ファイルNo.021 亡者 003

 私がようになった要因を私自身知らない。物心ついたときにはすでに見えてたし、それが悪意を持ってるのも知ってた。だから極力関わらないように生活せてきたんだけど、過去に一回だけミスを犯した。その時のことはとてつもない恐怖があったんだと、漠然としか覚えてない。

 見えるだけだったのに気が付けば左目は万華鏡を覗き込んだように映るようになっていて、右目との差が気持ち悪く左目を隠した。すると見えていたものたちが見えないことに気が付き左目を使わない生活が始まった。

 万華鏡のように見える世界は、これまで見えなかった一般人の感情から性格、背後霊や動物霊までもがはっきりと見えるようになった。過去に犯したミスの恐怖心から人に言ったことは一度もない。

「その左目で私を見てくれないか?」

 どこから知ったのかは知らない。だが、目の前のセーラ服を着た少女は私が見えることを知っている。背筋を伝う恐怖から「嫌だ」と断ればいいものを、中卒で働きに出なければならないという現状を変えてくれるのではないか、というわずかな期待を感じた。霊感ではない私の直感。私は意を決して左目の眼帯を外して彼女を見た。

「……う、嘘」

 知らない間に声が漏れていた。

 少女を映した左目は普通に見えていた。

 灰色の空に灰色の町。

 私が絶望しながら見ていた世界がそこにあった。

 私は驚いて後ろを振り返った。

 すると、世界は万華鏡を覗き込んだようにカシャカシャと反射に反射を重ね、そして黒いオーラをまとったこの世のものではないものが……迫ってきている!?

 多分あれはやばいタイプのやつ……急いで逃げなきゃ……恐怖で動けない……

 私が恐怖で固まっていると、ゆっくりと迫ってきたそれはセーラー服の少女を見ると表情を曇らせて踵を返した。これまでこんなことは一度もなかったはずなのに……

「それで、私には何が見えた?」

 少女は面白そうに言った。

 その言葉に我に返って今の出来事をそのまま伝えた。

「━━それでヤバいのは元来た道を帰っていきました」

 少女は腕を組み、目を閉じてふっふっふと自信満々に笑う。

「しっかり見えてるんだな。疑って悪かった。櫻後輩、君に話がある。だが、立ち話はなんだから、少しついてきてくれ」

 くるりと振り返って私の意見なんて聞かずに歩き出した。

「先輩、僕にはさっぱりなんですが……説明してくださいよ」

 青年も歩いていく。

 その場に取り残されるわけにもいかず、セーラー服の少女についていくことにした。

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如月学園夜間定時制オカルト研究部 鷺 四郎 @shiro-sagi

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