時間

 夕方、太陽が沈みかけ空が赤に染まる。

 水に沈むように楽しい時間は一瞬で終わってしまうもので、そろそろ解散の時間になった。


「……もう、解散の時間かあ」


「……だね~」


 時計は6時を指している。まだ学生で、交通とかもある以上、解散しないといろいろ面倒になってしまう頃合い。

 終わりが見えているという事実がとても悲しく感じてしまう。


「あ~帰りたくねえ、もっと由衣といたい」


「……!?」


「あ、やべ。声に出てた」


「……私も~、まだ、一緒にいた~い…よ?」


「……そうだな」


 今日一日でカップルらしくいようとやっていたおかげで、俺たちの距離をまた少し縮めることができた。

 というより、初心な二人がカップルを真似しようとして思いっきりアクセルを踏んだため、恥ずかしいという思いが超過して現在一時的に無敵の人みたいになっている。

 なので、意識してないと心の声駄々洩れだし、お互いにすごい素直になっている。

 後日、布団でもだえる自分の姿はもう容易に想像できる。


「……あ。もう着いちゃった。」


「ほんとだ~。時間ってあっという間なんだね~」


 言葉を交わしていると、気づいたら俺たちは今日出会った場所、つまり解散地点に戻ってきてしまった。

 もう、ここで由衣を見送ったらデートは終わりだ。


「……」


「……」


 無言の時間が続く、二人とも離れたくないという思いが大きくてまだ無意識に手をつなぎ続けてしまっている。


「由衣、お前の家ちょっと遠いだろ。帰宅ラッシュ来る前に帰りなよ」


「大輝こそ~、妹さんにご飯作ってあげないと~」


「「……………」」


 だめだ! このままだと、多分俺たち家に帰れない!!

 で、でもやっぱリまだ、別れたくはない……


 もういっそ、うちに泊まるか? ……いやいや、さすがにそれはいくら何でもまだ早い!! というか、普通に家に人が泊まれるものがねえ!! 

  

 さすがにお泊りはものを用意して、覚悟を決めてから……


「……ッ!!」


「……あ、まさかまた声漏れてた?」


由衣は口を押えたまま、コクコクと首を振る。やらかしが確定した。


「あ~いや。あのえっと……えっと!? そ、その、え~と? すいませんでした!!」


 よいごまかしも出てこず、結局俺は素直に謝るしかない。

 せっかくいい感じだったのに最後の最後でだいぶ危ない発言をしてしまった。


 こんな、願望だけしゃべるとか、いろいろ台無しもいいところだ。今日すでに2回も彼女は機嫌を悪くしてそっぽを向いてしまったというのに、何も学んじゃいない。

 わ、我ながらあほすぎて笑えねえよ……とほほ………。


「……大輝」


「……ん? どうした?」


「ちょっとこっち見て~」


「いいけ……ふぇ?」


 由衣に言われた通り、俺が彼女の方向を見た瞬間、ほっぺたにとてもやわらかい感触がした。

 その感覚がしたところをパッと手で押さえ、由衣を見た。

 そうした彼女の顔は今日で一番、夕日よりも赤く、その笑顔が美しかった。


「……ゆ、い?」


「大輝~、今日は本当に楽しかったよ~。……ほんとにね」


 彼女は棒立ちしたままの俺に向かってそういって、走って駅に行ってしまった。


 ……やっぱりもっと一緒にいたかったな。


二人の初デートはそうして夕焼けの長い影に刻まれたのだった。


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