第7話 分かれ道
カレンが魔法を受け取る日まであと2週間。カレンが魔法の秘密を探ることを諦めると自分が王女だという事を思い出した。それまであまり手を付けていなかった国務に取り掛かるが全く筆が進まない。
カレン
「・・・新しい市長の就任祝い。なんて書けばいいのよ、知らないわよ、こんなやつ」
書類をデスクに叩きつけると灰皿を引き寄せて煙草に火をつけた。ぼーっと文章を考えるふりをして考えないというサボリをしていると、クロムがユイを連れて部屋に入ってきた。その手にはバケツとスコップが握られている。
カレン
「どうしたの?そんなもの持ってきて。これから潮干狩りでも行くつもり?」
クロム
「この国に海なんてないでしょうに・・・違うよ。今日実はユイの実家から花の種がいっぱい送られてきたんだ。なんかユイがこのまま故郷を忘れないようにってね」
カレン
「・・・それだとなんか私がまるでユイを誘拐してきたみたいじゃない。わかったわ。その責任は私にもあるってことで手伝えっていうんでしょ?」
ユイは「そんなことありません」と言葉では否定していたが嬉しそうな顔をしていた。カレンは送られてきた段ボールを覗き込むと花の種が大量に入っていた。
クロム
「これ・・・花壇に入るかな?」
カレン
「入らないわね、入らないなら作ればいいのよ」
外に出て花壇を作るのに適当な場所がないか探し始めた。カレンたちは屋敷から少し離れた場所。雑草が生えていて全く手入れをしていない場所を見つけた。
そこは不思議な空間でそこだけ木が生えていなかった。
カレン
「ここならどう?花屋さん。日の光も当たるし、風通しも良さそうだし。・・・でも植えるには少し地面が固いわね」
持ってきた小さいスコップを突き刺すも全く歯が立たない。
ユイ
「そうですね、多分ここなら大丈夫かと。土が固いみたいなので私、大きいクワを持ってきますね」
そういうとクロムとユイは屋敷の倉庫に向っていった。
カレンはそれでも何とかならないかと柔らかい部分を探すためにスコップを突き刺しまくる。すると一部分だけスコップが「スルっ」と土の中に入る部分を発見した。比較的柔らかい土をどかしながら20センチほど掘り進むとスコップが「カキン」と音を出して何かに当たった。
カレン
「・・・明らかに金属音がしたわね。水道管か排水管に当たったかしら」
周囲を見渡してもメーターボックスやそれらしい蛇口が見つからなかった。そのまま少しずつ掘りながら土どかしていくとそれが管ではなく何やら四角い金属箱のようなものが現れた。
カレン
「もしかしてタイムカプセルとか?ロマンチックなことをするじゃない」
埋まっていたのは有名なブランド店のお菓子の金属箱。若干塗装が剥げていて錆もくっついているが穴は空いていない様子。カレンは箱を掘り出して土を軽く払った。
カレン
「クロムとユイが見たらなんていうかしらねこれ」
そう言いながら缶をひっくり返して裏側を見るとカレンの表情が固まった。
カレン
「・・・・・ペデフィル・レトリック」
カレンは箱を持って周囲を見渡す。まだユイとクロムがこちらに来ていないことをかくにんするとその箱を持っていたタオルで包んで草陰に隠した。
その後3人で一通り花壇を作り、種を植え終えるといい時間になっていた。クロムはこの後に国務があるらしく準備を済ませるとユイがクロムを送っていく。カレンはそれを見送ると完成した花壇を眺めつつ、隠してあった金属箱をバケツに入れて自分の部屋に持ち帰った。
部屋に戻るとまずベランダに出て、箱にブラシをかけて残っている土を落とした。キッチンからゴム手袋とマスクを持ってきて農機具置き場からゴーグルを持ってきて付けた。
手を蓋に掛けて力を逸ると「ズズッ」と音がして動いた。固着はしていないようだ。ゆっくりと蓋を外すと中には分厚い手帳のようなものが入っていた。手帳を拾い上げて箱の中に何もないことを確認すると蓋を閉じてベランダの隅においた。
窓とカーテンを締めてからカレンは椅子に座ると、その手帳の表紙を布でこすって汚れを落とした。すると文字が出てくる。
カレン
「これは・・・日記?」
それはペデフィルと言う人物が書いたと思われる日記だった。その日記はちょうどペデフィルが21歳の誕生日を迎えた時期のもの。
