閉ざされたトンネル
京介は仕事帰り、いつものように帰宅途中の道を歩いていた。その日は少し遅くなり、辺りはすっかり暗くなっていた。自宅へ向かう途中、いつも通るトンネルを通るのが常だった。しかし、その日は何となくそのトンネルに足を踏み入れるのが憂鬱に感じられた。トンネルの中はいつもひんやりと冷たく、周囲に音が吸い込まれたように静まり返っていた。京介は特にその静けさが不気味に感じていた。
「なんだろう、今日はちょっと怖いな…」
その思いを振り払おうとしても、足が自然と重く感じられた。しかし、結局は普段通りにトンネルに入った。
トンネルの中に足を踏み入れると、突然、電灯がちらつき始めた。普段から明かりがあまり明るくないため、京介はそれほど気にしていなかったが、今日はそのちらつきが異常に長く続くように感じた。彼は不安な気持ちを感じながらも、足早に進んだ。
「おかしいな…」と心の中でつぶやきながらも、歩き続けた。トンネルの出口が見えるはずの距離に来たとき、京介は突然足を止めた。目の前の空間が歪んで見えるのだ。
それは、出口に向かうはずの道が、まるで輪廻のようにぐるぐると回り込んでいるように感じられた。数歩先がどんどん遠くなり、出口がまるで消えていくかのようだった。
「これ、なんだ…?」
京介は立ち尽くし、冷や汗をかきながら周囲を見渡した。だが、トンネルの中には何もない。急に背後で何かがガラガラと動く音が響いた。
「誰かいるのか…?」
その声をかけた瞬間、何かが京介の肩を軽く叩いた。振り返ると、誰もいない。ただ、空気が一瞬、凍りついたような感覚が広がっていた。
もう一度振り返ったとき、今度はそれが見えた。
トンネルの中に、人影が立っていた。
その人物は、顔がぼやけていて、何も見えない。ただ、黒い影が揺らめくように動いているだけだった。京介はその人物の前に立っていた。だが、心の中で何かが警鐘を鳴らしていた。それは恐怖そのものだった。
そして、その人影がゆっくりとこちらに歩き始めた。
「逃げろ…!」
京介は一気に駆け出した。しかし、何かに足を引っ張られたような感覚がし、身体が前に進まない。彼の目の前に現れたその影は、どんどん近づいてくる。何も見えないはずの顔がだんだんと近づき、京介は息を呑んだ。
影の顔には、無表情のまま細い目が二つ、冷たく彼を見つめていた。その目には何の感情もない。ただ、じっと京介を見ているだけだった。ついに京介の耳元で、低い声がささやいた。
「…もう、遅い。」
その言葉が耳に響いた瞬間、京介は頭が真っ白になり、足が動かなくなった。視界が暗くなる。
その後、京介が目を覚ましたとき、トンネルの中はすっかり静まり返っていた。目の前には何も見えない。ただ、トンネルの出口が遠くに見える。京介は気づいた。その出口が、まるで誘い込むように明るく輝いていることに。
京介はその出口に向かって歩き始めたが、少し進んだところでふと足を止めた。足元に何かが光っている。それは、彼が持っていたはずのスマートフォンだった。落ちていたのだ。彼はそのスマートフォンを手に取ると、画面が何故か自動的に点灯し、そこに映し出されたのは――自分の顔だった。
だが、その顔には不気味な微笑みが浮かんでいた。
「こ、これは…」
その時、背後でまた足音が響いた。振り返ると、影がまた近づいてきていた。
そして、その影が言った。
「もう、遅い。」
京介の周りの空間がゆっくりと歪み、彼は気づいた。トンネルの出口は、もはや彼が知っているものではなかった。永遠に続く闇の中に、彼は閉じ込められたのだ。
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3分で読める短編ホラー @ochamaru_1124
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