食べ歩きツアー
「よーし、商店街に来たな」
「そだね~」
二人とも早く来てしまった以上、そこで待つのもあれなので俺たちはあのあとそのままだいぶ早い商店街にやってきた。
まだ朝早い商店街は少しだけ静かで、シャッターが閉まっており開店していない店も多く見受けられる。
けれど、それでもあらゆるところからいい匂いが漂ってきて、食欲を刺激する。
「…あ~おなかすいた~」
「…神楽にしては珍しい~ね~」
「まあ、朝ご飯抜いてきてるからな。」
「なるほど~」
そうでもしないと一日戦える気がしなかったからな…。とはいえ、さすがに腹は減ったな。
「この時間帯にやってるやつは…っとあそこか。」
「お~おいしそ~」
記憶に従い開いている店のところに歩いてゆくと、奥から湯気を出しながら構える店があった。
こんな早い時間なのに、そこそこの人が並んでおり、それだけ人気店だとわかる。
「ここは~?」
「ここは、おにぎり屋さん。海鮮おにぎりが絶品で今みたいに朝からお客さんが多いんだって」
「なるほど~、確かにおいしそ~だね~」
「だろ?俺もまずはここに行きたかったんだよね。」
「それじゃ、ならぼ~」
「お~!」
***
「あいよ、海鮮おにぎり二個お待ち。」
「ありがとうございます。」
「わ~い」
あれから、おおよそ20分ほど待って俺たちは念願の海鮮おにぎりを手に入れた。
店の回転速度も結構なもなのにここまで待つとは、さすがの人気であると思った。
「さて、じゃあいただきましょうかね?」
「ごちそうさま~」
「…はっや!?」
俺がようやく買い終わり天野にも渡して、椅子に座ろうとしたらすでに天野はそのおにぎりを完食していた。
その速度、およそ10秒以下。…吸い込んだんか、我?
「ん~やっぱり海鮮とお米は合うね~」
「いや確かにそうだけど、いくら何でも早すぎません?」
「おいしかったからね~」
「…別にそれも限度があると思うよ。だって、俺まだ袋すら開けてないし。」
「神楽が遅いんだよ~、」
いや、確かに俺は少しゆっくりしたけども…
天野の速度を基準にすると、給食とか配膳10分で食事時間60秒とかになるぞ?
普通に考えておかしいだろそれは!?
…というか、いつももっとゆっくり食べるじゃん…。なんで今日に限って…
とまあ、そんなことを思ったのだがどうせマイペースなこいつに言っても意味がないのはわかりきっているのでその言葉はぐっとのどの奥に押し込んだ。
「…ったく、あんま早く食べ過ぎると早死にするぞ。」
「だいじょ~ぶい」
「まあ、お前なら…ってうま!!なんだこれ?」
多分問題ないか。という言葉を遮るように俺は思わず一口入れたおにぎりの感想を叫んでしまう。
だって、おいしかったから!!海鮮とお米と醤油が合いすぎて、思わず叫びたくなるぐらいだったから!!
「でしょ~」
「…なんで天野がどや顔なんですかね?」
「ん~なんとなく~?」
どや顔したり、とぼけたり忙しいやつだな。
まあ、そこがかわいいところではあるんだけど…。
…にしてもおにぎりうまいな!! なんだこれ!?
結局、天野程とは言わないもののペロリとそのおにぎりを完食してしまった俺は、その店が人気な理由を身をもって体感したのであった。
…また、行きたい。
***
「次どこ~?」
「次はスイーツのお店だな。」
「お~、スイーツ~!!」
スイーツという単語に天野が目を光らせ、見るからにテンションが上がる。
「ふふふ、でもそれだけじゃないんだぜ?天野さん」
「お~?」
「なんと、今日食べるのは期間限定!、個数限定!、ここでしか食べれない!、スペシャルスイーツだ!!」
「おお~!!」
「そう、その名も! 季節果物てんこ盛りパフェだ!!」
「おいしそ~!!」
興味の惹かれるワードの塊のそのスイーツを聞いて、二人ともテンションが爆増する。
「ああ、だから売切れる前に急ぐぞ!!」
「ご~!」
てなわけで、ハイテンションでやってきたのは全国でも数店舗しかない大人気スイーツ店「パフェテリア」略して「パア」。
なんでそこで略すのか、どうしてそこを選んだのかは置いといて、その店はおいしい果物を世界中から集め、絶妙に合う組み合わせを作っているのだ。
前に一度食べる機会があって、その時からあの絶妙な味が忘れられなくなってしまうほどである。
「……そして、これがその夏限定の究極パフェ!!」
「おお~、すご~い」
店に入り、窓際の席に二人で座っていたところに出されたのは、目的のパフェ。
それは、真ん中のアイスにスイカや梅などの季節の果物とともにかき氷やホイップクリーム、マンゴーのシロップがかけられており、夏にはピッタリなものとなっている。
「「いっただっきまーす!!」
一口目、スプーンにアイスとスイカたちを乗せて味わうそのパフェはまさに至高の味だった。
ほんとに食べたことのないぐらい甘いスイカとシロップ、アイスが相乗効果で味を引き出し、口がとろけるように甘く感じる。
「うま~」
どうやらそれは天野も同じようで、彼女も笑顔でそのパフェを味わっている。
そして、少し一人で味わった後、俺は第二の目標であるカップルらしいことをするというのをしようと決心する。
ほんとはおにぎりでもやりたかったのだが、あの時はあいつが食べるのが早すぎた。
「……なあ、天野」
「ん~?」
「あ、あの……ひ、ひと……」
しかし、いざやりたいことを声に出そうとすると、あまりの恥ずかしさに言葉が詰まってしまう。
……これだから、ヘタレって言われるんだよな……。
「…神楽~、ど~したの~?」
「あ、い、いや。あの……」
「……はっきり言ってくれないとわかんないよ~?」
「……………食べあいっこしない?」
いった~!!天野に促されたとは言え、ちゃんと言えた~!!
「……ん、いいよ~。はい、あ~ん」
「……じゃあ、いただきます」
スプーンで差し出された彼女が食べていたパフェを、勇気を出していただく。
「……じゃあ、俺のも」
「……いただきま~す。」
そして、彼女もパクっと俺のスプーンに乗っていたパフェを一口で食べる。
「…おいしいね」
「…そ~だね」
そう、感想を言って二人は無言で下を向きながら残りのパフェを食べ始めた。
自分の顔が赤くなっているのを自覚しながら、俺は彼女に食べさせてもらったパフェが一番甘かったと、そう思うのだった。
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