第3話 結界魔法(バリア・マギア)
眠った腕の拳を握りしめ、顔を上げる。
そして、目を見開いた。
私の視界に飛び込んできたのは、数体の動物だった。ウサギやネズミと、どれも小動物。
だが、よく見たらサイズが異常に大きい!
それが、肉を目の前にしたライオンのように、こちらに一歩一歩近づいてきている。
周りは、すでに逃げる態勢に入っていた。
「逃げるぞ! 室崎も!」
佐野が叫ぶのを聞いて、私は起き上がり、振り返る。
「だめ……。足が……」
室崎はその場にへたり込んでいた。
当の私も、マギアの負荷と恐怖で、体が全く動かない。
「なんやなんやなんや……。なんやあのウサギ……。うせやろ……?」
隣からは、力の抜けた声が聞こえてくる。
「ほら! 私に続け!」
この状況で、照宮はすでに走り出していた。
そして、室崎は佐野におんぶされる。
「えぇ!? 佐野さん!?」
「非常事態!」
佐野の言葉に、私はハッと我に返った。
「そうだ……! 非常事態だ……! 逃げなきゃ……」
逃げなきゃ、死ぬ……!
私は一気に立ち上がり、その場から走り去ろうと上半身を落とす。
だが、あることに気が付き、 ”そちら”の方をを見た。
「ウサギ……? いや、ネズミも……? なんやなんやあれ……」
柳田は、さっきから猛獣たちを前に座り込んだまま、ブツブツと呟いていた。
「柳田さんと……アリカさんも逃げて! キャッ!」
「おい離れるぞ! 追いつかれる!」
「で、でも、まだ柳田さんと鮪岬さんが……! あ、崩れる!」
二人の声に振り返った頃には、
「し、しまった……!」
前方には猛獣。もたもたしてる間に、逃げ道を塞がれてしまった。
そうだ、佐野と室崎は大丈夫だろうか。落ちてきた瓦礫に巻き込まれていたら、ただでは──
「私はカメかカメなら勝てるかそれとも猫か猫なら勝てるか……」
この状況でも、柳田は呆然と座り込んだままだ。
「ミコト!」
ついに、私はその名を叫び、肩を掴んだ。
「触んなァ!」
だが、物凄い剣幕で払いのけられる。
ぽかんとする私に、柳田は殺気立った目を向ける。
「お前ごときに助けられたくねぇんだよこっちは!」
「……ミコト?」
非常事態に何を言ってるの……?
「どんくせぇ、近寄んな!」
ミコトの横暴な態度には、さすがにイラッときた。
助かりたくないの……?
「あーもういい、それなら、バイバイ」
もうどうでもいいと思い、私はその場を瓦礫を迂回するため、その場を走り去った。
「さーて……。私のマギアでこんなやつらちょちょいのちょいよ!」
柳田は無理矢理に取り戻した元気と自信で、数体の巨大動物に向き合った。
その距離はかなり小さくなっていた。
獣たちがまた一歩踏み出した直後、指を構え──
「『
結果は明白だった。動物たちは電撃に少し怯んだものの、感電などでダメージを受けている様子はない。
それどころか、逆上したように甲高い鳴き声を上げ、一体の巨大ウサギが柳田に突進した。
「うぐぅ!」
突然のことで、避けようとする余裕もなかった。
ウサギに押し倒され、その顔面が目の前に迫る。
「ヒィッ……! た、た……!」
恐怖ですっかり戦意喪失した柳田。
「助けて!」
ただ、そう叫ぶしかない。
この恐怖から解き放たれるのなら。もう苦しまなくて済むのなら。──喜んで言う。
「──『
そう叫ぶと同時に、私は柳田を押し倒しているウサギに突っ込んだ。
予想通り、バリアに触れたウサギは甲高い悲鳴を上げ、飛び
「行き止まりだったから戻ってきただけ」
それだけ言い、私は柳田との共闘の姿勢に入る。
二人なら何とかできる、そう思っていた。
「そ、そうかい……。なら、とっとと逃げる私は!」
だが、そんな私の考えを無下にしたのは柳田で、背中を向けて逃げ出そうとしていた。
