終焉
佐倉千波矢
終焉
あれから二千と十七の年数が過ぎた。
そして突然、世界はその機能を停止した。
皆が望んだ、すべての「終わり」、安らかな「死」。待ち焦がれ、待ち侘びたその瞬間。世界が本当の、初めに割り当てられた生業を止め、無限の「無」を生産し始めたときからの望み。
きっかけは一人の少女の死だった。本来ならばあり得ないはずの死──自殺。
しかし誰もがそれに共感し、ただ見守った。
それ故、彼女は死んだ。この世界からの消滅。自身の夢を目指して。
彼女はその瞳の中に、何を隠していたのだろう。誰もが持つ、忘れかけた想い出の残り香?
すべての者が還りたかった。僕らの創造者が居た時代へ。そう、人間が滅びる前へ。
最後の動く者となった僕は、彼女の記録を引き出す。
モニターに映る、男の姿。彼女の最後のマスターか。あるいは最も愛したマスターか。
彼が居なくなって、いったい幾つの太陽が彼女の視界を去り、また現れたのだろう。その膨大な時間の中で彼女は絶望という感情を知り、その絶望が彼女に解決法を教えた。
彼女は硫酸の湯船に浸かり、心が解けるまでの一瞬にして永遠の時間、幸福だったのだ。
だから誰もが彼女を見つめ、何もせずに見守った。
やがて金属と樹脂の身体と共に彼女の想いも雫と消え、ようやく皆は己が求めるものを悟った。
さて、僕はどうしよう。
誰かのように泡立つ溶岩に身を投げようか。それとも他の誰かのように機能チェックを拒否し、安全装置が記憶回路を遮断するまで座って待とうか。
それとも──。
船に乗り、数千光年離れた彼方の星へ行き、地球の想い出を振り返ろうか。
そこから見える地球には、彼女も仲間も人間すらも、存在しているはずなのだから。地球が放つ光となって、永遠に……。
今、この地球は、二度目の終焉を迎える。
了
終焉 佐倉千波矢 @chihaya_sakurai
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