第13話 ぜろことめ
パーティーから3日経ち、日付は11月22日になった。普通ならば豪華な誕生日パーティーが行われるはずなのだが、この21歳の誕生日に関しては行われない。それよりも魔法の儀式の方が重要視されているためである。
それでもニュースはカレンの誕生日を祝い、街は静かに興奮しているように見えた。魔法伝授を静かにほのめかす。決して大げさではなく、決して信じているわけでは無い。しかし、確かにそこに有るだろうと信じられている物が伝えられる。
カレンの屋敷。カレンの部屋。そこにエドワードが手紙を持ってやってくる。豪華ではない宛先だけ書かれた手紙。そしてノックの音が部屋に響き渡る、
カレン
「どうぞー」
いつもの調子でカレンがノックの音に反応して返答をした。エドワードは襟元を正してドアノブに手を掛ける。
エドワード
「お誕生日おめでとうございます。私もこの日が来るのを楽しみにしておりました」
カレン
「あら、ありがとう。私も、楽しみに待っていたわ」
エドワードは軽くお辞儀をすると持っていた手紙をカレンに渡した。カレンは受け取ると机の上に置いてあったナイフで封を切り、中身を読み始める。
カレン
「なるほどね、明日の23時に王立図書館に来いって事・・・出迎えは?」
エドワード
「ございます。魔法の儀についての事は秘中の秘。それを知った者だけが護衛や案内をいたしますのでカレン様は時刻前に外出の準備だけをしていただければ大丈夫です」
「そう」と興味なさそうに返事をするとカレンは煙草に火をつけて、窓から空を見上げた。
カレン
「・・・明日は雨になりそうね」
カレンはその後もいつも通りに過ごした。クロムと電話をしたり、ユイと一緒に花壇を見たり。シャワーを浴びたりした。
その光景を不思議に思ったのかエドワードが訪ねて来た。
エドワード
「カレン様・・・こういうのは何なのですが・・・随分と落ちついてらっしゃいますね」
カレン
「あら?そう?」
エドワード
「私が今まで付いたことのある王族は例外なくこの時間、ワクワクしておられたので・・・」
自分の髪の毛を後ろにやるとカレンはエドワードの方を見た。
カレン
「楽しみ・・・と言えば楽しみなのかもしれないわね。でも、その楽しみは少し私にとっては・・・そうねぇ、違うのよ。問題は魔法を受け取った後の方が大事でしょ?それで何をするかとかそういう話じゃなくて?」
カレン
「なんでも同じだけど、手に入れることが出来るまでは・・・ね?」
そういうとカレンは自分のベッドに潜り込んだ。
次の日、時刻は22時を指していた。
ユイはいつも通り外出するための支度をカレンに施している。ドレスは比較的質素なモノを選び、あまりきらびやかではない。準備をしている間もカレンは何かを考えているようだった。
ユイ
「珍しく緊張してるのですか?」
いたずらっぽくユイがカレンに話しかけた。
カレン
「ええ、まあね。でも程よい緊張感は何事においてもスパイスになるものよ。だから不思と心地いいわね」
ユイ
「それは頼もしい限りです」
屋敷に王宮から迎えの車が到着した。いつもの王宮指定の高級車ではなく、一般的な大衆車である。運転手も乗り合いの人も全部王宮の高官。案内されるがままカレンは車に乗り込む。
カレン
「ユイ、エドワード。それじゃ行ってくるわ」
2人は深く頭を下げたのを見ると運転手はサイドブレーキを戻し、アクセルを踏み込んだ。
深夜の街並み。いつもと変わらない筈なのに今夜は何故か静けさが勝っているように感じる。王都の中心街に向っていくにつれ明かりや音が賑やかになっていく。
高官
「国民が静かにカレン様の誕生日をお祝いしているようですね」
カレン
「ええ、そのようね。ありがたいことだわ。ただの小娘が21になっただけで他人がお祝いしてくれるなんて。普通じゃあり得ないもの」
