第5話 テレジアとフェインとジーク その2
私たちがたどり着いたときには村は混乱に包まれていたおり、フェインのお父さんはすでに命を落としていた。高位の神聖魔法ならば死者すらも蘇生するらしいが今の私にそれだけの力はない。
「ああ、くそ。なんで俺は気づかなかったんだ。襲撃イベントがおきることは知っていたじゃないか!! だけど……死ぬのは俺の父さんだったのか」
壁を殴って悔しそうに頭を抱えているフェインに私はなんて声をかければいいかわからなかったのだ。
だから、後ろから抱きしめる。少しでもつらさが紛れてほしいと願いながら……そして、しばらく黙っていた兄が立ち上がる。
「ゴブリンロードはどこにいるんだ?」
「ああ、あいつは教会に向かって行ったのをみたんだが……そのあとは……」
「ーー!!」
遠くから悲鳴のような声が聞こえたのは気のせいだろうか? 思わず体がびくりとしてしまう。
「よし……助けに行くぞ!!」
「なっ、だめだ、俺らじゃとてもじゃないけど勝てないよ。これは本来は君が本気で鍛錬するためのイベントで……」
慌てたように兄を止めるフェインに彼はその肩をつかんで正面から言い聞かせる。
「なにを日和っているかわからないけどよぉ。家族みたいな村のひとたちを救おうとしたり、親友の親父の仇を取ろうっていうのがそんなにおかしいことかよ? つらそうにしている親友がいてそれを放置なんてできるかよ!!」
「でも……」
「だいたい、力があるのに見て見ぬふりをしたやつが、勇者なんて言えるかよ。それに……この力は大切な人を笑顔をまもるためにあるんだ!! 今使うためにあるんだ」
「ジーク……ありがとう……」
熱い言葉を吐く兄に真正面から見つめられフェインさんが涙を流す。当たり前だ。大人びたところはあるけれど彼だってまだ子供なのだ。
そして、私は自分の言葉がかけることができなかったことに悔しさを想う。ああ、本当に悔しいけど私の兄は勇気を与えるもの勇者なのだと……
「私も行きます……だって、三人で旅立つんでしょう? これは予行練習です」
「テレジアちゃん……いや、ありがとう」
一瞬止めようとしたフェインだったが私の瞳にうつるものをみてわかってくれたのだろう。うなづくと武器を構えてともにおじさんの制止も無視して教会へと向かう。
「そんな……ひどい……」
扉は何者かに破壊されており、中からは悲鳴が聞こえてくる。迷っている時間はないとばかりに駆け込むとむわっと血の匂いを鼻を刺激する。
礼拝の時間だっだのだろう、何人もの村人の死体が転がる中奥で、神父様が背後に村人を守りながらメイスをかたてにオークに対峙しているのが目に入った。
「大丈夫か!!」
「ジーク!? それに、フェインとテレジアまで!! いいから逃げなさい」
「そんなわけにはいかないんだよ、俺は勇者になるんだ。だから……」
「ゴブー!!」
兄が駆け出すとと同時に私たちもついていく。ゴブリンロード……人の二倍にもある体躯に強力な腕力を持つ魔物が錆びた大剣を片手に私たちを見てにやりと笑った。
「俺たちがこいつは倒します。神父さまはほかの人の避難に専念してください」
「私がみんなは守るんだから!! 目をつぶって!! 光の玉!!」
「ゴブーー!?」
光の玉がオークの目の前で爆発して、やつは悲鳴をあげてでたらめに拳をふるうが、そのすきに兄とフェインさんが左右に分かれて同時に斬りかかて翻弄する。
すごい……確かにこれは勇者になれるかも……
それだけ、兄は勇敢だった。勇気のある人間……確かに勇者にふさわしいだろう。フェインさんは若干腰が引けているように見えるが、それが普通なのだ。そして、恐怖を感じながらも兄とともに戦うあの人を見てますます惚れてしまう自分がいた。
「ジーク!! いまだ!!」
「はは、まかせておけ!! 人呼んでジークスペシャル!!」
フェインの一撃がオークの足をきずつけて、バランスを崩したタイミングで兄の魔法剣がオークの胸を貫いて内部から焼き払う。
「さすがじゃないか、ジーク」
「ははは、これが俺の勇者への一歩になるんだよ」
「お兄ちゃんたちすごーい」
兄とフェインさんが拳を叩き合って勝利を喜んでおり、神父様の後ろに隠れていた子供がかけよってこようとして……
「ゴブー!!」
最後の力をふりしぼったのか、倒れたまま剣を振り回して、それが子供を襲いそうになりとっさにかばった兄が子供を突き飛ばし、そのままたたきつぶされる。
「は?」
間の抜けた声をあげたのはフェインさんだったか、私だったか、はたまた兄だったのか、わからない。
おなかがぺっちゃんこにつぶれていて、上半身と下半身がかろうじでつながっている状態で……その瞳からは生命の灯がきえているのがわかる。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
茫然としている私をよそにフェインさんがゴブリンロードに斬りかかる。それを私は茫然と見ることしかできなかった。
どれくらい時間がたっていただろうか? 私はフェインさんに背負われていた。いまだ現実感のない私はおろかな質問をしてしまった。
「フェインさん……お兄ちゃんは……」
「ごめん……俺のせいだ。俺がよけいなことをしなければ……」
その言葉であれは事実だったのだと……兄は命を落としたのだと実感がわかり涙があふれてくる。
「お兄ちゃん…お兄ちゃん……うわーーん」
背中で泣き叫ぶ私はうるさかっただろうにフェインさんは何も言わず待ってくれていた。
そして、ようやく少し落ち着くと一言そういった。