手帳を開き1ページ、また1ページと丁寧にめくっていく。そこに書かれていた文章を読み進めていく、その中に書かれているある物を見つけるとカレンの手が止まった。汗が額に滲み、手が震える。
カレン
「これが本当だとしたら・・・」
その時「コンコン」とドアをノックする音が部屋に響き渡った。カレンはその音で我に変えると、出していた手帳を素早く机の中に仕舞い返事をした。
カレン
「いいわよ、入っても」
ユイ
「失礼いたします。ただいま帰ってきました。これから夕食の準備を致しますね。・・・・どうしたんですか?その汗。花壇作りでお疲れなら先にお風呂にしたらいかがです?」
カレン
「ええ・・・そうね、そうするわ」
シャワーを浴びに浴室へ向かう。脱衣所でいつものように服を脱いで鏡の前に立つと鏡越しに金髪の縦ロールが揺れているのが見える。
カレン
「・・・ここに来てあんなものが見つかるなんて」
自分の顔を見つめ、そう呟くとシャワーを浴びに浴室へ向かった。
いつもと同じようにユイと夕食を食べるためダイニングに向った。テーブルに並べられたいつもの夕食。そしていつもと変わらない味。ユイは料理が得意で学校でも1,2番を争うほどだった。しかし、今日はそんな食事が進まない。その様子に気が付かない筈もなく声を掛けてきた。
ユイ
「カレン様、どうされましたか?体調でも何かおかしいですか?いつも馬鹿みたいに食べるのに」
カレンはその言葉にはっとして「そう?」とごまかすと手に持ったナイフでステーキを切り刻んで口に運び、ジャガイモを潰して口の中に押し込み、注がれた水を一気に飲み干した。
それから数日間。カレンの様子は明らかにおかしくなっていた。部屋では普段使わないパソコンを使って何かを調べものしたり、普段読まないような本を読んでいたり。カレンが変なのはいつもの事だが、ユイが気づいていたことは何かを自分に隠そうとしていたこと。そんなことは今までなかった。
ユイは夕食の度、カレンにそのことを色々聞いてみたがどこか上の空だった。そしてその日から3日ほど経ったある日の事、カレンは夕食を終えるとユイにある事を告げた。
カレン
「・・・この後、少しお酒でも一緒に飲まない?たまには私の部屋で」
ユイはそれを聞いて何かを察したように笑顔になると「・・・いいですよ、わかりました。ちょうどいいワインを頂きました」といって戸棚から取り出してきた。
カレンが先に部屋へ戻るとベッドに飛び込んてうつ伏せになる。自慢の金髪縦ロールがやる気のないスパゲッティのように広がる。
カレン
「・・・ユイは・・・私に仕えた事どう思っているのかしら」
しばらくそんな体制でカレンが考えていると「失礼します」と言ってユイがワインと食べ物を少し持ってきた。突っ伏しているカレンを発見したユイはため息を付く。
ユイ
「・・・一応あなたはこの国の王女様なんですから・・・ほら、そんなぐじゃぐじゃな髪の毛、癖になりますよ」
と言うとベッドからカレンを引き起こしてドレッサーの前に座らせるとドライヤーでカレンの髪を整え始めた。
ユイ
「この金髪縦ロールは何年切っていないのです?天然ものですか?」
カレン
「・・・・7年ね。もちろん天然ものよ。願わくばあなたのような黒色のストレートに生まれ変わりたいものだわ」
ドレッサーの鏡越しに後ろのテーブルを見るとワインが一本とグラスが2つ置かれている。隣にはこの国の名産品である生ハムとチーズがあった。
カレン
「生ハムはあれとしてもチーズなんかよくあったわね」
ユイ「ああ、テーブルの上の奴ですか。さっき植えた花の種と一緒に入っていたのです。祖母が細々と経営している店で出しているチーズです。もちろん自家製ですよ」
カレン
「そう・・・なのね」
ユイ
「何です?急にしおらくなって。いつもなら少ないわよ!とか言うくせに」
知ってしまった事実を打ち明ける相手としてユイは・・・悲しくなるほど大切な友人になっていた。カレンはユイを強引に連れて来たかもしれない。けれども彼女はカレンの事を慕ってくれていた。
「どこまで私に付き合ってくれるのか」それがカレンにはわからなかった。
カレン
「・・・あなた、どうしてあの時の私の誘いに乗ったの?メイドになるって話し。普通の人間なら断ると思うのだけれど」
しばらく沈黙が続いたが、ユイがドライヤーを切ると鏡越しに目を合わせた。
ユイ