車が王立図書館の立派な門の前に停車すると、待ち構えていた人がカレンの乗っていた後ろ側のドアを開ける。カレンは車を降りて図書館の中に案内される。
王立図書館は国内最大の蔵書を誇っている歴史ある建造物。ここには王国内の大学の論文や普通の漫画に至るまでありとあらゆる書物が管理、保管されている。一般への貸し出しも行っているが、最近では本をスキャンしデジタルデータ化したものを自宅のパソコンで閲覧するという形が主流。
しかし蔵書が膨大なためスキャンされていない本も多数あるため必要な人はここに訪れて本を検索して探すことが出来る。カフェや映画館なども併設され始め単に図書館としてではなく王都民には「知の館」という相性が付けられていた。
その中央口から左側の通路の奥。本来ならそこは本棚が有る場所なのだが、そこにエレベーターの入り口が見える。
カレン
「(あれが手帳に書いてあった特別なエレベーター・・・)」
先導している高官が呼び出しボタンを押して扉を開いた。なんの変哲もないエレベータにカレンは乗り込んでいった。付き人の高官は全部で5人。カレンを取り囲むように立っていた。少し長い時間、地下に向っていく。静かな空間にエレベーターが動く音だけが響いている。
しばらく待っているとゆっくりと停止して扉が開く。外から風が入り込んでくると地下室独特のカビのような臭いがしてきた。扉の先にはご丁寧に青いカーペットが敷かれており、その周りに黒い服装をした高官が立っていた。パーティーで見たことが無い顔だった為おそらく高官の中でも若手の役目なのだろう。カレンが歩き出すと通路に居た全員が片膝をついた。
しばらくその通路を歩いていくと少し開けたドーム状のような空間に出た。やや薄暗いが人の顔を確認することは可能だった。カレンは首を動かさず目だけを動かすとパーティーに参加していた高官の顔がちらほらと見えた。
部屋の真ん中には魔法陣が何かの血液で描かれている。そしてその中心には本を焼くためにある金属の台が置かれていた。カレンはその台の正面に案内された。その位置はドームの中心点であり、見上げると天井が一番高く見えた。
正面の一段上がった壇上の奥から足音が聞こえてくると、周囲に居た高官は見な膝をついて頭を下げた。カレンはまっすぐその足音の方を見つめている。奥から出てきたのは国王と女王。そしてフードをかぶった人物。国王の手には本が握られている。国王が所定の位置に本を置くと「表をあげよ」と一言いうと高官たちは皆それに従った。
しばらく静寂が響き渡る。
国王は一歩前に踏み出すとカレンを見て口を開こうとした。
その刹那、カレンが先んじて口を開いた。
カレン
「・・・兄上と姉上の言う事を聞く魔法なら受け付けないわよ。父上」
その言葉がドームに響き渡る。一瞬にして空気が変わり、周りの高官たちが互いに目を合わせていた。壇上の女王も一緒に来たフードをかぶった人物と目を合わせて驚きの表情をしている。
国王はそのカレンの言葉に動じていないように見えたが、よく見ると本に伸ばした手が少し震えていた。
カレンはお構いなしに続ける。
カレン
「多分、ここに居る全員がこう思ってるでしょう〝どうして私が授かる魔法の内容を知っているのか〟ってね。・・・教えてあげましょうか?」
カレンは目を細めると口元が少し緩みながら静かに手を挙げて、人差し指を向ける。
カレン
「このことを教えてくれたのは誰でもない、目の前にいる父上よ」
その言葉を聞いた国王は驚きと怒りの表情をカレンに向けた。
ガルド
「なっ何を言っている?カレン!」
カレン
「あら?でも言っていたじゃないの父上。あの魔法の儀式は忠誠の儀式。私達王族がこれから国のトップになる兄上か姉上の言う事を聞くことが出来るのか。それを見定めるためのモノだって」
ガルド
「私はそんなことは言っていない!」
カレン
