第4話 テレジアとフェインとジーク1(テレジア視点)

 多分、これは初恋だったのだと思う。兄がいきなり連れてきた同世代の男の子に驚いたのをまだ覚えている。


「おう、テレジア。こいつは俺の友達のフェインだ。仲良くしてやってくれ」

「わぁ、君がテレジアちゃんか!! 小さいころから美人さんなんだね。さすがメインキャラ!!」


 メインキャラとか彼が何を言っているかはわからなかったけれど、美人って言われてちょっとだけうれしかったのは秘密だ。


「俺はフェインっていうんだ。お父さんとお母さんは冒険者だったんだけど、引退することになってこの村ですごすことになったんだ。よろしくね」

「よろしくお願いします。テレジアっていいます」

「はは、緊張してやんの? ませてんなぁ」



 くだらないことを言う兄を睨んでいると、フェインがよく挨拶できたねと私より少し大きな手で頭をなでてくれたのがとてもうれしかった。



「今日はフェインと冒険者ごっこしてくる」

「待って。えー、フェインお兄ちゃんも行くなら私もついていくーー!! 」

「しかたねーな。俺たちの足を引っ張るんじゃねーぞ」

「そんなこと言わないの。テレジアちゃんもいこっか」



 それから兄とフェインは同世代なこともあってかすぐに仲良くなったものだった。寂しくなってついていくと、言うと決まって兄は迷惑そうな顔をするが、フェインは私の手を握って連れて行ってくれるのだ。



「じゃあ、ジークとテレジアちゃんは魔法の練習だ」

「ええー、剣にしようぜ。魔法とか面倒くさいんだよな」

「もう……ジークは勇者になるんだろ? 勇者は魔法も剣も使えないといけないんだよ」


 フェインは外から来たから色々なことを知っており、様々な物語を語ってくれた。兄はそれから勇者になりたいと言い始めるようになり、彼は剣術はもちろん、魔法を教えてくれるようになった。

 私は……別に戦いとか興味なかったけど、彼と一緒にいられるからと魔法を習っていた。


「すごいね……もう、初歩的な治癒魔法が使えるんだ」

「えへへ、私頑張ったんだよ。フェインお兄ちゃん褒めて」

「テレジアちゃんはえらいなぁ。いつかさ、その力でジークを助けてあげてね」


 私の頭を撫でながらそういうフェインの瞳は少し寂しそうだったのをまだ覚えている。なんでだろう? と不思議におもったけど、聞いたら悲しい気持ちになりそうだったから気づかないふりをした。


 そして、数年がたって、私は十一歳に、兄とフェインは十三歳になった。


「おお……テレジアちゃん。ありがとう。おかげで楽になったよ」

「いえいえ、気にしないでください。フェインさんにはいつもお世話になってますから……」



 私は治癒魔法がある程度つかえることになったこともあり、村のけが人の治療をしていた。今もフェインの母親の治療をしていたところだ。

 フェインの母親は元冒険者ということもあり、村の警護をしているのでよくけがをしているのでよく話すようになったのだ。



「ふふ、本当にいい子だねぇ。よかったらうちのフェインをもらってあげてくれないかい?」

「え……あの……その……」



 冗談だというのに顔が真っ赤になっていくのがわかる。最初にであったときよりも少し大人になった私は自分の胸にある感情が恋だと自覚していた。

 ましてや、同い年の子供は三人しかいない。そうなると必然的にフェインと結ばれるんじゃないかという話がそこらかしこで言われるようになってきて……


「私なんかでよければフェインさんを一生支えたいです……」

「おや……あの子も隅に置けないねぇ……よかったらうちの味でも勉強していくかい? あの子は辛いものが大好きなんだ」

「はい、フェインさんにお弁当を作ってあげたいです!!」


 そんなやりとりをして、彼の家に遊びに行くようになり、兄にからかわれたりしたり、なのにフェインには気持ちは全然つうじなかったけど、楽しい日々をすごしたものだ。

 そして、ターニングポイントがやってくる。


 その日は私がフェインにお弁当を作って渡そうと思った日だった。母に頼んでお化粧して少しでも大人っぽくみてもらおうとしながら、二人がいつも訓練をしている広場へと向かう。


「はっはっは、どうした。フェイン!! そんなんじゃ俺の冒険についてこれないぞ」

「く? 剣だけじゃなくて魔法もすっかり上達して……!!」


 木剣を持った兄とフェインが戦っている。だけど、昔は兄を圧倒していたフェインは完全に兄に後れを取っているのが素人目にも見えた。


「ははは、そして、これが俺の必殺技 人呼んでジークスペシャル!!」

「な!? 魔法剣だって!! 中盤で習得するはずなのに……」


 兄の剣に炎が宿ったかと思うとそのままフェインに斬りかかっていき……



「結界よ!! わが友を守らん」


 不可視の結界がはフェインさんにあたりそうだった兄の木剣をはじく。よかった……間に合った。



「テレジア。いいところだったのに……」

「もう、お兄ちゃん、危ないでしょ!! 光弾!!」

「ぎゃぁぁぁ、めがぁぁぁ!!」

「大丈夫ですか、フェインさん。うちの兄がごめんなさい」



 文句を言う兄に光の玉をはなって黙らせからフェインにさんに駆け寄って、しりもちをついてる彼の手を取って立ち上がってもらう。

 触れ合った手から熱くなってくるのはきのせいではないだろう。


「ありがとう、テレジアちゃんもすごいね。あはは、二人ともすごいなぁ……俺じゃあもうかなわないや」


 苦笑しながらフェインが兄に笑いかける。



「それで今のはどうやったの?」

「あー、なんか昨日寝てたら変な夢見てさ、そいつに教わったらできたんだ。しかもそいつは俺のことを勇者とか言ってたんだぜ」

「なっ」


 兄がよくわからないことを言うものだから、フェインは目を丸くしている。



「へぇー……ジークは本当に勇者に選ばれたのかもしれないね。今のは勇者スキルの一つ『魔法剣』だよ。常人だと魔法と剣術の調整にすっごい苦戦するすごい技なんだ。テレジアちゃんの神聖魔法も上達しているし、これなら世界を救う旅にも出れるんじゃない?」

「もう、何をいってるんですか。フェインさんの教えがよかったからですよ。それに……私はこの村からでるつもりはありませんから」


 顔を赤らめながら彼を見つめる。遠まわしすぎて気づいてはもらえないと思うけど、ずっとあなたと一緒にいたいとつたえるだけで胸がバクバクしてしまう。

 ところが邪魔者が入ってしまう。



「何を言っているんだ。フェインには勇者となった俺を背中から支えてもらうんだだ!! だから、もっと強くなってもらわなければ困るぞ」

「何を言っているんですか!! 旅ならば勝手にいってください、フェインさんはこの村で過ごすんです。ですよね?」

「え、いや、俺はしばらくしたら一人旅にでもいこうと思っているんだけど……」

「「え?」」


 私と兄が同時に間の抜けた声をあげたのも無理はないだろう。だって、なんだかんだ彼とはずっと一緒に入れると思っていたのだ。


「だったら、私はフェインさんの旅について行きます!! 足はひっぱりません!!」

「いやでも……テレジアちゃんはジークといったほうがいいよ。すごい才能があるんだからさ。聖女にだってなれるかもしれない。兄妹で勇者と聖女とかすごくない?」

「ですが……」


 私はあなたと一緒にいたいのだと涙をこらえながら伝えようとすると馬鹿が余計なことを言う。



「あ、お前、エルフの里に行くつもりだろ。この前もエルフとイチャイチャする本を行商人から買ってたもんな」

「ちょっと、テレジアちゃんの前で何を言ってるの!!」


 その言葉に涙はすっかり消えて胸の中でもやもやがあふれ出してきてしまう。



「……そうなんですか、フェインさんはエルフが好みなんですか?」

「あのテレジアちゃん……なんかむっちゃ怖いんだけど……」



 思わずほほを膨らまして睨んでいると、フェインさんが困ったとばかりにほほをかくのをみてることしかできない。


「よし、なら名案があるぞ。だったら、俺たち三人で旅に出てエルフの里も行こうぜ。決まりな!!」

「え、でも俺は……」

「頼むぜ。お前がいないと俺はダメなんだって。だから、勇者を支える影の英雄になってくれよ」

「そうですよ、私だけにお兄ちゃんのお世話をおしつけるのはずるいです。それにもしもお兄ちゃんが勇者で私が聖女になれたらそれはフェインさんのおかげです。だから影の英雄って似合っていると思います」

「影の英雄か……ふふ、そうだね。勇者になれないけどそっちも悪くはないか」



 フェインさんは何がつぼにはいったのか嬉しそうに笑う。それと同時にほっとする。まだ彼と一緒にいれるのだ。それと同時に思う。エルフみたいに耳を長くする魔法がないか探してみようと……

 そんなことを想っていると、兄がにやにやとしながら、こちらを見つめているのに気づく。


「なんですか?」

「いや、一緒にいる時間を増やしてやったんだ。頑張れよ」

「なっ!!」


 兄の言わんとすることがわかり私は顔を真っ赤にあからめる。まさか鈍感な彼にまで自分の気持ちがばれていたなんて……

 もしかして、フェインさんにも……と思ってしまいごまかすように声を張り上げる。


「その……お弁当を作ってきたんです。一緒に食べましょう!!」

「ありがとー。俺の好物ばっかりだ。うれしいな。これとかちょうどいい辛さだね」

「おー、甲斐甲斐しいねぇ。わが妹は」

「もう、ジーク兄さんの分はいりませんね!!」

「フェイン君、大変だ!!」


 そんなふうに騒いでいた時だった。近所のおじさんがすごい勢いでこちらにむかってやってきたのだ。 

 彼は呼吸を整えるとこういったのだ。



「ゴブリンたちがちかくまでやってきて……それを倒そうとした君のお父さんが……」

「え……」


 フェインが絶句するのをみていることしかできなかった。

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