「信用してないの?」
私が
「当たり前や。こちとらさっきまでいじめてたんやぞ」
「非常事態! 今そーゆーのないから!」
私が大声を上げると、さすがにこちらに体を向けた。
「ひ……!?」
その困惑した表情は痛快だったが、今はそんなこと言っている場合ではない。
「お、お前、そんな大きな声だせたんか……」
おどおどする柳田に、私は面と向かって言う
「ミコト、こういうの適任でしょ……! やって……!」
それは、ただ”指示”をしたつもりだった。
サッカーの試合で、仲間にボールをパスするように。
シュートを任せるように。
「……あぁ?」
だが、その託した相手が──殺気立った。
「……お前、人を舐めるのもいい加減にせいよ」
何を言われているのか分からなかった。私は、ただ指示をしただけなのに。
混乱する私の腕を掴むと、柳田は私のスネに思いっ切り蹴りを入れた。
気がつけば、私のバリアは切れていたのだ。
その痛みに座り込む私を、柳田は相変わらず”軽蔑”の態度で見下していた。
「よし、これで貸し借りはなしや。元気でな」
そう言って、その場から走り去っていく。
「ちょ、ちょっと! 見捨てるの……?」
それどころか、こんなのただの
怯んでいた動物たちが、再び牙を向き始めてきた頃だった。
「こんな……こんなのって……!」
目の前の絶望的状況に、気がつけば涙ぐんでいた。
「死ぬ──!」
そして、目を閉じる。
ごめん、サキ。
こんなに丁寧に教えてくれてるのに、私は……
「──アリカ、ボールが来ても焦っちゃだめだよー! 腰落としてー」
ごめん、私……
「キーパー、やりたいんでしょ!」
でも……!
「ビビってちゃ、ボール取れないよー!」
ビビってちゃ、ボールは取れない……。
腰を落として、ボールを見て……
「勇気出して──!」
「──そっか……。向き合わないと、取れないんだった……」
目をゆっくりと開き、目の前の猛獣に向き合う。
今の”これ”──授業のサッカーの試合とは、わけが違う。
それでも、私のマギアは──
全てを、受け止める──!
サッと立ち上がり、すぐに腰を落とす。
突進してくるネズミに真正面から向き合い、目を合わせる。
そして──
「 『
視界を青膜が覆い、全てを受け止める姿勢に入る。
ついに、ネズミが私のバリアにぶち当たった。途端に、重さがのしかかる。私は足を踏ん張り、バリアを手で押し出す。まるで相撲をしているようだった。
「受けるなら、全力で受けろ……!」
人生一の汗を流しただろうか。人生一の声を上げただろうか。人生一の踏ん張りを出しただろうか。
私はネズミを押し
幸運にも、ネズミの後ろにいた獣たちは驚いたのか、その場から逃げ出していった。
「私が……?」
始めに出たのは、その言葉だった。
本当に私が、私の力で、敵を撃退した。
目の前には、仰向けになって気絶した巨大ネズミ。それは、死んだように固まっていた。いや、死んでいるのか。
「あれは……」
だが、それ以上に驚きの光景が目の前で起こった。
──人だ。
ネズミの口元がモゴモゴと動いたと思えば、その中から人が出てきたのだ。
「あれって……?」
女子。黒みがかった緑髪のおかっぱ。服装は、うちの制服だった。
遠くから見ているのに気がついたのか、少女はカッとこちらを見る。
その目は殺気で満ちているようにも──
口を開こうとした頃には、私は仰向けに倒れていた。
「……え?」
そんな私を見下ろし、少女は手を向けた。
「油断した。殺さなきゃ。手早く」
絶体絶命、再び──!?
バリア☆マギア狂騒記~結界魔法を極めに極めたJCの話 イズラ @izura
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