「だからお前は私の質問にただ〝はい〟とだけ答えればいいと教えてくれたじゃないですか。そうしないと私をある土地の水を使って毒殺しなければならなくなるってね。だからあのパーティーに呼んだでしょう?事前に教えるために。何せ私の性格がこんなんだからもしかしたら反抗するかもって心配になったんでしょう」
周囲の高官たちがざわつきだし、国王の顔には汗が滲んでいる。
カレン
「じゃあどうして私がこんなことを知っているのかしら?」
この儀式の内容については秘中の秘。外部に決して漏れることのないもの。しかしそれを事前にカレンが知っている。
カレンが派手にあのパーティーで国王と会話していたのを見せつけていたのはこの場にいる高官たちへの大きなアピールの為。国王が誰にも邪魔されず2人で話すという事はプライベートでも難しい。手紙や電話の内容ですら全て第三者が常に入り込んでいる。けれども逆にあのような公の場ならば可能になる。それを知っている高官たちはこのカレンの言ったことが国王が教えたものであることを信じざるを得なかった。
それともう一つカレンの中にはある予想があった。それは当たり前だが「国王には魔法が使えない」という事。この国を抑えている魔法なんか存在しない。というのをこの王宮内にいる限られた高官は知っているということ。
つまりそれは何を引き起こすのかと言うと・・・・。
高官
「国王様!これは一体どういうことですか!」
絶対王政が絶対ならばこの言葉は出て来ないだろう。国王は絶対王政に見せかけたただのお遊戯を国民の前で演じているピエロでしかない。何せ国王は魔法なんか使えないのだから別に何の特別な力など無い。
ざわつきは次第に怒号に変わり、高官たちは国王に詰め寄る。カレンの母親であるフレンドルもガルドに詰め寄っていた。その様子を静かにカレンは見守っていたが、収集が付かなくなってきた頃合いでフードの男が国王や高官に耳打ちをしていく。すると取り巻きや国王が次々と後ろの方に消えていき、気が付くとカレンは魔法陣の上に一人になっていた。
しばらく待っていると奥の方から姿を現したのは国王と一緒に来たフードをかぶった人物。ゆっくりとカレンの居る魔法陣に歩み寄ると軽く頭を下げた。
「申し訳ありません、カレン様。国王の些細な気の迷いによってこのような事態になってしまいまして」
声の感じから言うと初老の男の声だった。
カレン
「・・・私はあまりこんなことを気にしないのだけど、顔の見えない相手と会話するってのは初めての経験なの。出来ればお顔を拝見したいのだけど?」
「これは・・・これは失礼いたしました」
男はローブを取ると明かりの元に自分の顔をさらした。それを見たカレンはうっすら額に汗が滲む。
カレン
「ヘミン・・・・おじい様」
フードを取ったその人物はカレンの祖父。15代目レトリック国王ヘミン・レトリック。国王の位をガルドに譲った後は田舎で隠居生活を送っているという事になっていた。
ヘミン
「久しぶりだな。孫娘カレンよ。大きくなったもんだ」
ヘミンの口調は優しくおっとりしていたが目元だけはカレンの事を鋭く見つめていた。
カレン
「・・・隠居なされていたのではないですか?」
ヘミン
「カレンよ、人はそう簡単に持ってしまったものを捨てるという事が出来ないのだよ。歳を重ねていくに従い積みあがるのは経験だけではない。自分の中の権威や自信なども勝手に積みあがっていくもの」
ヘミン
「だから例外なく引退した国王は皆このように院政を敷くことになる」
カレン
「という事は今までの歴史の中で、国王が政治を行っていたというわけでは無く、全部が院政になったおじい様のような人がやっているということですね」
ヘミン
「いかにも。私が国王だった時もまさしく同じ。私の父ギフテフ前国王が院政を敷いていた」
ヘミンを含める歴代の国王はその座を息子に譲ると「王政の政治特別相談役」という形で隠居するというのが習わしである。表向きには王政に関して全く実権が無いように見えているが実態はこのように裏で糸を引く立場に居る。
ヘミン