「両親に札束を積み上げて強引に連れて来たのは誰ですか・・・」
カレン
「・・・教えて欲しいの」
ユイはカレンの様子を伺うと一息入れた。持っていたドライヤーを櫛に持ち替えるとカレンの金髪をとかしていく。誰よりも優しいその手つきは髪を滑らかに変えていった。
ユイ
「どうして・・・ですか・・・今でも理由がはっきりわからないんですよね」
カレン
「そう・・・」
ユイ
「私は恵まれた家族に生まれたと思います。そこまで裕福ではありませんでしたが両親や祖母や祖父がきちんと私を見守ってくれていました。これ以上のことは無いって思っていましたね。それと将来の夢はお嫁さんとかお花屋さんとかでしたかね・・・そういうどこにでもいる女の子でした」
ユイ
「でも学校に通うようになって、だんだん時間が経っていくと私はいつの間にか周囲に合わせなければいけないと知るようになったのです」
カレンはユイを鏡越しで見ていた。頭には自分が送ったメイド長の証。銀のリボンが付いたカチューシャが光っている。
ユイ
「私は不器用でしたので、周囲に合わせることに沢山エネルギーが必要で・・・・。もし、合わせられなければだんだんと相手にされなくなります。いじめ・・・とまではいきませんでしたけどね。やっぱり浮くんですよ。教室とかそういう場所では。逃げ場無いですし」
ユイ
「学校の教室は・・・そうですね、同調圧力の水が常に流れ込んできます。その水を飲みこむことが出来ればその教室に居場所が出来るのですが、私は飲めなかったのです。そしたら浮かぶしかありません」
カレン
「・・・どうして飲むことが出来なかったの?」
ユイ
「例えが的確かはわかりませんが・・・その水は誰のモノかわからない水なんです。バスでたまたま居合わせた人のカバンに入っていたペットボトルの水。その水をいいから飲めと言われて飲む奴なんかそうそういませんよ」
カレン
「でも、あなたの周りの人は飲んでいた?」
ユイ
「そうです。別に私潔癖ってわけじゃないですよ?モノの例えです」
カレン「わかっているわよ」
ユイ
「でも、仕方が無く飲むときもあったんです。文化祭とか運動会とか。それから年末テストの時とか。言われたことに反抗すれば素直じゃないと怒鳴られて、屁理屈を言うんじゃないと理屈の無い理由で怒られて。そういうしょうがない時は用意されている誰のかわからない水を少し口に含むんです」
ユイ
「人の体は70%が水で出来ています。だから少しずつ飲み込んでいくとだんだんその誰かの水に自分の体が侵食されていって、自分の水の質が変わっていくの感じたんです」
カレン
「なるほど・・・ね」
ユイ
「気が付いた時には周りがそういう同調圧力の水と同化していました。友人と話しても、先生と話してもその誰かの水に侵食されていて、まるで・・・・」
言いかけたユイの言葉を遮って、カレンが口走った。
カレン
「まるで、私は誰と話をしているのかわからなくなった」
ユイは少し驚いた顔をして鏡越しにカレンを見た。カレンの顔はいつもの顔ではなく、どことなく寂しそうな、懐かしそうな顔をしていた。
ユイ
「・・・・そうです。極端に言えばみんながみんなその誰かの水に従った発言とか行動をしていました。誰も自分なんてものを持ち合わせていなかったんです。私はだんだん教室に居ることが嫌になっていきました。・・・先生や他人から見たら私はわがままだったのかもしれませんね」
自分を騙してこの世界になじめればどんなに生きることが楽なのかを知っているとしても。自分の感覚には嘘はつけない。だからごまかすのに酒や愚痴をいいまくる。自分より立場の弱いものを見て落ちついたりする事で感覚を鈍らせて「あいつよりはマシだ」と自分に言い聞かせる。
自分の範囲を常識と言う正義で塗り固める。「これが幸せ」「これが普通」「これが正しい」そして「自分は間違っていない、誰かを助けるためにやっている」そんな嘘で塗り固める。
それが出来ないのであれば、黙ってその場を立ち去るしかない。
ユイ
「だから誰も来ない川岸に座って夕日を眺めることだけが唯一の楽しみになってしまっていたのです。川を泳ぐ魚を見たり、鳥たちが空を飛んだりしているのを眺めているのが唯一、その世界から出る方法だったのです」
ユイ
