第4話 やられ役のヒーラー、駆け付ける




(……強いな)



 戦闘が始まってから十数分。


 ヘルヴィアはアリシアの剣撃を凌ぎながら、冷静に思考を巡らせていた。



(距離を取ろうとしても詰められる。接近戦では向こうに分があるか)



 ヘルヴィアが放った魔法を、アリシアは身体を捻って回避する。

 どうしても躱せない場合は剣で弾き、軌道を逸らしていた。


 まさに剣の達人。


 アリシアの絶技には流石のヘルヴィアも称賛の声を送る。



「素晴らしいな!! 貴様、以前戦った時よりも強くなっているのではないか!?」


「私が強くなったのではなく、貴女が弱くなったのですよ」


「くっくっくっ、言うではないか。だが、まだ貴様より強い」


「っ」



 ヘルヴィアが同時に複数の魔法を放った。


 アリシアは一発目を難なく回避し、二発目は剣で弾いた。


 問題は三発目以降だった。


 辛うじて回避するが、その次に迫ってきた魔法が直撃する。

 あまりの痛みにアリシアは悶絶するが、動きを止めることはなかった。


 足を止めたら死ぬ。それを理解していたのだ。


 圧倒的な魔法の弾幕を前にアリシアは対処を強いられてしまい、反撃に出ることができなくなる。



「このまま魔法の物量で押し潰してやる!!」


「くっ、ならば――ッ!!!!」



 次の瞬間、アリシアは防御を捨てた。


 地面が陥没する勢いで踏み込み、最短距離を最速で走り抜けて肉薄する。

 レイピアの切っ先をヘルヴィアに向け、必殺の構えを取った。


 ヘルヴィアは大技が来ることを予測して防御魔法を発動し、周囲に光る半透明の障壁を展開させる。



「イーグルピアス――ッ!!」



 それは鋭い三連突きだった。


 対象の防御力を無視してダメージを与えるその刺突攻撃は、たった一突きでヘルヴィアの生み出した障壁を貫通してしまった。


 続く二突き目はヘルヴィアの肩を正確に捉え、反撃を封じた。


 そして、最後の三突き目。


 真っ赤な血で染まった刃はヘルヴィアの喉を狙って真っ直ぐ突き進み――


 カキンッ!!


 どこからか飛んできたナイフがアリシアの剣を軌道を逸らしてしまった。



「なっ!?」


「っ、今のナイフは!?」



 アリシアは予期せぬ乱入者に驚き、明らかな動揺を見せる。


 対するヘルヴィアも動揺していた。


 しかし、焦るアリシアとは逆にヘルヴィアの表情が途端に明るくなる。



「ヘルヴィア様。遅ればせながら、参上致しました」


「やはりエルナか!! くっくっくっ、そうか。リザーレが秘術で蘇らせたのか!!」


「はい。――ぐふっ」


「「!?」」



 かつて謀略によって命を落とした忠臣の復活と参戦に心を踊らせるヘルヴィア。

 しかし、その表情はすぐに困惑へと変わってしまった。


 エルナが口から大量の血を吐いてぶっ倒れ、そのまま息をしなくなったのだ。



「エ、エルナ!? 大丈夫か!?」



 ヘルヴィアは忠臣の死を目撃し、動揺する。


 すると、ぶっ倒れたエルナに慌てて駆け寄る青年魔族の姿があった。









 俺は大慌てでエルナに駆け寄り、乳揉みからの『ヒール』で蘇生バグを使う。



「ごふっ、ごぼほっ、ふぅ。死ぬかと思いました」


「死んでたんですよ」


「……全く、厄介な毒ですね。ごばっ」



 エルナが飲んでしまった毒は、普通のものとは少し違う。

 具体的に言うと、毒消し草や毒状態を解除する『キュア』で治せないのだ。


 だから死ぬ度に蘇生させるしかない。


 もしかしたらそのうち毒に耐性ができるかもしれないが……。


 とにかく今は死と蘇生を繰り返してもらう。



「貴女は魔王の側近の……」


「……お久しぶりでございますね、剣聖アリシア様。その節はお世話になりました。ごべふっ」



 アリシアとエルナが睨み合う。


 エルナは連合軍でも知られている有名人だし、二人は何度も戦場で遭遇していた。

 死んだと噂になっていたエルナが生きていたことに驚くのは無理もない。


 いやまあ、実際に死んでたし、さっきも一回死んでるので驚くなと言う方が難しいだろう。



「……これは、状況が悪いですね」


「なんだ、逃げるのか?」



 突然レイピアを鞘に収めたアリシアに、ヘルヴィアは挑発するように言った。

 しかし、アリシアは意に介した様子もなく首を横に振る。



「これは戦略的撤退です。手負いの魔王一人ならともかく『魔王の侍女』の相手は厄介ですので。……何より……」


「っ」



 アリシアは俺を真っ直ぐ見つめていた。


 その表情はどこか寂しそうな、悲しそうな、あるいは泣きそうな表情だった。


 俺は咄嗟に声を掛けようとして、思わず言葉を詰まらせてしまう。



「死者を生き返らせる秘術……。その危険すぎる力の情報は、確実に連合軍へ持ち帰らねばなりません」



 そう言ってアリシアは駆け出した。


 去り際に俺の方を見て、さっきの表情が嘘のように冷たい眼差しで俺を見つめながら一言。



「また会いましょう。……今度は、敵として貴方も殺します」


「っ」


「……逃げ足の早い奴め」



 俺はその場で膝から崩れ落ち、ひとまず危機が去ったことを安堵する。

 しかし、所詮は一時凌ぎ。

 いずれは勇者も完全に傷が癒えるだろうし、本格的な対策をどうにかして立てないと、まずいだろう。


 冷や汗が止まらない。


 どうやったら破滅エンドを乗り越えられるか、俺は自分にできることを考えるのであった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「さっくりリザーレだけ殺しとけばよかったんじゃね?ハナホジ」


リ「さっくり殺さないで!?」



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