「人は表の役職から裏の役職へ着くとき、光の権力から闇の権力へとすげ変わることになる。この闇の権力は蜜の味。何せ何をやろうが全て表ざたにならない。例え失敗したとしてもそれは外から見ればそれは表の人間の失敗にしかならない」
この時、カレンは若干焦っていた。なぜならこのような情報は本来自分が知るべき情報ではないこと。絶対に知られてはいけない情報であることに気が付いていたからである。
カレンは耳の上に挟んであった一本の煙草を取り出すとヘミンに見せた。「構わんよ」とヘミンが言うとカレンは近くにあった儀式用の松明から火を取り煙草を吸い始めた。
カレン
「・・・私をどうしますか?そこまでの情報を与えられて私も生きていられるとは思ってませんけど」
ヘミンは天井を見上げた。
ヘミン
「カレンをここで殺してしまうことは容易い。お前にとって仲の良いユイやクロム王女を含めて処分することは簡単だ・・・しかし、それは出来ない」
カレン
「それは・・・どうしてでしょう」
ヘミンはローブの内側に手を入れると葉巻を取り出した。銘柄は「ペネトレイト」その端っこを口でちぎり、手で少し形を整えるとカレンと同様に松明で火をつけた。独特な臭いの煙が立ち上る。
ヘミン
「・・・情勢とお前がやったことが、何の因果なのかそれを不可能にしてしまった」
何も問題がなさそうに見えるレトリック王国は実のところ王政の体制を含めてかなり弱体化の道を進んでいた。それは政治的も経済的にも成長が止まっていることはもちろんの事、近年では大きい存在である「情報を絡めたビジネス」の誕生によって国という概念の有り方がそもそも昔よりも薄れている。一昔前ならば王国から気軽に海外へと行くことも出ず、さらには情報さえも閉じられた空間の中のモノしかなかった。
しかし、近年になるとテクノロジーの急激な進化によってその流動にブレーキを掛けられなくなっていた。支配出来るという形の箱庭は箱という防壁を失い、枠や概念という簡単に飛び越えることの出来る存在になっている。
カレン
「・・・つまり、私を殺せないのはユイやクロムの存在・・・ということですか?」
ヘミン
「お前が破天荒に他国へメイドを探しに行ったり、クロム王女のバンデルを助けたことで、間接的に多くの人達にお前の存在を知らせることになった。・・・それも頭をもがれたモグラの様な馬鹿な民衆ではなく、この国を利用しようとしている野心にあふれる賢いハイエナのような民衆にな」
ユイの採用は隣国やその他の国にとっては衝撃的な出来事だった。あまり大きなニュースにはなっていないものの、カレンのメイドは外国人。しかも突拍子もないような採用だったため多くの若者たちに「希望を与える」ことになった。クロムを助けたことも、燻っていたバンデルと言う都市に新たなビジネスマンや経営者を誘致するためのきっかけを生み出してしまった。
カレンの行動が起こしたことが既に「誰かを動かしている」
ヘミン
「お前を〝魔法の儀式に失敗した〟という事にして殺すことは容易い。しかし、もうペデフィルのような時代ではない。圧力による封殺が出来ない時代になった。お前が死ぬことで反旗を翻そうとする人間は沢山いる。そしてそれらを抑えることがもう出来なくなっている」
ヘミン
「私には手に取るようにわかる。お前達を処分した後でお前が残した人たちがこの国の魔法について探り始める未来が。・・・そうすればいずれ暴かれることになる。この国を繋ぎ止めている手綱である魔法の全てが」
カレンは煙草を強く吸うと白い煙を吐き出した。
カレン
「・・・でもそれはおじいさまの予想でしょう?もしも私達3人を処分しても何も起きないかもしれないじゃないですか?・・・今だって魔法の秘密に関しては秘中の秘。どこにも漏れていませんおじい様らしくないご判断ですね」
ヘミンは煙を口に含むと静かに吐き出した。
ヘミン
