第6話 やられ役のヒーラー、頭目が仲間になる





 主人公の家族と思わしき白骨死体を掘り返し、ようやく本来の目的に移る。


 問題があるとすれば……。



「白骨死体の場合は、どこを触ればいいんですかね?」


「余に訊かれても困るのだが」


「と、取り敢えず肋骨触ってみますか」



 俺は白骨死体の鎧を剥ぎ取り、肋骨の辺りをペタペタしてから『ヒール』をかける。


 しかし、何も起こらなかった。


 まさかとは思うが、ここまで骨になっていると蘇生バグは使えないのだろうか。


 そう思った矢先の出来事だった。



「ふがあ!?」


「うおっ、びっくりした」



 白骨死体からめりめりと蠢く肉が発生し、それが徐々に人の形になる。

 あまりにも気持ち悪い復活の様子に、俺は思わずヘルヴィアの背後に隠れてしまった。



「おい、余を盾にするな」


「あ、すみません。でも魔王様なら何とかなると思って……」


「ふ、ふん、当然であろう。何かあれば余が全て破壊してやる故、そう案ずるでない」



 ヘルヴィアが頼もしい。


 それはさておき、俺は復活したと思わしき盗賊の頭目の様子をヘルヴィアに隠れながら窺う。



「あー」



 その人物は一見すると、見目の整っている綺麗な女性だった。

 灰色の髪と血のように真っ赤な瞳、ピョコンと生えている狼の耳と尻尾が印象的だろう。


 その美女は何を考えているのか、ぼーっと空を見つめており、硬直したように動かない。


 ど、どうして動かないんだ?


 まさか白骨死体から蘇生したからバグが上手く使えなかったとか……、



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」


「「!?」」


「あ゛ー!! あのガキッ!! どこ行ったッ!! コロスッ!! ぶっコロスッ!! 生きたまま手足を捥いで見せ物小屋に売ってぶっコロスッ!!」



 あのガキ、というのは主人公のことだろうか。


 彼女にとっては主人公が勇者の力を覚醒させたかと思えば訳も分からず殺され、蘇生したら全て終わってるわけだからな。


 混乱しているのかもしれない。


 それにしても、いきなりコロスって絶叫するのはちょっと怖いけど。



「おい、リザーレ。こいつは大丈夫なのか?」


「た、多分、大丈夫です」



 俺はヘルヴィアを宥め、ひとまず怒りに任せて絶叫する頭目に声をかけることにした。



「あ、あのー」


「あ゛あ゛!? ……誰だ、お前は」


「貴女を生き返らせたリザーレという者です」


「生き返らせる? あ゛ぁ、あたしは死んだんだもんな。あたしはテレシア。礼を言う、お陰であのガキをぶっ殺しに行ける……キヒッ」



 口が裂けているのかと思えるくらい口角を上げて言う頭目。


 容姿は整っているのに笑い方が不気味で怖い。



「え、ええと、取り敢えず服をどうぞ」


「あ゛? ……あ゛あ゛!?」

 

「いや、その、すみません。蘇生に必要なことだったので……」



 自分が鎧を着ておらず、真っ裸であることに今さら気付いたのだろう。

 巨乳というよりは美乳と呼べるおっぱいが大変眼福でした。



「えっと、それでですね。一応、ご相談というか、ご提案といいますか」


「あ゛?」


「あ、はい。端的に言いますね。我々魔王軍と協力関係を結びませんか?」


「あ゛ー?」



 ギョロリと俺を睨むテレシア。


 口を半開きにしてよだれを垂らしているからか、やはり怖い。

 でも怖がっていては何も始まらないので、俺は諸々の事情を話した。



「あ゛ー、つまり、あたしと勇者をぶっ殺すまでの共闘関係を築きたいって話か?」


「はい。仕えろとまでは言いません。お互いにメリットのある話だと思いますが」


「……三つ、条件がある」



 俺はその回答が少し意外だった。


 ゲームの序盤、すぐ勇者にやられて退場するテレシアだが、主人公の目の前で主人公の家族を殺すせいか殺戮を楽しむ狂人という印象が強い。


 しかし、実際に話してみると交渉を迫ってくるくらいには理性的だった。


 だからこそ怖い。


 いったいテレシアが何を要求する気なのか、少し警戒しながら耳を傾ける。



「一つはあたしの部下たちの蘇生」


「それは、もちろんです。というか最初からそのつもりでしたし」


「なら二つ目。あたしらを裏切るな。裏切ったら殺す。地の果てまで追い詰めて血祭りに上げる」


「え、ええと、そちらが裏切らない限りはしないですよ?」



 警戒していた分、少し肩透かしを食らった気分だった。

 しかし、次にテレシアが提示した三つ目の条件で俺は耳を疑った。



「三つ目。これは条件とは少し違うが、あのクソガキ――勇者を殺らせてくれるなら仕えてやってもいい。ただし、あたしが仕えるのはお前だ」


「え? お、俺ですか?」



 テレシアが指差したのは魔王であるヘルヴィアではなく、まさかの俺だった。


 これには思わず困惑してしまう。



「ど、どうして俺ならいいんですか?」


「勘。お前はいい。自分が生き残るためなら何でもするっていう目をしている。一番信頼できる目だ。一番おぞましい目だ。あたしはそういう奴が好きだ。いざという時にぶっコロシても心が痛まない」


「ふむ。リザーレよ、やはり分かる者にはそなたが魔王以上に魔王らしいと分かるのだな」


「意地でも認めないですよ」



 それにしても最初にテレシアを引き入れたのは失敗だったか?

 言い方からしていざという時が来たら容赦なくぶっ殺すつもりみたいだし……。


 い、いやまあ、計画通りだから良しとしよう。



「あ、じゃあ取り敢えずエルナさんとも顔合わせをしときましょうか」



 俺はヘルヴィアが担いでいるエルナの死体のおっぱいを揉み、『ヒール』をかける。


 すると、むくりとエルナが起き上がった。


 エルナはすぐに事態を把握し、テレシアに流麗な一礼をする。



「お初にお目にかかります、エルナと申します。故あってすぐに死ぬので、ご容赦を。ごふっ」


「あ゛ー。あ゛?」



 エルナのお辞儀を無視して、テレシアはじーっと俺の方を見てきた。

 そして、みるみるうちにテレシアの頬が赤くなる。



「あ゛、あぁ、あの、も、もしかして、あ、あた、あたしの胸も、さ、触ったのか!?」


「え、いや、ええと――」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!! 破廉恥!! 変態!! エッチ!! 」



 ある意味、テレシアの反応は正しいのだろう。


 俺はテレシアが落ち着くのを待って、白骨死体だったから胸は触っていないと説明するのであった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「狂乱系かと思いきや羞恥心はある美女とか御馳走だと思います」


リ「俺よりこいつが魔王だよ」



「テレシアかわいい」「羞恥心あるのかわいいな」「作者が魔王定期」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。


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