情報くらい知っておるわ。まあ、知っていると言っても邪神復活のために歴史の裏で暗躍している、という程度だが」


「十分ですよ」



 俺は正直、驚いていた。


 ヘルヴィアの言うように邪神信奉者たちは正体や目的を悟られまいと暗躍している。


 その存在を知っているだけでも凄いのだ。


 実はシナリオの途中にもそれを仄めかす微かなヒント描写があるのだが、本当に微かで気付かない場合が多い。


 しかもそのヒントを見逃して邪神信奉者に辿り着けないまま放置しておくと邪神が復活する。


 問題はそこだ。


 もし万が一、主人公が邪神信奉者の存在を知らないとしたらまずいことになる。

 今頃邪神は復活していて、力を蓄えている可能性があるのだ。


 その場合は邪神及びその信奉者との戦闘になるだろう。


 大分回復してきたとはいえ、全盛期ほどの力を振るえないヘルヴィアでは邪神を相手に遅れを取るかもしれない。


 ならわざわざ古代魔法王国の遺跡を拠点にする必要はないだろと思われるが、そうするだけの大きなメリットがある。

 古代魔法王国の遺跡には凄まじい量のトラップが設置されているのだ。


 そのトラップ全てをゲーム知識で暗記している俺ならば突破は容易だが、命が一つしかないこの世界の人々にとっては攻略が難しい。


 まあ、だからこそ邪神信奉者も古代魔法王国の遺跡を拠点にしたのだろうが。

 とにもかくにも、主人公を迎え討つなら魔王城よりも向いている。


 絶対にほしい。



「魔王様、もし邪神と戦うことになったら勝つ自信ってあります?」


「……随分と唐突な質問だな」


「できるかできないかでお願いします」


「余に不可能はない!! と、言いたいが、無理だろうな」



 ヘルヴィアが珍しく弱気な発言をする。



「邪神は神々から力を奪われ、神域を追放された存在。しかし、それでも邪神は神なのだ。神を屠れるのは神の力を持つ者のみ。余では無理だな」


「……そう、ですか」



 そう言えば、そういう設定があったような気がしなくもない。


 主人公の持つ勇者の力は神々から授かったもの、だから邪神を倒せたみたいな話がエンディング後のミニストーリーであったな。


 じゃあもし邪神が復活していたら古代魔法王国の遺跡は諦めるか……。


 と、そこまで考えてヘルヴィアが言う。



「だが、付け入る余地はある」


「え?」


「神とは退屈を何よりも嫌がる生き物だ。何かその退屈を紛らわせる知識や技術と引き換えに戦闘を回避することができるかもしれん」


「う、うーん、退屈を紛らわせる知識や技術……あっ」



 俺はふと思い至る。


 冷静に考えてみれば、この世界にはない知識をそれなりに持っているがいるじゃないか。


 俺は思わずニヤリと笑ってしまった。



「くっくっくっ、じゃあ早速古代魔法王国の遺跡に向かいましょう」


「……悪い顔だな……」



 高速移動バグを使い、俺たちは目的の場所を目指して移動するのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「エルナの発言が一つもないのは死んでいるから」


リ「用もないのに生き返らせるのは悪いかなって……」



「邪神信奉者怖い」「邪神って響きカッコいいよね」「エルナの扱い雑で笑う」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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