消えた足音
霧深い夜、翔太は一人で山道を歩いていた。大学から実家への帰り道だが、道路工事の影響で予定していたバスは運休になり、仕方なく夜道を歩くことにした。地元の山道は暗く、街灯も少なく、足元の不安を感じながらも、翔太は懐かしい道を進んでいた。
足元からは、静かな土の感触と木の枝が踏みつけられる音が聞こえてくる。しかし、それ以外は周囲は完全に静まり返っていた。風の音さえも感じられない。翔太はその静けさに少し不安を覚え、時計を見ると夜の10時を過ぎていた。
「こんな時間だし、誰かに会うこともないだろうな…」と、翔太は少し自分に言い聞かせるように呟く。
だが、次の瞬間、彼の足音が一瞬途切れた。何か、別の足音が聞こえてきたのだ。最初は、風のせいだろうと思ったが、その音は確実に翔太の歩くペースに合わせているようだった。
振り返ると、そこには誰もいない。しかし、足音は止まらず、しばらくの間、彼の後ろからぴったりとついてくる。その音は不自然に近く、翔太は少し動揺しながらも歩き続けた。
「誰か…いるのか?」翔太は声をかけてみるが、返事はない。だが、足音は依然として彼の後ろにぴったりとくっついてきていた。
その時、翔太はふと足元に何かを感じた。振り向くと、足元に小さな白い布切れが落ちていることに気づいた。それはどう見ても、誰かが持っていたもののようだ。翔太はその布を拾い上げ、胸にあてがってみると、ひんやりとした感触が背筋を冷たくした。
そして、彼がその布を見つめていると、背後から聞こえる足音が急に大きくなった。何かが近づいてくる。しかし振り向いても誰もいない。
その瞬間、翔太の耳元で、ささやき声が聞こえた。
「…一緒に…帰ろう…」
翔太は全身に鳥肌が立ち、急いで足を速めた。だが、その足音は更に加速し、ついには翔太が全力で走り出すのと同時に、足音もぴったりと後を追いかけてきた。
息を切らしながら、翔太は必死に走り続けたが、足音はますます迫ってきた。すぐ後ろでその足音が聞こえる。振り返ろうとするも、恐怖で首が動かない。
そして、突然、翔太は足を踏み外し、倒れ込んだ。背後からその足音が止まり、翔太はゆっくりと振り返った。
そこには誰もいなかった。
だが、彼が地面に手をついて立ち上がろうとしたその時、足元に何かが触れた。翔太は再び目を見開いた。
その足元にあったのは、何かの「足跡」だった。湿った土に深く刻まれたその足跡は、まるで彼が踏み込んだかのように彼の足の隣にぴったりと残っていた。
翔太はその場で震え、しばらく動けなかった。しばらくして、足元に落ちていた白い布を見つけ、それが何かを示唆しているような気がして、急いで手に取って、懐中電灯を照らしてみた。
そこには、布の裏に小さな赤い文字で書かれていた。
「この道を歩く者は、もう帰れない」
翔太は再び背後から足音が聞こえるのを感じ、息を呑んだ。だが、その足音は、今度は自分の足音だった。
それから翔太は、道を歩き続けた。足元の足音だけが、彼とともに鳴り響く。
そして、翔太の姿は、だんだんと霧の中に消えていった。
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