第3話 初陣
「ちょっと! なんか加賀君は納得した雰囲気出してるけど、肝心なことをまだ聞いてない! 結局罪人って何なのよ! あたしたちがどうしてこんな――」
春が唇を震わせながらそう叫んだ瞬間、バランサーたちの背後で地響きが響いた。チッ、と石田が苛立たし気に舌打ちをした。
「残念だがおべんきょうタイムはここまでだ。新手が来やがった」
振り向くと、そこには新たなラルヴァ――本来ならばこの時代にはいないはずの、中生代の覇者たちが姿を現していた。
先ほど屠った者たちと同型の、数十体のヴェロキラプトル。そして全長五メートル、唸り声だけで周囲の空気を震わす白亜紀の王者、ティラノサウルス・レックス。翼をはためかせ空を飛び交うのは二羽のプテラノドンだ。
「……あれが元々は人間の魂だったって?」
「言いてえことはわかる。だが俺に言われたって困る」
今はそれをひたすらに行使したい。邪魔する者は、許さない。そんな殺意をむき出しにして襲い来る、人の魂の成れの果て。
しかし、厄介そうな個体が登場してもバランサーたちは冷静だった。
「でかいのは俺がいただきます、っと! さっさと
関本がそう言うが早いか、ティラノサウルスの方に駆けだしていく。石田は「あっ、あの野郎……!」と離れていく金髪を見ながら舌打ちした。
「減刑に目がくらんでやがるな……あのバカが」
「ミオリはいつも通りアヤと一緒に援護に回って減刑稼ぐね。石田サンは新人付いててくれる? 補助輪必要っしょ」
「おいおい、俺に新人のお守りを押し付けて自分は点数稼ぎかよ……!」
悪態をつく石田だったが、美織はそれを無視して彩子に「ほら、行こ」と声をかけて駆けだしていく。石田は苛立ちを隠そうともせず溜息を吐くと、背負っていた黒い狙撃銃を構えた。
「そういえばその武器はさっきレイメイが出してくれた奴の中には入ってなかったよな?」
狙撃銃を見て慎が尋ねると、石田はスコープを覗いたまま言った。
「コイツは初心者向けじゃねえから出さなかったんだろ。――バランサー支給長距離型霊銃“メメント”。まあ見とけ」
その刹那、赤いラインが入った銃身のその先から、破裂音と共に火花が散った。
放たれたのは、青い光を纏った銀の弾丸。それはヴェロキラプトルの頭を容易く貫通し、その後ろのショーウィンドウに風穴を空け、しまいには中のマネキンを薙ぎ倒していった。
その様子を見ていた春が、呆然と呟く。
「すっごい威力……」
「そら、来るぞ!」
脅威となる存在に気づいた五体のヴェロキラプトルが、こちらに猛然と走り出した。
「っ、ううっ……!」
春は咄嗟にパラベラムを構えたが、明らかに体が震えている。
石田は間髪入れずに狙いを定め、二匹のラプトルの脳天を吹き飛ばす。だが、取り回しが悪いメメントでは、彼らの疾駆が終わるまでに全員を倒しきるのは難しい。
石田はメメントを下ろし、懐からパラベラムを抜いた。
「新入り、援護いけるか!」
「ええ」
慎は冷静にそう返し――眼前に迫ったラプトルの顔目がけ、両手で霊刀を振り抜いた。
映画や漫画で見たことのある動きをそのままトレースしただけの、文字通り見様見真似の一太刀。それでも、風を切る音が響くほどの速さで放たれたその一撃は、ラプトルの上顎をすっぱりと両断してのけた。
びちゃり、とラプトルの頭の上半分がアスファルトに落ちて紅い花を咲かせた。
残るは二匹。慎が間髪入れずに振り向くと、石田が一匹のラプトルの頭に至近距離で弾丸を撃ちこみ、残るもう一匹を殴って怯ませているところだった。
体重十キロを超えるラプトルを殴っただけでよろめかせるとは。身体能力を底上げするというミソギの効果もあるのだろうが、凄まじい膂力だ。
「新入りィ、やれ!」
「ええ」
慎は躊躇なく、手にしたハライをふらついているラプトルの首に振り下ろした。
*
「おお、やるじゃんあの新入り」
「あっ、アタシだってあれぐらいやれます……!」
「昔のアヤだったら無理っしょー。まあ、初戦であんだけ動けるあいつが凄いんだけどさ」
美織と彩子がそれぞれそんな会話をしているところに、三匹のラプトルが突進してきた。美織は背中に背負ったハライを抜き放ち、背後の彩子に問いかける。
「やるよ、アヤ」
頷いた彩子がカーディガンの下から取り出したのは、黒光りする拳銃――パラベラムだ。
始まりは、彩子の銃撃。だが頭を狙ったその射撃は、分厚い頭蓋骨に弾かれ大したダメージにならない。彩子は「ああもう!」とやむなく足の関節部分に狙いを定めた。
二頭が足を撃ち抜かれてアスファルトに横倒しになるのと同時に、彩子がリロードに入る。それを見計らい、ハライを構えた美織が第二の弾丸のごとく前に飛び出した。
無傷で迫ってきた一体のラプトルをすれ違いざまに斬殺し、起き上がろうとしている二匹の首を瞬く間に斬り落とす。
美織はラルヴァの血に塗れたハライを振って血を切ると、彩子にぐっとサムズアップ。
「ナイス、アヤ。やっぱミオリたちは最強だね」
「は、はい! みおりんとアタシがいれば、無敵です……!」
そう頷く彩子の表情にまざる罪悪感を――美織はまた、見なかったことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます