第1話 外の世界は不思議でいっぱい

僕はうたた寝から起きると当てもなく移動を始めた。


「やっぱずっとこの格好は変態だよ。」


移動しながら気になるのはこの格好。

ないものねだりをしても仕方ないのは分かっているけど、こんな格好の奴が森林の中を彷徨いているのは他の人から見ればただの変態野郎だろう。知らない事を知りたいがそう言うのは求めていない。我ながら贅沢な悩みである。


「服ってどうやって手に入れるの?」


こんな場所にお店がある訳ないし、あっても通貨を持っていないから買えないし、あれ?詰んでない?


「色をつけるとかいいから服をつけて欲しかった…。」


それから数日森林の中を徘徊し続けていると、凄いむさ苦しそうなムキムキ達が馬車?を襲っている所に辿り着いた。


「怖っ!外の世界ってこんなんばっかなの?見なかった事にして回れ右しよ。」


僕はただの人間かそれ以下である。あんな棍棒持ったムキムキに立ち向かった所で死体が一つ増えるだけ。馬車の人には悪いが僕は正義の味方では無いし、見捨てさせてもらう。

そう思って踵を返そうとした時突如として突風が吹き、1人のムキムキの鋭い眼光がこちらに突き刺さる。


「あ…。」


到底人の顔とは思えないモノと2、3秒見つめ合うと何か喚き出し、明らかにこちらに標的を移した。残る2人もこちらに視線を向ける。


「やばいやばいやばい!!!でも足が竦んで動けない…。」


ムキムキがこちらに近づこうと方向を変え足を出したその瞬間突如としてムキムキが後ろに倒れる。


「もしかして大道芸って奴だったの?」


木々が生い茂る森林の中とは言えそこまで足元は悪く無い。躓いて転んだとしたら前に倒れる筈だし後ろに倒れる様な状況ではない。

困惑しながら眺めていると次は別のムキムキが奇声を上げてこっちに足を進めるが前に思いっきり倒れ顔面を強打する。


「うわー、転んだ事ないけど知ってる。今のは絶対痛い奴。死んでないよね?」


流石に目の前で死人が出るのは目覚めが悪い。それが大道芸人だったのなら尚更だ。僕を楽しませるためだけに命を賭けるなど狂気の沙汰だ。


「うーん、最後の一人が凄い困惑した顔でこっち睨みつけてくるんだけど、大道芸ってここまでやるモノなの?普通に子どもが見たら泣いちゃう気がするよ。僕も泣きそうだし。」


ムキムキが近づいてこようとする時の迫力凄いし、顔も凄いし、睨みつけてる顔なんて岩ぐらいなら粉砕出来そうなぐらい鋭い眼光を放っている。


「え?2人を抱えて走ってく?撤収?」


僕が困惑していると馬車の従者か護衛である重そうな鎧をつけた眼帯の白髪ショートの女の人がこっちに距離を詰める。


「今度は何?お客さん同士で感想とか言うのかな?大道芸ってそんな感じなの?」


僕は病院の一室から一度も出たことも誰かと会話をしたこともないため、こう言う交流の時どう反応すべきか全く分からない。

と言うか僕自身がちゃんと言葉を発音出来ているのかも分からない。僕は看護師や医師の口の動きとジェスチャーから発音と意味を予測し覚えたため合ってる自信がない。


「助けていただき本当っにありがとうございます!!」


「どういたしまして?僕、何もやってないけど。」


「いえとんだもない。ドリアード森林の大精霊さんがいなかったら私が護衛していた商人と商品はケルベロス地獄の番犬にやられる所でした。」


「そうなの?本当に僕は何もしてないんだけどなぁ。」


実際僕はただ見ていただけである。

と言うかドリアードやらケルベロスやらって何?なんか物騒な意味?


「その、私事で申し訳ないのですが雇用主が是非ドリアード森林の大精霊さんにお礼をしたいとの事で、何か欲しいものとかありますか?」


「何がくれるなら服ちょうだい。」


「そのぐらいなら今すぐにでも用意できると思います。雇用主は男ですから私が伝え持ってきますね。少し待っててください。」


「うん。」


暫く待っていると女の人が服を持って走ってきた。


「どうぞ。少し大きいかもしれません。」


「別にいいよ。」


僕は渡された服に袖を通し身に纏う。確かに少し大きいが都合いいサイズが持ち合わせにあるなんて期待していないし衣服を身に纏えただけ運が良かったと思う。

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