「そんなある日、いつものように川に行くと金髪縦ロールをした同い年くらいの女の人がジャージ姿で川に入っているのを見つけました。誰だろうと思いましたよはじめ」
カレン
「・・・そうね、そうだったわね」
カレンは家出気味にメイドを探しにユイに居る国に出てきたため、最小限の荷物しか持っていなかった。そのかわり札束を沢山持ってきたのだが、肝心な両替の仕方がわからないまま夜になろうとしていた。
ユイ
「その女の子が川から上がってくると両手にニジマスを掴んでいたのを見て、私笑いましたよね」
カレン
「ええ、笑われたわ。私としては真剣だったのよ。何せこのままじゃ晩御飯にありつけないもんだからね」
ユイ
「それで近くで火を起こして魚を焼き始めてるのをずっと見ていたら、あんたも食べたいの?って話かけられて・・・」
カレン
「ええ、そこから色々話をしたわね」
ユイ
「そうです」
ユイとカレンは意気投合し川辺で色んなことを話し合った。お互いの国の事や、お互いの生活の事、流行っている事。カレンは王族の中ではかなり庶民的な方だったがそれでも知らないことが多く、すぐにユイの話すことにのめり込んでいった。
しばらく話をしているとユイはカレンの胸元にかかっているペンダントに気が付いた。そのペンダントについて聞くとカレンはペンダントを外してユイに手渡した。
カレン
「ほら、見てみたら?」
ユイはそのペンダントが何かわからなかったが、裏面を見た瞬間に顔が固まった。
ユイ
「カレン・レトリック・・・第2王女・・・・まさか・・・」
カレン
「そうよ、あなたの目の前に居るのはその王女様。驚いた?」
ユイは固まってしまい動かなくなってしまった。それもそうだろう。まさか川で魚を取ったあとにいきなり焚火で焼き始め、挙句の果てに知り合いになったばかりの人にマヨネーズを要求する人が、まさか隣の国の王女とは信じられない。そんなはずがないユイは思っていたがカレンが草むらからカバンを持ってくるとその中身を目の前にばらまいた。
ユイ
「これって札束・・・」
出てきたのは十数本の札束。レトリック初代国王が印刷されている最高額の紙幣。通貨の名称は「エイジ」である。
カレン
「これは役に立つって思ってたから沢山持ってきたんだけど、両替のやり方がわからなかったのよ。あなたの国と私の国の物価はそう変わらないからほとんど等価だと思ったのに」
あっけに取られてその光景を見ていたユイを見てカレンはペンダントを指さした。
カレン
「そんなことはどうでもいいの。それよりあんた、私の家でメイドやりなさいよ」
ユイ
「・・・え?」
空を見るといつの間にか日が落ちて、夕焼けを迎える時刻になっていた。夕日に照らされた金髪縦ロールが一層輝いている。
ユイ
「冗談でしょ?」
カレン
「ユイ、私はね自分に付いてくれるメイドを探しにここに来たの。それであなたを見つけた。話しているうちに私はあなたを気に入ったの」
ユイ
「・・・・でも」
普通なら怪しすぎるこの誘いに乗るわけがない。カレンが隣の国の王女である証拠はペンダントと大量の札束だけ。カレンは気に入ったとは言っているがほんの少し会話をしただけ。なんで自分を誘ったのか、ユイにはそれが全くわからなかった。
ユイ
「・・・出会う人みんなにそれを言っているの?」
カレン
「そんなわけないじゃない、そしたら今頃私はここに居ないわよ。通報されてお縄になって強制送還された後、きっと執事のエドワードに怒られてるわね」
ユイ
「じゃあ・・・・」
カレン
「今のが答えよ」
ユイ
「答え・・・」
カレンはユイに近づくと自分の顔を近づけた。
カレン
「普通の人ならそうするのに、ユイはそうしなかったじゃない。見知らぬ変わった人を見て気持ち悪いとか関わりたくないって思わなかった。あなたは私に興味を持った。何をしている人なのか、どんな人なのかって気になって色々話をしてきた」
カレンは白い歯を見せてニコッと笑った。
カレン
「それが今の世でどれだけ価値があるか、あなたは知らないの?」
この一言でユイの頭の中にあった霧が晴れ始める。今まで誰もそんなことを言わなかった。言うのはみんなと同じこと、同じもの、同じ水。でも、カレンが持っていたのはそんな水じゃなかった。とびっきりのオリジナル。それが入ったグラスを今目の前にしているのは他の誰でもない。自分だ。
