第5話 やられ役のヒーラー、魔王に向いていると言われる
アリシアが襲撃してきた後。
俺はヘルヴィアの手当てをしながら、今後のことについて話し合っていた。
「今はとにかく戦力を集めるべきです!!」
「とはいえ、わたしのような例外を除いて大半の魔族は敗北してしまったヘルヴィア様に従わないでしょう。ぐふっ」
「む。リザーレ、またエルナが死んだ。生き返らせよ」
俺はエルナを蘇生し、話を続ける。
「エルナさんの言う通り、今の魔王様では魔族を統率するのは困難でしょう」
「ハッキリ言うではないか、リザーレ。やはりそなたが魔王になった方が早くないか?」
「嫌です。でもまあ、代わりにあることを思い付きました」
仮に再び勇者と再戦し、勝利したとしても無敗を誇っていた頃の影響力は持てない。
だからこそ、違うアプローチが必要だ。
「人種を問わず、勇者を恨んでいる奴らを集めて魔王軍に組み込むのはどうでしょうか?」
「それは、人間をも利用するということか?」
「そうです。具体的には、勇者に悪事がバレて討伐されてしまった盗賊や山賊たちです」
勇者が今まで戦ってきたのは、何も魔族だけではない。
悪徳商人や盗賊、脱獄した凶悪犯罪者など、数えればキリがないだろう。
そういう連中を生き返らせて利用するのだ。
俺の提案に難しい顔をしたのは、生き返ったばかりのエルナだった。
「わたしは反対します。人間はいつ裏切るか分からない狡猾な生き物です」
「しかし、贅沢も言ってられん。リザーレ、その提案をしてきたということは、当てがあるのだな?」
「はい。情報の出所は話しても信じてもらえないでしょうけど、たしかです」
「……ふむ」
この世界はバグ技が使えるくらい『アルグレイシア』に似ている。
もういっそ同じだと言ってもいいくらいには似ているのだ。
ならば今まで主人公が倒してきた悪役たちもこの世界にいたはずだ。
俺がやろうと思っているのは、そういう悪役たちを蘇らせて勇者への憎しみを煽り、一致団結するという作戦。
魔族を取りまとめるのは難しいが、人間のことは人間だった俺が一番詳しい。
人間を一致団結させるためには共通の敵を作るのがベストだと。
「よかろう。では早速、出掛けるとしよう」
「え? ちょ、魔王様も行くんですか? 俺だけで行くつもりだったんですけど……」
俺がそう言うと、ヘルヴィアは至って真剣な表情で頷いた。
「当たり前であろう。そなたがいなくなったらエルナを蘇生できぬ。そうしたら余が一人になるではないか」
「ヘルヴィア様はこれでも寂しがり屋なのですよ。ごふっ」
「余計なことは言うな、エルナ。現実的に考えて死者を蘇らせる秘術を使えるそなたを一人で行動させるのはまずいだろう?」
「……たしかに」
俺の蘇生バグはヒーラーなら誰でも使えてしまうもの。
しかし、魔王軍にヒーラーが俺しかいない現状だとかなり重要な立場になる。
そこら辺、自覚して行動するべきか。
「分かりました。じゃあ全員で行きましょう!!」
俺はヘルヴィアとエルナを連れて、魔王城を出発した。
最初の目的地は始まりの村、主人公の故郷だ。
高速移動バグを使い、猛ダッシュで目的の村まで駆け抜ける。
なお、途中でエルナは死んでしまったので、ヘルヴィアが背負っていた。
エルナが死ぬ度に蘇生バグをしてたら時間のロスが凄いからな。
そうして俺たちは勇者の故郷に辿り着いた。
「ほう、ここが勇者の生まれ故郷か? ……見事に何もないな」
「ですね」
勇者の故郷には何もなかった。
より正確に表現するなら、村があった痕跡こそあるものの、焼け落ちた家々があるだけ。
やはりゲームと同じだ。
主人公はストーリーの序盤で故郷の村を山賊に襲われ、家族を殺されてしまうのだ。
そして、主人公は勇者の力を覚醒させて賊たちの殲滅を始める。
ものの数分で村を襲っていた賊を全滅させてしまうのだ。
「ここには勇者に殺されている賊が大勢眠っています。彼らを蘇生しましょう」
「ふむ、果たして其奴らが言うことを聞くかどうかだな」
「別に聞かなくてもいいんですよ」
俺の言葉にヘルヴィアが首を傾げる。
「む? 何故だ?」
「彼らに敢えて自由を与えれば、そのうち人々を襲うようになります。きっと連合軍の兵士を惹き付けてくれますよ」
「……やはり余より魔王が向いているのでは?」
「それ褒められてる気がしないのでやめてください」
「何故だ!? 魔王は褒め言葉であろう!?」
そうこう駄弁りながら、村跡地の隅っこにある集合墓地まで足を運ぶ。
生き残った主人公の故郷の村人たちはお人好しが多かったのか、賊の死体をご丁寧に埋葬してやっていた。
お陰で墓を掘り返すだけで済むので楽チンだ。
「俺はこっちを掘り起こすんで、魔王様はそっちをお願いします」
「うむ、分かった」
ヘルヴィアと手分けして墓を掘り返し、山賊たちの中でもとある人物を探す。
「……あ、いた!! 魔王様、賊の頭目の死体を見つけました!!」
「む、其奴がそうなのか?」
「はい!!」
掘り返した墓の一つに鎧をまとった白骨死体があった。
その白骨死体は特徴的な全身鎧を着込み、両手を組んでいる。
ヘルヴィアが鎧を見て、あることに気づいた。
「この鎧、連合軍の宗主国であるアルグレイシア王国のものか」
「はい。賊の頭目は、アルグレイシア王国騎士団の元騎士長だったんですよ」
「ほう、自国の騎士が村を襲ったと」
「まあ、色々と事情はあったみたいですが、それでも勇者に殺されてしまったのは事実。きっと役に立つはず、です。多分」
俺がそう言うと、ヘルヴィアは手を叩いて賊の頭目の蘇生を促してきた。
「ではリザーレよ、早速其奴らを生き返らせよ!!」
「あ、いえ。まだ探したい死体がありまして」
「む? 賊の死体は掘り返したと思うが……」
「賊じゃなくて勇者の家族ですよ。賊に殺されているので、どこかに埋葬されてるはずです。死んだはずの家族を人質にしたら、勇者には何もできないでしょう?」
「そなた、やはり余よりも魔王に向いておるぞ」
俺はヘルヴィアと勇者の家族の亡骸を回収してから、賊の蘇生を試みるのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「まじで人の心なさそうな主人公」
リ「いや、効果的だと思って……」
「エルナ死にまくってて草」「この主人公、倫理観なくて笑う」「人の心が一番ないのは作者」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます