3分で読める短編ホラー

@ochamaru_1124

深夜の電話

深夜の静けさの中で、智也はベッドに横たわり、時計の秒針の音だけが響いていた。寝室は真っ暗で、外の風が窓を揺らす音が時折聞こえる。もうすぐ午前2時。仕事が忙しく、今日は疲れ切っていたので、すぐに眠りに落ちるはずだと思っていた。しかし、寝室に響いたのは、突然の電話の音だった。


智也は驚いて目を開け、ベッド脇に置かれたスマートフォンを手に取った。画面に表示されたのは、見慣れた名前――妻の「美穂」からだった。


「こんな時間に電話?」智也は不思議に思いながらも、すぐに通話ボタンを押した。


「もしもし、美穂?」智也は声をかけたが、返事はなかった。代わりに、電話の向こうからはただの息遣いだけが聞こえていた。その息遣いは、徐々に速く、荒くなっていく。


「美穂?」智也は少し焦りながら再度名前を呼んだ。しかし、返事は依然としてない。ただ息だけが、だんだんと激しくなり、ついには聞こえなくなった。


その瞬間、智也は背筋が凍りつくような感覚に襲われた。何かが違う。呼吸の音が消えた後、電話の向こうで聞こえてきたのは、かすかな声だった。


「…来ないで…」その声は、美穂のものとはまったく違った。どこか陰気で、不安定な響きがあった。


智也は急に冷や汗をかき、急いで電話を切ろうとした。だが、画面が反応しない。どうしても電話を切ることができない。


「助けて…」その声が再び耳に響く。智也は恐怖で動けなくなり、声を発することもできなかった。


そして、突然、電話が切れた。画面が真っ暗になり、智也は息を呑んだ。どうしても理解できなかった。電話が切れたことを確認し、急いで美穂に連絡を取ろうとしたが、彼女の携帯電話はすでにオフになっていた。


心臓が高鳴り、思わず部屋を見回す智也。その時、寝室のドアの隙間から、誰かがこっちを見ているような気配を感じた。目を凝らしてみると、暗闇の中に、ぼんやりとした人影が立っているのがわかった。


「美穂?」智也は恐る恐るその影に向かって声をかけた。


しかし、その影はただ静かに、じっと智也を見つめていた。


そして、再び携帯電話が鳴り始めた。智也は恐怖に震えながら画面を見る。


表示されたのは、美穂の名前ではなく、無機質な数字のみ。


「…来ないで…」その声は再び、今度は電話越しではなく、部屋の中で直接、智也の耳に響いた。


智也は振り返ると、部屋の隅に立っていた影が少しずつ近づいてきているのを見た。その影は、徐々に形を変え、見覚えのある顔へと変わっていった。しかし、それは美穂の顔ではなく、智也自身の顔だった。


その時、智也は理解した。


この電話は、もはや誰かが掛けてきたのではない。智也自身が、すでにどこかでその電話を受け取っていたのだ。


そして、智也が振り返ったその瞬間、影は完全に彼の背後に立ち、冷たい手で彼の肩に触れた。


「…来ないで…」

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