名前
「いやーいろいろ食べたねえ」
「そだね~」
あれからも俺たちは有名なお菓子やスイーツ、料理などを色々食べた。
まあ、さすがに一般胃袋の俺ではすべてを食べれないので天野のやつを分けてもらって少し食べるという形でやっていた。
……あーんはあれ以降恥ずかしかったのでやっていません。
えっと……? 何件回ったんだろう? 天野があまりに食べるもんだから試食も含めて20店舗ぐらいか? ん~我ながら食べ過ぎだな。
「ん~満腹~」
「……まあ、天野が満足そうならそれでいいよ」
「……神楽は楽しかった~?」
「そりゃもちろん、お前と一緒なら何しても楽しいよ」
「…ふ~ん」
「……え、ちょ、待っ…」
なぜか、天野は俺の言葉を聞いたとたんに歩く速度を上げて、すたすたと先に行ってしまう。
またもどこか不機嫌な様子で、こっちを見ることなく行ってしまい、俺はその後を追いかけるしかない。
だが、意外と運動神経のいい天野の速度は思ったよりも早く、満腹であまり思いっきり動けない俺との距離はどんどん離れてゆく。
「ちょ、どこ行くんだよ! …なんかまた気の触ること言ったか!? なら、謝るから!! いやほんとに、おなか一杯過ぎてあんま動けないんだよ今!!」
「……」
駄目だこいつなんも返事しねえ。
……やばい、このままだと、せっかくのデートが台無しになっちまう。な、何とか引き止めねば!!
……え~と、こういう時は気の利いたことを…、えーと、えーと…
しかし、そうして言葉を考えている間のも俺たちの距離は遠くなっていく。
このまま嫌われてしまったらどうしよう、と焦りの感情はどんどん大きくなる。
だが、その焦りもあって頭が回らずどうしたらいいのかどんどんわからなくなってしまう。
「……お願いだから止まってよ!! 由衣!!」
「……ッ!?」
苦し紛れで、出たのは止まってというなんの工夫もない言葉。
こんなもので、彼女が止まってくれるはずがない…のに、彼女はどういうわけか。
その場で足を止めた。
すると、こちらを振り返りさっきとは逆に俺の鼻の先まで近寄ってきた。
ただ彼女は下を向いているため、顔を見ることはできない。
「…もう一回」
「……ん? なんて?」
「もう一回!!」
「え、いや……何を?」
「…な、名前……」
「……あ」
俺はそこでようやく、さっき自分が無意識に言ったことを自覚する。
それにより、俺の顔は一気に真っ赤になり、思わずすこし彼女を話すように押してしまう。
「……あ、…み、見ないで…?」
驚いた彼女が一瞬こちらを見たため、俺は彼女の顔が目に入った。
そんな彼女の顔は、今まで見たこともないぐらい紅潮していて目には若干涙が浮かんでいる。
「……ご、ごめ」
「……じゃあ、呼んでくれる?」
「……そ、それは…あ、ほらお前もまだ俺のこと名前で呼んでないだろ」
「……大輝。これでいい?」
「……!?」
絶句した。ほんとに呼んでくれるとは思っていなかったのもあって、名前を呼ばれたという事実をノーガードでぶつけられた。
ただでさえ、はずかしくて真っ赤だった俺の顔はより熱を持ち、今すぐにでも逃げたいという気持ちに駆られる。
いや、以前の俺なら間違えなく逃げていた。
でも、今は告白する前、ヘタレすぎてもはやヘタレがあだ名になっていたころとは違う、言われたのなら俺は答えなければならない。
勇気を出せ!! カップルらしいことをするって決めたじゃないか!!
天野に……いや由衣が好きなら!! 言え!! 俺!!
「ゆ、ゆ……」
「……」
彼女は、熱くなっている顔を手で仰ぎながらも俺の目を見て言葉を待っている。
……そういえば、告白するときもこんな感じだったっけ? 最後の一歩を彼女の目が促してくれて……
「……はは、やっぱり俺には必要だわ。由衣」
「……うん」
名前を声に出すのはやっぱり恥ずかしくて、熱はすごいし、鼓動は止まらなかったけど、そう呼べたのはなんかうれしかった。
この後、手もつないでゆっくり今度はいろんなところを歩いて回った。
もちろん、名前で呼び合って。
……二人の顔はずっと少し赤かった。
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