「カレンよ・・・私は自分の息子、ガルドの事を良く知っている。あの男は直系の兄妹の中でも特に自分を守ろうとするタイプの人間だ。それは幼少期から変わらない」
ヘミン
「花瓶を割ったり、何かいたずらをしても決して自分でやったという事を認めなかった・・・必ず〝自分は悪くない〟という風に弁解をする人物。そしてそれを誰も咎めなかった。だからこそ大人になった時も同じことをし続けた。自分は悪くない、悪いのはまわりだ。自分は何もしていないとね」
ヘミンはカレンの目を真っすぐ見つめた。
ヘミン
「そんな自分が大好きな息子が自分の愛娘がかわいいからと言うそれだけの理由で魔法の儀式の事をお前に伝えるとは思っていない」
ヘミンはガルドの事を良く知っていた。だからこそ息子が自分の娘を守るはずがないという事知っていたのだ。つまり、カレンが事前にこの儀式の内容を教えたのはガルドではなく、他の何かであるということにヘミンは気が付いていた。
ヘミン
「・・・しかし、その証拠は見つからないようにしてるんだろ?カレンよ。お前は破天荒だがそういう部分に関しては抜け目がない。私の時代ならば拷問をして吐かせる方法もあったが、今は全て記録に残さなければならない。おまけに拷問をさせるのもここに居た高官がやらなければならない」
ヘミン
「高官は全員、今日の事で国王が娘に機密情報を漏らしたと信じている。そんな奴が前向きにお前に拷問なんかするわけがない」
カレンに直結する親しい人物を捉えて拷問するのは可能だが、情報がどこまで流れているのかがヘミンにはわからなかった。3人が殺されることや拷問されることで「カレンが手に入れた魔法についての秘密」の情報がどこからか証拠付きで漏れ出るという可能性をぬぐい切れない。
カレン
「だからこのまま生かしておいた方が得策ということですか・・・3人が何事もなく過ごしているのであればそれで何も起こらないと」
ヘミン
「そうだ。わかっていないのであれば動かさないほうが得策。お互いにな・・・流れて来た時代と言う物には次第に勝てなくなっていく。いつかこういう時が来ると私は思っていたよ。それがお前だったという事だ」
ヘミンはわかっていたのだ。魔法がこの国を支配してるという実態がいつか暴かれる日が来ることを。大いなる支配、大きな影響力と言う物が無に帰りつつあるという感触を得ていた。
だが、幸いなことに国民はほとんどが「頭をもがれたモグラ」自分の目の前にある事で手一杯なように見えて全く自分を持っていない。そんなのを騙すのは容易かった。
しかし、カレンの周りに居るのは自分の頭で考えることが出来る狡猾なハイエナ。もっとも王宮が敵に回してはいけないその存在のトップに位置しているのがカレンであることにヘミンは気が付いていた。
カレン
「・・・では私はこの後どうされるので?今まで通りとはいかないでしょう?」
ヘミン
「そうなるな・・・息子はお前に激怒している。高官や私、自分の妻が見ている前で実の娘に身の覚えのないことを言われて恥をかいた。その怒りの矛先をどうしようもなく振り回す時間が過ぎ去った頃に、屈辱を晴らすために何らかの処分をするだろう」
カレン
「その処分と言うのは何になるのでしょうか?」
ヘミン
「息子の性格的にお前を自分の住む町に置いておくことを嫌うだろう。だから世間には魔法伝授が成功したという事にしてどこかの土地に捨てることになる。今までだって殺せない相手にはそうしてきた・・・息子の判断ではなく私や高官の判断によってね」
ヘミン
「息子はわかりやすい腰抜けだ。漫画やアニメに出てくるようなね。覚悟がない。だから生かさず殺さず、島流しにする。あいつはどこまで行っても自分を悪者にすることが出来ない人間。そんな人間がとる行動はいつだって中途半端。ピエロと呼ばれてしまってもしょうがないのかもしれないな」
カレン
「・・・おじいさまは私の事をどう思っているのですか?もしかしたら私自身が島流しをされた後、持っている魔法の秘密を証拠付きでマスメディアにリリースするかもしれませんよ?」