人生を変えるために必要なのは自分で掴む偶然かもしれない。いくら努力をしても自分が変わる事なんか出来るはずがない。変われるのは何かのきっかけの切れ端を自分で掴んだ時からそれを継続すること。何もない状況から努力なんかできない。
ユイは気が付くと自分の心がカレンの言葉で脈動しているのを感じた。ざわつき。今までになかったそのざわつきがユイの頭に響き渡る。「その水を飲め!」と心が叫んでいた。ユイは震えながらその言葉に従っていて、両手でそのグラスを掴むとためらいなく飲み干した。
ユイ
「・・・・絶対に後悔させないでよ」
カレン
「ええ、命を懸けて約束するわ」
そういうとカレンは満足そうな顔をしてカバンを肩から掛け、髪の毛を整えるとユイの家に向っていった。
ユイ
「本当に私の両親を説得できるの?高校1年生が急に学校を辞めさせられるなんてそんなこと普通許すはずがないと思うけど」
カレン
「任せておきなさいな」
そういうとカレンはユイの両親に挨拶をした。事の経緯をユイが説明すると両親は驚いていたがカレンのペンダントを見せると一応は信じざるを得なくなった。
ユイの母親
「ですが・・・あまりにも急な話しで私達も・・・」
ユイの父親
「ええ・・・一応まだ学生ですし、それにこの子の将来もありますし・・」
その言葉が来ることを知っていたカレンはカバンからある紙を取り出した。それは王立スタークロード学園の入学手続き書だった。
カレン
「良い返事を貰えたらこれにユイさんの名前と私の推薦を付けて提出させてもらいます」
王立スタークロード学園。王族や貴族、世界の富豪たちの娘や息子が通っている世界的に見ても歴史のある学園。一般国民も入学することは可能だが入学には王族の推薦か高倍率の試験をパスしなければならない。
カレン
「この学園の執事・メイド科にユイさんを編入させて、学業と私のメイドを両立してやってもらおうと考えています」
一般国民からの応募が最も多い激戦区が執事・メイド科である。教育内容は執事・メイドの基礎知識はもちろんの事、基本的な教養を初めとして調理師、栄養士、パティシエ更に優秀であれば医者、弁護士など様々な免許などが格安の授業料で取得できる。優秀な人材であれば国籍、人種を問わない。
「それとこれは給料の前払いになります」とカバンをひっくり返してさっきの札束を机の上にばらまいた。
カレン
「これで納得してもらえなければ私も引き下がるしかありませんねぇ・・・」
ユイの両親は快く書類に印鑑をついた。
ユイ
「それからびっくりするような生活が始まったのです」
ユイは学園に入学した。学校生活は第2王女の推薦という周囲の目もあったが、それも含めてカレンが全部吹き飛ばしてくれた。学校の調理実習の時間になるとにカレンは勝手に学園に入り込み、ユイのクラスの人たちが作る料理を手あたり次第食べてまわった。
カレン
「全部旨いじゃない。料理が出来るってのは素敵なことよね」
ユイは優しい目をしながらカレンの髪を見つめた。
ユイ
「お仕えして良かったと私は思っています。カレン様と・・・たまにクロン様と。突拍子の無いくだらないいたずらとか、見たことの無いような王族の世界とか。それでも私とは全く地位が違うのに、誕生日をお祝いしてくれたり、送られてきた花の種で花壇を一緒に作ってくれたり・・・私の中の世界が一瞬で塗り替わっていくのを感じていました」
ユイ
「カレン様は約束をきちんと守ってくださいました」
ユイの話を聞いている間、カレンはうつむいていた。気が付くと自分の目から熱い涙が数滴自分の膝に零れ落ちていることに気が付いた。
カレン
「私が私を信じないでどうすんのよ・・・」
ユイに聞こえないようにそう呟くと、顔を見せないように立ち上がった。
カレン
「ユイ、私やっぱりあなた達に隠し事は出来ない。何を勘違いしていたのかしら。ばかばかしい。今すぐにクロムに連絡を入れて、ここに来るように」
ユイ
「ええ?今からですか?それにクロム様は今社交パーティの真っ最中かと・・・」
カレン
「主催者にはカレン第2王女の命令と言えばそれでいいわ。ユイ、あなたまだ酒は入れていないわよね?迎えに行きなさい。私も準備するわ」
ユイはクロムを迎えに行った。
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