地下室の鍵
陽一は、都会の喧騒から逃れるため、郊外にある古びた一軒家に引っ越してきた。新しい生活を始めるには静かな場所がぴったりだと思っていたし、家の外観も雰囲気があり、落ち着ける場所だと感じていた。しかし、家に住み始めてから数週間後、陽一はある不気味な発見をすることになる。
家の一角に、どうしても使わなければならない地下室の扉があった。その扉は長い間封印されていたのか、表面には厚い埃が積もり、鍵もかかっていた。最初はそのまま気にせずに過ごしていたが、ある晩、陽一はその地下室に関する奇妙な夢を見た。
夢の中で、彼は地下室の扉を開けると、無数の足音が響き渡り、目の前に何かが迫ってくる感覚があった。その何かは、陽一に向かって言葉を発していたが、何を言っているのかは分からなかった。目を覚ましたとき、彼はその夢の異様さにしばらく胸が重くなるのを感じていた。
次の日、無意識のうちに地下室の扉に引き寄せられるような感覚があり、陽一は気になって鍵を探し始めた。結局、台所の引き出しに隠されていた鍵を見つけることができた。鍵は錆びついていて、まるで長い間使われていなかったようだった。
鍵を手に持つと、陽一の心臓は高鳴った。だが、好奇心に駆られて、ついに地下室の扉を開けることにした。
扉を開けると、薄暗い階段が広がり、地下室の奥には何もないように見えた。しかし、その空気はどこか異様で、時折冷たい風が吹き抜けるような感じがした。陽一は少し躊躇したが、やはり好奇心には勝てず、足を踏み入れた。
地下室に入ると、すぐに奇妙なことに気づいた。壁の一部に、何かが貼り付けられていた。それは、古びた手紙の束であり、手紙には読み取れないほどのひどい乱雑な文字が書かれていた。陽一はその手紙を引き抜き、内容を読んでみることにした。
「彼を放置しないでください。彼を求める者たちがいます。」
陽一は一瞬その言葉の意味が分からなかったが、次第に恐怖が湧き上がってきた。すると、地下室の隅からひときわ冷たい空気が流れ、何かが動いたような気配を感じた。振り返ると、目の前の壁に何かが映っていることに気づいた。
それは、誰かの顔だった。
顔はじっと陽一を見つめており、その目は人間のものとは思えないほど異常に大きく、口元が不自然に引きつっている。その顔はまるで壁から突き出しているかのように浮かび上がり、陽一の心臓は早鐘のように鳴り響いた。
「あなたも…」
その声は、地下室の奥から聞こえてきた。陽一は耳を疑ったが、その声は確かに彼の名前を呼んでいた。恐怖に震えながら、彼は地下室を駆け上がろうとしたが、足元が重く、まるで誰かに引き寄せられるかのように感じた。
その時、地下室の扉が不気味に閉まり、陽一は振り返ると、もう一つの顔が壁から現れた。その顔もまた、陽一をじっと見つめており、その目からは一切の感情が読み取れなかった。顔がだんだんと近づき、陽一は恐怖で動けなくなった。
その瞬間、地下室の中から大きな足音が響き、何かが彼に向かって急速に近づいてきた。陽一はとっさに振り向いて階段を駆け上がり、地下室の扉を必死に開けようとしたが、扉は固く閉ざされたままだった。
「返して…」
その言葉が耳元で聞こえ、陽一はもう限界だった。次第に視界が暗くなり、足元がふらつく。彼はそのまま倒れ込み、地下室の中に閉じ込められた。
その後、陽一の家はそのまま放置され、誰も住むことはなかった。家の前には、誰かの足跡が続いていたが、それを辿る者はいなかった。
そして、地下室の扉には再び鍵がかけられていた。
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