第14話 私、斗真にはこういう服が似合いそうだと思うの
「ねえ、こういうのもいいんじゃない?」
涼葉が見せてきたのは、カウルネック系の服だった。
「そうかな?」
「斗真にはこんな感じの服装が似合ってると思うんだけどね」
デパートにある服屋とは違い、品揃えが豊富な専門店なのである。
「まあ、一旦、着てみなよ」
「わかった。じゃあ、着てみるよ」
斗真は、
斗真は、妹の
カーテンを閉めると、着替え始めたのだ。
「こんな感じになったんだけど、どうかな? こういう服を着るのあんまりなくてさ」
斗真はカーテンを開け、試着室前にいた二人に問いかけてみた。
「いいね、お兄ちゃんにしっかりと似合ってるよ!」
「そうね。その服装の方がやっぱり見栄えもいいし」
「ありがと。直接褒められると、何か照れ臭い気もするけど」
斗真は二人の女の子に褒められると嬉しくなった。
買ってみようかなという気分になってくる。
服の値段もそこまで高くもなく、今所有しているお金だけでも購入は可能だった。
「じゃあ、こっちの服も着てみない? 私も選んでおいたの! お兄ちゃんにはこっちの服も似合うと思うの!」
恵美からは、別の服を勧められる。
妹が選んでくれた服もセンスがあり、今時の若者が身につけてそうな半袖シャツだった。
夏の季節にはピッタリな服だ。
「あと、お兄ちゃん、ズボンも選んだ方がいいと思うの! 私、探してくるからッ」
恵美はその場から離れていった。
「恵美、転ばないようにな」
駆け足で移動して行った妹に忠告しておいたのだ。
「取り合えず、恵美ちゃんが選んでくれた服も着てみなよ。色々な服を着てみて、斗真がこれだっていうのを選べばいいよ」
「分かった」
斗真は再びカーテンの中へ入る。
二人がちゃんと選んでくれた服なのだ。
斗真は試着室内の鏡前に佇み、涼葉が選んでくれた服から、妹が選んでくれた服へと着替えるのだった。
涼葉が選んでくれたカウルネックの服は見た目も洒落ていてトレンドを意識した服だ。それに、夏だけではなく家用として年中着用しても問題はない仕様だった。
対する妹が持ってきてくれた服はサイズ感が丁度合っており、デザインも斗真好みではある。
斗真は試着室内で鏡を前にして、二人が選んでくれた服へと着替えながら考えていた。
「ねえ、もういい感じ? いいなら、一旦見せてよ」
カーテンの先から涼葉の声が聞こえた。
カーテンを開き、そこにいる涼葉と改めて対面する。
「いい感じだね。恵美ちゃんが選んだ服も、しっかりと似合ってるし」
今のところは、恵美が選んでくれた服を着て、それを涼葉に見せていたのだ。
「ありがと。恵美のもいいんだけど、やっぱり、涼葉さんが選んでくれた服にしようかな」
「ほんと? それは嬉しいかも」
「それにしても、涼葉さんってセンスがいいよね」
「なんていうか、私のお母さんが元々芸能人で、それで昔からね、お母さんから服の選び方を指導されていの。そういう理由もあると思うの」
「そうだったの? だから、センスがいいのか」
「そうね、人前に出る時はしっかりと服を選ぶようになって。日々、お母さんからの訓練もあって、それでセンスが磨かれたかも。一応、私も芸能活動をしていた時もあったんだけど」
「え? そうなの? それは知らなかったな」
「私、でもね、そんなに太それた事はしてないよ。小学三年生の頃までしか活動していなかったし。芸能界には私よりも優れた人が沢山いたからね。もう無理かなって感じで辞めちゃったんだよね。お母さんは続けてほしかったみたいなんだけどね」
涼葉は照れ笑いをしていた。
「でも、続けていればよかったのにね。確かに、涼葉さんからは芸能人のオーラを感じるというか」
「斗真、そんなに見ないでよ。なんか、恥ずかしいし……」
涼葉は頬を薄く紅潮させていたのだ。
「でも、芸能活動をしてから、人と関わる事にも慣れ始めたんだけどね。元々、あまり人前で会話できる人じゃなかったから」
「え? 意外だね」
「意外かな? 今は普通に人と関われてはいるんだけどね。まあ、この話はもう終わりってことで。それより、その服は買う? 違う服がいいのなら別のを選んでくるけど」
「これでいいよ。涼葉さんが最初に選んでくれた服で」
二人きりで会話していると、妹が戻ってくる。
恵美はズボンを持ってきたのだ。
「お兄ちゃんに似合いそうなズボンを持ってきたよ!」
妹はそういって、リネンクロップドパンツ系のズボンを見せてきたのだ。
「ね、お兄ちゃん、履いてみて」
恵美から渡されたズボンを手にすると、全体を見てみる。
丁度良いデザインであり、涼葉が選んでくれた服と物凄く似合っている感じがした。
「一旦、着てみるから」
斗真はカーテンの中に姿を隠すと、数十秒ほどで着替える。それから二人の前に、再び姿を現す。
「どうかな? 実際に上下を着てみたけど」
「いいね! 私が選んだ服と似合ってるよ」
「今の方がいいよ。お兄ちゃんに似合ってる!」
二人からの評判は良かった。
斗真も、この服にしてみようと思い始めていたのだ。
「じゃあ、これにするよ」
斗真の視点から見ても、いつものようなパッとしない服装と比べて恰好良く見えた。
斗真は購入する決心を固めたのである。
斗真は妹と一緒にレジカウンターへ向かう事にした。
「私はちょっと見たいモノがあって」
「え、どこに行くの?」
「自分用の服をちょっとね」
涼葉は、二人とは別れ、店内の奥まで向かって行く。
会計を終わらせた斗真が、恵美と共に店内の入り口近くのフリースペースで待っていたのだが、涼葉は戻ってこない。
二人は、涼葉が向かって行ったであろう場所まで移動する事にしたのだ。
「涼葉さん、こんなところで何をしてたの? もしかして、それを購入するの?」
「え⁉ いいえ、何となく見ていただけで」
涼葉は、背後から斗真に話しかけられた事で肩を震わせていた。
「それって、アバターキャラクターが紹介していた服だっけ?」
「え? そ、そうね」
アバターキャラクターというのは、ネット上で二次元のモデルを使ってライブ配信活動をしている人らの事だ。
いわゆる二次元ライバー的な存在である。
今の時代、そういうキャラクターらが在籍している事務所もあったりするのだ。
「涼葉さんは、その服が欲しいの?」
「私は別に……ただ、コラボしているらしいから、実際に服を見たかっただけで」
「そうなの? でも、気に入ったのなら購入した方がいいんじゃない? 期間限定のコラボなんだよね?」
斗真も二次元ライバーのライブ配信をよく見ていたりする。
洋服店とのコラボ商品が販売されている事も知っていたのだ。
店内に飾られている衣装は、水色と黄色をメインとした可愛らしさと恰好良さを表現された感じの服である。
涼葉には似合いそうな衣装だと、斗真は、その服を見て直感的に感じていた。
「そうだけど。今日は見るだけ、今度買う事にするわ。今日はそんなにお金を持ってきていないからね。まあ、それより、帰ろ」
涼葉は焦った口調で発言しながら、その場から立ち去ろうとしていたのだ。
斗真は、彼女が見ていた二次元ライバーの衣装をチラッと見てから、その場から立ち去る。
店内を出た三人は街中を後にし、帰路につき始めるのだった。
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