第6話 原作との変化
「エルフの里ですか? 今はやめたほうがいいですよ。魔族の襲撃にあって危険な状態らしいです」
故郷を旅立ち目的の街の冒険者ギルドについた俺は驚きを隠せないでいた。だって、そうだろう? ゲームの通りならばまだ一人目のボスを倒したところであり、エルフの里の崩壊イベントは四人目のボスを倒してからおきるはずなのだ。
「そんな……ありえない……それとも俺が偽物だから、主人公補正もないってことなのか?」
「フェイン……なにをそんなに驚いているかはわからないが落ち着け」
とても動揺している俺をジークが肩を叩いて落ち着かせてくれる。ああそうだよ。俺が混乱していても事態は変わらないし、ましてや影の英雄になんてなれない。
それにしてもさすがはジークだ。こんな状況でも冷静だ。
心の中で活をいれながら受付嬢にギルドカードと金貨を見せる。元とはいえ勇者の名声とお金で情報を得るのだ。
情報はなによりも大事だからね。けちってはいられない。
「もっと詳しい情報を教えてくれないかな? もちろん、ただとは言わないよ」
「ですが……わが町の冒険者でもない方に……え、フェイン!! まさか、あなたは怪我を負って引退した元勇者のフェイン様ですか!!」
金貨を苦笑ながら断り、ギルドカードをチェックしていた受付嬢の女の子が大きな声をあげた。
「うん、まあ、そうだよ。怪我も治ったから旅をしようとおもってね」
「まさか……あの勇者様にあえるなんて……」
受付嬢が興奮気味に声をあげるから、周囲がなんだなんだとばかりに見つめてくるが、彼女はやたらと熱のこもった視線をむけてくる。。
「さきほどは失礼しました!! 私は受付嬢のアニータと申します。Sランク冒険者であり、元勇者のフェインさんに情報を制限するなんていじわるはしませんよ。むしろ、エルフの里の調査をしてくださるならば、私たちの方で依頼させていただきます」
尊敬の念を視線にこめて手を握って来るアニータに思わず驚く。勇者にはなれなかったけど、俺の頑張りはちゃんと評価されていたのだと……無駄ではないのだとわかったからだ。
「へぇー、フェインもやるじゃないか。こんなところまで名声が伝わっているなんてさ」
「ははは、ジークだったらもっとすごいことになっていたと思うけどね」
「……」
軽口を軽口で返しただけなのになぜか彼は押し黙ってしまう。ああ、そうだよね……彼は俺のせいでしんだから勇者になれなかったのだ。不謹慎だったなとぁと内心反省しつつ話を聞く。
「この街とエルフの里の近くに七大罪の一人『傲慢のアンドラス』の拠点があるのはご存じでしょうか?」
「ああ、人間とエルフが協力してアンドラスを抑えていたんだよね」
もちろん、知っている。というのも主人公の一人がエルフの里におり、彼女を選ぶとアンドラスと戦うことになるからだ。
「ですが、ある日、エルフたちからわれわれ人間は襲撃にあい、共同の拠点から追い出されてしまったのです……弁明を聞きに行こうにもすでに拠点はアンドラスに占領されてしまった後でした」
「なんだって?」
それはおかしい……アンドラスは頭は回るタイプではない上にやたらプライドが高いため、自分よりも下だと判断した相手は意見はいかない面倒なやつである。だから、アンドラスはファフニールに知恵をもらって、エルフとニンゲンを分断するのである。
だけど、ファフニールは俺たちがすでに殺しているのだ。じゃあ、誰が……?
「それで……私たちはエルフの里で何があったのか、調査してくれる人を探しているんです……フェイン様、もしよかったらこの依頼を受けてくれないでしょうか?」
正直ゲームと状況が変わりすぎていて、不確定要素が多い。ここはもっと様子を見るのがベストだろう。
だけど……
「どうするんだ? フェイン、頼られているぜ」
そう、ジークが俺の心を見透かしたように押してくれる。
俺は影の英雄に……勇者のかわりを目指すと決めたのだ。目の前で恐怖にふるえている一般人を見捨てるなんてできるはずもなかった。
「わかった。その依頼受けるよ。とりあえず依頼料は後払いでいい。エルフの里への道をおしえてくれないかな?」
「はい!! ありがとうございます」
「ふふ、そういうと思ったぜ」
仮面越しに微笑んでいるであろうジークを見て安堵する。ああ、よかった、俺は間違っていなかったのだと……彼に認めてもらえているのだと……
「あれ……怪我が治ったなら勇者パーティーに戻らなくていいのかな? 新しい勇者さんたちはファフニールの残党に苦戦したってはなしをきいたけど……」
すっかり安心していた俺は受付嬢の独り言をききのがしてしまったのだった。
そして、地図をもらった俺たちは馬車に乗って急いでエルフの里に向かっていた。受付嬢の子には「今日街にいらっしゃたのですよね? 休まないんですか?」と驚かれたが、そんな時間がもったいない。
俺に主人公補正はないのだ。すこし休んだだけで誰かがひどい目にあっているかもしれないのである。
「フェイン、聞こえるか!!」
「ああ、誰かの戦っている声だ。やっぱり休まないで正解だったよ。御者をたのんだ!!」
俺は身体能力アップの魔法を使って、即座に戦闘音のしたところへと向かう。そこには一人の苦しそうな顔をしたエルフの少女がゴブリンたちに囲まれていた。
「くっ……このままではまずいわね……」
「大丈夫だ。助けに来たよ!!」
背後から猛スピードでゴブリンたちにせまり首を斬り殺す。所詮は弱い魔物である。不意さえ打てば楽勝だった。
そして、躊躇なく助けたのには理由がある。彼女はヴァリスと言いゲームのイベントキャラでもあり、心優しいエルフだったからだ。
なによりも影の英雄として困っている人を見捨てるわけにはいかないのだ。いや、エルフだけど……
「苦しそうだね。いま、ポーションを……」
「人間が……私を辱めに来たのかしら?」
主人公たちを優しく出迎えてくれるはずのエルフはなぜか俺にたいして憎悪の目で見つめ、弓をかまえているのだった。
★★★
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