ファイルNo.021 亡者 002

 中学校からの帰路を呆然と歩いていた。

 灰色の空に灰色の町。見るもの全てが灰色に映る。

 まるでこれからの人生を暗示しているみたいに……

 これからの人生、というには少し間違ってるかも。急に車道に飛び出して私の人生を終わらせるのも一つの人生になるし、家出をしてホームレスとして生きていくのも一つの人生だと思う。そんな勇気はないけど……

 流れに身を任せて生活していれば、高校に進学して、多分専門学校に行って資格を取って、就職して、良い人と出会って結婚して、子供が生まれて、孫の顔を見る老後が待ってる……って思ってた。

 まさか高校に進学すらできないなんて。

「春に始めた両親の事業が失敗して借金だけが残り、中学卒業と同時に働くことになって絶望している少女って貴女?」

 急に後ろから声を掛けられて私は狼狽えた。これまで借金の取り立ては両親にしか来なかったはずなのに……ついに私のところまで来てしまったのか。走って逃げてもいいけど、家はバレてるし、そもそも逃げ場なんてないし……。

 少し立ち止まって考えてみたけど、観念して振りかえることにした。

 そこには、いかにも夜働いてそうな女性……ではなく、黒のセーラー服を着ている高校生? が立っていた。なぜ疑問形なのかというと、身長が……低い。私の頭半分くらい小さい。その横には十一月も半ばだというのに半袖カッターシャツの糸目の青年もいる。情報過多でフリーズしてしまった。

「先輩、急にそんなこと聞いて違ったらどうするんですか? その子だって状況がつかめずに固まってますし……」

 先輩と呼ばれた女子高生はふっふっふと目を閉じて自信満々に笑って答えた。

「私が間違うはずないのだよ。これまでも私の選択に間違いはあったかい伊織後輩? と言う訳で、君が佐倉井櫻だ。春に始めた両親の事業の失敗で借金だけが残り、中学卒業とともに働くことになってしまった、かわいそうな少女」

 あまり大声で言わないでほしい。はずかしいから……

「そしてその左目の眼帯の下。んだってね。君の身長体重視力に聴力、好きな食べ物、嫌いな食べ物、スリーサイズまで調べてきたけれども、っていう情報は私の伝手では分からなかった。誰にも話してないんだろう。本当にのかな? どうしてもそこだけが知りたい。気になって夜も眠れない。おかげでここ二週間ばかり不眠だよ。ということで櫻後輩、その左目で私を見てくれないか?」

 自信満々に笑うセーラー服の少女。

 私に拒否権はない、といった表情。

 私は左目の眼帯を外してセーラー服の少女を恐る恐る見た。

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