ヘミン
「それをやるのなら、この場を待たずしてお前はとっくにやっていただろう?でもお前が得た情報の中に決定的な〝魔法が無いという証拠〟は無かった。あくまでも信憑性のある推論でしかない。魔法が無いのであればあの魔の領域から魔物を引っ張り出してでも来なければ人々は信用しないだろう」
ヘミン
「もし仮に情報を漏らしたとすればこちらとして手は一つだけ。お前が魔法の儀式の結果不適合で狂人となった。だからカレンのいう事は全て妄想の虚言であると報じればいいだけの事。それで丸く収まるようになっている。国全体が」
カレンの吸っていた煙草が全て燃えて灰になった。それを見ていたヘミンは自分のローブから葉巻を取り出すとカレンに差し出す。カレンは手を伸ばしたが一瞬止まってヘミンの顔を見た。
ヘミン
「大丈夫だ、毒なんか塗ってない。味が落ちるだろうが」
カレンは葉巻を受け取るとなればない手つきで端っこをちぎり、松明で火を付けた。
カレン
「・・・凄い味ね、これ」
しかめっ面をして葉巻を眺めているカレンを見てヘミンは少し笑っていた。
ヘミン
「ふふっ・・・カレンは立派に育ったと死んだばあさんに報告できるな。それと、私の冥土の土産に一つ聞きたいことがあるんだが」
カレン
「なによ?」
ヘミン
「お前は知っていたのであればどうして自分を偽らなかった?父親の質問に〝はい〟と答えればいいだけ。そんなの小学生でも出来ることだ。それをやれば今まで通りの贅沢な暮らしやそれこそ3人で楽しいことができるじゃないか。せっかく王族に生まれたんだ。それを十全に満喫するのも悪くはないだろう?なんでこんなもしかしたら3人とも殺されるような選択をお前はしたんだ?それこそ狂人じみた選択を」
カレンは持っていた葉巻を見つめていた。
カレン
「待っている未来に〝いいえ〟と答えただけ。ただそれだけよ」
ヘミンはその返事をするとどことなく満足そうな顔をしていた。
カレンはその後ヘミンに連れられエレベーターに乗ると王立図書館のメインホールに出た。そこには何か騒ぎがあったことを聞きつけた衛兵や若手の高官たちが待ち構えていた。ヘミンはその一部の高官たちに指示を出し、カレンを屋敷に送っていくように手配した。
ヘミン
「・・・今後の事が決まるまでは時間が掛かる。それまで屋敷の中でゆっくりと過ごすといい」
カレンはその言葉を聞いて軽くお辞儀をすると迎えに来た車に乗り込んだ。
偶然にも運転していたのはパーティーで最初に名前を聞いたエクトだった。
カレン
「あら、エクトじゃないの。元気してた?」
エクト
「あ・・・・はいお陰様で」
エクトは話しかけられたことにびっくりしていた。
カレン
「お願いが有るのだけど」
そういうとカレンはポケットからお札を1枚出す。
カレン
「少し走った先のコンビニでもいいから水と煙草を買ってきて頂戴な。水はなんでもいいわ。煙草はシルバーを2箱お願いね。おつりはあなたにあげるから」
エクトは数分車を走らせるとコンビニに立ち寄りカレンの言っていたものを購入してきた。カレンは「ありがと」とそれを受け取ると封を切って煙草を咥え、シガーライターで火を付けた。エクトはちらちらとバックミラーでカレンの方を覗き込み落ち着かない様子だった。
カレン
「なによ?エクト。私の顔になんかついていて?」
エクト
「いえ、そうではなくですね・・・少々ビビっていまして・・・まさか夜中に呼び出された理由がまさかカレン様をお送りすることだと思わなくて」
カレン
「そういうことね、安心しなさい。これからもっとあなたはビビることになるわ。特に王宮に勤めているとね」
エクト
「・・・はい、肝に銘じておきます」
車はカレンの屋敷に向って行った。
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