「ごめん……俺が死ぬべきだった。ジークは勇者なのに……俺とは違って世界を救う人間だったのに……」
「そんなこといわないでください、フェインさんまでいなくなったら私はどうすればいいんですか!!」
死という言葉に反応してしまい彼をぎゅーっと抱きしめる。少しでも彼の痛みが安らぐようにそう思ったのだが……
「このまま勇者がいなければこの地方は『七大罪』に支配されてしまう……そうだ……俺が勇者になればいいんだ。予言は『この村でゴブリンロードを倒した少年』だったはず、俺がファフニールを倒せないいんだ……」
「フェインさん?」
ぶつぶつと言い出した彼に嫌な予感を覚える。
「ねえ、テレジアちゃん。勇者ってどんな人だと思う?」
「それは……勇者は勇気をまわりに与えたり、勇者とは勇気のある人間でしょうか」
「ははは、まさにジークだね。ああ、だから俺がジークになろう」
何かを決意したフェインさんはまるで別人のようで……私は違和感と恐怖をおぼえながらも何も聞くことはできなかった。
それからフェインさんは別人のように変わってしまった。一人で魔物がいるであろう森へと引きこもりって夜遅くに帰ってくるのだ。
時にはきずだらけになっており、私が治療しながら話しかけるのだが、上の空だった。
「フェインさん……明日は同行してもいいでしょうか? 神聖魔法がつかえる私がいた方が鍛錬の効率が良いと思います」
「いいのかい? 本当に助かるよ。ありがとう!!」
このままではまずいと思った私が同行を提案すると予想外にもあっさりと許可がもらえた。
最近のフェインさんは食事もろくにとっていないと彼の母親が心配していたのを思い出したのでお弁当のサンドイッチをつくっていく。いつもの辛いやつじゃなくて、疲労回復の効果のあるはちみつをたっぷりぬった特別製だ。
「じゃあ、俺はつっこむからテレジアちゃんはここで待っていて」
「はい……無茶をしないでくださいね」
そう言ってゴブリンの集団に突っ込んでいくのは何回目だろうか? 一切の躊躇なく突き進むその姿はなぜだろう。かつての兄の時とは違い、たよりがいがあるというよりも怖いという感情が勝る。
そして、ゴブリンを倒すと、彼は声をかけてくる。
「テレジアちゃん悪いけど治療してくれるかな?」
「あれ? でも傷は負ってませんよね?」
「ああ、神聖魔法はケガだけじゃなくて、体力も回復するんだ。テレジアちゃんのおかげで寝ないで済みそうだよ。その時間も鍛錬に与えられそうだ」
「え?」
笑顔でよくわからないことを言うフェインさんを私が間の抜けた顔をすると彼ははっとした表情でほほをかく。
「ああ、ごめん、女の子の美容には寝不足は大敵だよね。夕方になったら帰って大丈夫だから、最後に治癒だけしてもらえるとうれしいな」
「あの……そうじゃなくて……」
フェインさんはいつ休むんですか? と聞こうとして彼は笑ってごまかすだろうということがわかってしまい胸が痛くなる。
ならば少しでも回復できるようにとお弁当をわたすことにする。
「そろそろお腹がすいたんじゃないですか? よかったら食べてください」
「あ、俺の好物のサンドイッチかな? ありがとう」
おいしそうに食べてくれるフェインさんを見てほっと一安心する。よかった。喜んでくれた。それに昔と同じ笑顔をうかべている彼に私は感想を聞こうとして……
「テレジアちゃんは料理が上手だね。いいお嫁さんになるよ。うん……俺好みの辛さだ」
「え……」
どういうことだろうと思いサンドイッチを食べるとそれはとっても甘かった。
そして、王都から勇者を騎士たちが探しに来た。
「この村にゴブリンロードを倒した少年がいるはずだ。そのものが勇者であると予言があったのだ」
「はい、俺です。証拠をお見せしましょう」
そういうとフェインさんは剣を魔法に纏わせてみせる。すると騎士たちは歓声をあげる。
そして、彼は勇者として王都にいくことになり……私も無理をいってついてこさせてもらった。
そして、私は知る、彼が寝ることはないと……一度ちゃんと寝てくださいといったらそれ以降はポーションを買い込んで訓練しているようだった。
その姿を見るたびに……まるで兄のように勇者っぽくふるまうたびに私は胸が苦しくなっていく。
だから、シグルトが勇者に選ばれたといってきたときに彼の提案に乗ったのだ。彼を勇者という宿命から逃すため……そして、私は彼に彼の幸せをつかんでもらうために、兄のふりをして旅をすることにしたのだった。
「フェインさん……あなたはわたしが守りますから……」
これまでの旅路を振り返りながら私は宿屋で再び仮面をつける。私は別にあの人と結ばれなくてもいい……私たちのために死ぬほど頑張った彼が幸せになることを祈るのだった。
★★★
そして、回想はおわり現代へと戻る。
「エルフの里ですか? 今はやめたほうがいいですよ。魔族の襲撃にあって壊滅したらしいです」
「は? うそでしょ!?」
「魔族の脅威がここまで来ているというのか……だが、エルフは強力な魔法と弓の技術を持っているんだぞ」
人とエルフの町の境に来た俺たちが知ったのは衝撃の事実だった。とはいえ、俺とジークがともに驚いてこそいるもののその理由は違う。
だって、俺が倒した七大罪は一人、まだシナリオははじまったばかりなのだ、なのに攻め入られているなんて本来はならばありえないことなんだから。
★★★
主人公とヒロインはどうなるのか……
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